「高倉くんって、優しいんだね」
菓子袋がひしゃげる音と田中さんの言葉で、僕の意識はようやくこの場所へと戻ってくる。
「それでね。家に引きこもってるのもあれだから、動画配信してるんだ」
そう言って、田中さんは無邪気に動画配信について話し始めた。
詳しく訊いてみると、どうやら彼女は顔出しをせずオリジナルのキャラクターに声を吹き込んで活動しているらしい。
「Vtuberっていうやつ?」
「ライブ配信もしてるよ」
話題のゲーム実況やスポーツ中継のライブ配信、時には視聴者からの質問にも答える雑談形式の生放送まで。診断書をもらておきながら、彼女は精力的に活動していた。
しかもそのアバター名が”人生詰子”というわかりやすい超陰キャの幽霊キャラという設定だと聞いて、彼女はこの先よくない方向に行くのではないかと心配した。
同志である以上、一応は確認しておかなければならない。
「復帰できそう?」
「……わからない。何度か会社に行こうとしたことはあるけど、決まって体調が悪くなるの」
「部署を変えてもらうとかは?」
「今のところは、考えてない……」
隠れて動画配信なんてしているくらいならさっさと会社に復帰しろ、なんて思う奴もいるだろう。僕もそういう気持ちが完全に無い訳ではない。
居心地が良いオンラインの空間。田中さんは、僅ではあるものの、お金という対価も配信によって手に入れていた。そのことに対し、嫉妬の感情を抱いていないのかと言われれば、嘘になる。
けれど、あんなに嬉しそうに話してくれるその姿を見せられてしまったら。
味方になってあげなければと、錯覚する。
「会社の人には内緒にしていて欲しいんだ」
「どうして?」
「だって、休んでるのにこんなことしてるは……」
一応は後ろめたいことだ思っているようだ。
「わかった。約束する」
「ありがとう」
それでも、続けることで大きなリスクが伴う。
「この先どうするつもりなの?」
「……わからない。どうしよう」
学生時代は冷静で、誰に対しても明るく振る舞っていた。
成績優秀で将来は海外で仕事がしたいと大それたことを言い、目標に向かって自分にプレッシャーをかけていた。
そんな彼女からはいつも本気さが伝わって、僕らはいつしか田中佳という人間のファンになっていた。
そんな彼女が、目の前で途方に暮れている。
菓子袋がひしゃげる音と田中さんの言葉で、僕の意識はようやくこの場所へと戻ってくる。
「それでね。家に引きこもってるのもあれだから、動画配信してるんだ」
そう言って、田中さんは無邪気に動画配信について話し始めた。
詳しく訊いてみると、どうやら彼女は顔出しをせずオリジナルのキャラクターに声を吹き込んで活動しているらしい。
「Vtuberっていうやつ?」
「ライブ配信もしてるよ」
話題のゲーム実況やスポーツ中継のライブ配信、時には視聴者からの質問にも答える雑談形式の生放送まで。診断書をもらておきながら、彼女は精力的に活動していた。
しかもそのアバター名が”人生詰子”というわかりやすい超陰キャの幽霊キャラという設定だと聞いて、彼女はこの先よくない方向に行くのではないかと心配した。
同志である以上、一応は確認しておかなければならない。
「復帰できそう?」
「……わからない。何度か会社に行こうとしたことはあるけど、決まって体調が悪くなるの」
「部署を変えてもらうとかは?」
「今のところは、考えてない……」
隠れて動画配信なんてしているくらいならさっさと会社に復帰しろ、なんて思う奴もいるだろう。僕もそういう気持ちが完全に無い訳ではない。
居心地が良いオンラインの空間。田中さんは、僅ではあるものの、お金という対価も配信によって手に入れていた。そのことに対し、嫉妬の感情を抱いていないのかと言われれば、嘘になる。
けれど、あんなに嬉しそうに話してくれるその姿を見せられてしまったら。
味方になってあげなければと、錯覚する。
「会社の人には内緒にしていて欲しいんだ」
「どうして?」
「だって、休んでるのにこんなことしてるは……」
一応は後ろめたいことだ思っているようだ。
「わかった。約束する」
「ありがとう」
それでも、続けることで大きなリスクが伴う。
「この先どうするつもりなの?」
「……わからない。どうしよう」
学生時代は冷静で、誰に対しても明るく振る舞っていた。
成績優秀で将来は海外で仕事がしたいと大それたことを言い、目標に向かって自分にプレッシャーをかけていた。
そんな彼女からはいつも本気さが伝わって、僕らはいつしか田中佳という人間のファンになっていた。
そんな彼女が、目の前で途方に暮れている。