夜11時から開始する夜勤は、半年を過ぎた今も慣れることはない。

夜勤の週は3週間おきの頻度で回ってくるため、週の初めの方は身体が慣れれず、1日中頭がぼーっとする。


「相変わらず眠そうだな」

「おはよ」


昼夜を問わず出勤時の挨拶が「おはよう」であることに最初こそ違和感を抱いたが、そんなものはすぐに慣れてしまった。

ロッカーに行くと、同じ保全班に配属された館山が先に着替えている。

館山は僕より背が高く、作業着を着ているとすらっとしているように見えるのに、インナー1枚になると筋肉のボディラインがくっきりと浮かび出ている。

端正な顔つきに高そうなフレームの眼鏡の組み合わせは、隣にいる僕より全てが優れていると錯覚しそうになる。

そんな館山は、僕とは違って計画的に動くことができる人間でもある。

高一の時から付き合っている同級生の彼女とは20歳になったら結婚し、子供は3人欲しいらしい。休日は子育てがしやすい環境を探し、そこに引っ越す準備も整え始めている。

そして家族を養うためになるべく早く出世したいと、貪欲な姿をいつも上司に見せている。


「月曜日の夜勤は一日中起きてることになるからね。館山は眠くないの?」


同じ年齢なのにどうしてこうもしっかりしているんだ。なんて思いながら、気の抜た言葉を返すので精一杯だ。


「夕方から仮眠を取ってるから平気。高倉もそうすりゃいいじゃん」

「また寝過ごしてしまいそうだから、やめておくよ」


交替勤務が始まって間もなく、盛大に寝坊してしまったことがあった。

たしかあの日の前日、妹の調子が悪いと実家から連絡があったから、帰省をしていたのだ。

妹は身体が弱く、年に数回季節の変わり目に大きく体調を崩す。幸い今回は風邪を(こじ)らせただけだったが、母の仕事の繁忙期と重なり連日会社に泊まり込みをしていたため、僕が妹の看病をした。

仕事にも慣れていなかったし、実家と会社の行き来にも疲れていた。困憊した僕は月曜日の夕方にようやく寮に帰宅すると、夜勤まで仮眠を取ろうとしたのだが、目覚ましをセットする前に寝落ちしてしまった。

気が付くと深夜1時を回っていて、慌てて上司に連絡をした。もちろん初めはかなり機嫌が悪そうにしていたが、事情を説明すると意外にもすぐに納得してくれたみたいで、その日は有給扱いにしてもらった。

次の日出勤すると、なぜか班員全員が僕が遅刻した理由を知っていて、謎に励ましの声をかけてもらった。

職場の人間に家庭事情が筒抜けになっていることに違和感を抱いたが、もとはといえば、寝過ごした自分が悪いからその罰だと言い聞かせた。

館山は一足先に着替えを終えると、わざわざ僕を待っている。こいつはいつもそうだ。