「大友さん!」

外に出ると、大友さんは「その人万引き犯です!警察呼んでください!」と、力の限り叫びながら犯人を追っていた。

僕は大友さんを追う。周囲にいた人は状況が飲み込めていないようで、ただ傍観しているだけだった。

火事場の馬鹿力なのか、それとも運動神経がよすぎるのか、大友さんはみるみる犯人に追いついていく。

そして犯人は曲がり角から出てきた通行人にぶつかり、軽く吹っ飛んだ。

向かいから来た通行人はアメフトかラグビーをしているのかというくらい体格のいい男性だった。

痛がっている犯人が抱えている鞄に大友さんが飛びつく。


「こいつ……!離せ!」


犯人は大友さんの髪を(つか)み、鞄から引き離そうとする。


「嫌!この人万引き犯です!誰か!」


大友さんは髪を引っ張られようが殴られようが、絶対に鞄から手を離さない。エプロンはもう布切れのようになっている。


「お前!女の子に何してる!」


そう言って通行人の男性が(いと)容易(たやす)く犯人を大友さんから引き剥がした。


「そいつ万引き犯です!そのまま捕まえててください!」


ようやく追いついた僕がそう叫ぶと、大柄な通行人が暴れる犯人を鮮やかに()ぎ倒し、羽交締(はがいじ)めで抑える。

唸る犯人を2人がかりで取り押さえると、大友さんは歯を食いしばりながら犯人を睨みつけた。その目には涙が(にじ)んでいた。

意外にもサイレンの音はすぐに聞こえてきた。誰かが警察に通報してくれていたのだろう。