初日の研修が無事に終わると、僕の元に再び田中さんが訪れた。


「高倉くん、お疲れさま」

「お疲れ」


筆記用具と資料を鞄に入れながら、僕は弱々しく返事をする。これから明日までに提出する課題をこなさないといけないなんて、これじゃ学生時代と何も変わらないじゃないか。

書類の中には配属先の希望調査もあったから、僕はついでに訊いてみる。


「田中さんはどこの部署を希望するの?」

「私は生産ブロック。現場で技術を身に付けておけば、後々海外支援ブロックに転属できるって聞いてたし」


父親のように海外で活躍するのが夢だと言っていた田中さんは、今もぶれていなかった。


「蒼くんは?」


答えに窮する。

僕は田中さんのように将来なりたい像とかありたい姿とか、そんなものは皆無(かいむ)だ。

安定して給料を得ることさえすれば、どこでもいい。強いて言えば、少しでも給料が増える夜勤がある部署だろうか。そんなつまらないことは、彼女の前では絶対に言えない。


「うーん。明日の部署見学をしてから、じっくり決めようと思ってる」

「希望通りにいかなくても、ジョブチェンジ制度があるからね。じっくり決めれば良いと思うよ」


この会社は年に一度、希望があれば他の部署への転属希望を出すことができると聞いた。

また、この会社は高卒の人間でも研究職や総務職への部署への配属もされている実績もある珍しい会社だった。次世代の若手を育てる意味合いがあるらしいが、単に人材不足だということだとは思うが。