高校を無事に卒業した僕は、普段より少し長めの春休みを過ごした。

在学中に卒業旅行の行き先を決めている奴らもいたが、僕には浮かれている暇はない。ガラリと変わる生活の準備に追われるだけで、自由に過ごせる時間やお金はほとんど残っていない。

その一つが、自動車免許の問題だ。

暁高校では内定が決まった者から自動車教習所に通うことは許されていたが、本面試験は高校卒業後でなけれならないという決まりがあった。

卒業式から入社式までは2週間程しかなく、その間に本試験を合格しておく必要があった。楽勝だと思われていた筆記試験は教科書に載っていない問題が多く出題され、僕を含むほとんどの人間は2回も落とされてしまった。

また、自宅から少し離れた位置にある社宅への引越しも、僕の学生としての最後の時間を容赦(ようしゃ)なく奪った。

社宅はアパートのような集合住宅。遠方から就職にやってきた同年代の同期も多く入居してきたから、学生寮のように思えた。

一人暮らしをするのは初めてだったから、家具や家電なども揃える必要があり、これらの費用は全て在学中にアルバイトをして貯めたお金で(まかな)った。

とにかくうちにはお金がなかった。免許の取得費用も含め、総額約40万円。世の中で生きるには、初期投資にこんなにもお金が必要なのかと絶望した。

僕はなるべく社宅周りの環境に早く慣れておきたかったから、慌ただしく新生活をスタートさせた。