しばらくすると、一ノ瀬さんが注文した料理を運んできてくれた。
「大変お待たせしました。キノコソースオムライスです」
気まずそうに軽く会釈をする大友さん。それを見て挙動る一ノ瀬さん。ひょっとして、2人を鉢合わせさせない方がよかったのでは。
一見上手いってそうな女子のグループでも、それは仮初に過ぎず、職場や学校を離れると犬猿の仲になる。そんなことをどこかで聞いたことがある。まさに今、そうなのでは。
「えっと、高倉さんが野菜サンドですね」
「ありがとう。今日はお客さんが多くて大変そうだね」
「はい。でも、もう少しすれば郁江さんの旦那さんが来てくれるので、大丈夫です」
「そっか。頑張ってね」
「はい。食後のドリンクもすぐにご用意するので、いつでも呼んで下さい」
ぺこりと頭を下げた一ノ瀬さんが席を離れようとすると、突然大友さんが立ち上がった。
「一ノ瀬さん!あたし、訊きたいことがあります。お仕事終わったらここに来て下さい」
まるで挑戦状を叩きつけるかのようなその言い方。心の中で、また恥ずかしい思いをするぞと忠告だけしておく。
案の定、どこかから失笑する声が聞こえていたが、幸い彼女の耳には届いていないようだ。
1時間程経過した頃に、仕事がひと段落した一ノ瀬さんも合流した。
休日の店内はまだざわついているが、郁江さんの夫である誠司さんが、一ノ瀬さんに替わって接客に入ってくれているみたいだ。
誠司さんもまた、いかにもマイペースで優しそうな見た目をしている。夫婦というものは長年連れ添ってくると、性格も雰囲気も似てくるのだろうか。
一ノ瀬さんが僕と大友さんのどちらの隣に座ろうかで悩んでいると、大友さんがどうぞと言って隣の席を差し出した。目がちょっと座っているが、大丈夫だろうか。
「失礼します。あの、本当にわたし、お邪魔して良かったでしょうか?」
「もちろんです。というか、呼んだのはあたしですし」
選択肢がなくなった一ノ瀬さんは、一礼をしてから大友さんの隣の席に収まる。
一ノ瀬さんはさっきまでの店員スイッチが消えてしまったみたいで、いつもの謙虚な状態に戻っている。こちらから2人を眺めていると、大友さんが上司で、一ノ瀬さんが部下のようにも見えた。
大友さんは、僕が初めて海猫堂で一ノ瀬さんと会った時と同じような質問を一通り終えると、唐突に僕を巻き込み始めた。
「一ノ瀬さんと蒼さんって、付き合ってるんですか?」
「なんでそうなるの?」
大友さんも一応は女子高生であるため、やはりこういう話題で盛り上がりたいのだろうか。ただ、こういう話題は向いていないと思っているのは、多分一ノ瀬さんも同じだろう。
「だって、めっちゃ仲良さそうに話してたじゃないですか。一ノ瀬さん、バイトの時あたしと全然喋らないのに」
口にしていたコーヒーを吹き出してしまった。ひょっとして一ノ瀬さんと仲良くなりたかったのか。
「バイトの時は仕事中だから、仕方がないんじゃないかな。ね、一ノ瀬さん」
「え?あ……はい」
欲しかった答えが返ってこなかったのか、大友さんは納得がいかないような表情をしながら、僕と一ノ瀬さんの顔を交互に見てから、レモンティーを啜る。
「本当に付き合ってるとかじゃないんですね」
「はい」
一ノ瀬さんがそう言うと、大友さんが小声で「ならいいんですけど」と呟いてから、
「一ノ瀬さん、かもめ書店で働いている時より雰囲気が全然違いますよね」
と言った。
「えっと、やっぱりそう見える、よね」
「かもめ書店で働いている時は、力を抜いているように見えます」
どうしてこう大友さんは、思ったことをそのまま口にするのだろう。
失礼な質問には無視する権利がある。なのに一ノ瀬さんは、あっさりとそのことを認めるどころか、丁寧に説明をしてくれた。
正直僕もそのことについて気になってはいたから、これ以上は止めなかった。
「大変お待たせしました。キノコソースオムライスです」
気まずそうに軽く会釈をする大友さん。それを見て挙動る一ノ瀬さん。ひょっとして、2人を鉢合わせさせない方がよかったのでは。
一見上手いってそうな女子のグループでも、それは仮初に過ぎず、職場や学校を離れると犬猿の仲になる。そんなことをどこかで聞いたことがある。まさに今、そうなのでは。
「えっと、高倉さんが野菜サンドですね」
「ありがとう。今日はお客さんが多くて大変そうだね」
「はい。でも、もう少しすれば郁江さんの旦那さんが来てくれるので、大丈夫です」
「そっか。頑張ってね」
「はい。食後のドリンクもすぐにご用意するので、いつでも呼んで下さい」
ぺこりと頭を下げた一ノ瀬さんが席を離れようとすると、突然大友さんが立ち上がった。
「一ノ瀬さん!あたし、訊きたいことがあります。お仕事終わったらここに来て下さい」
まるで挑戦状を叩きつけるかのようなその言い方。心の中で、また恥ずかしい思いをするぞと忠告だけしておく。
案の定、どこかから失笑する声が聞こえていたが、幸い彼女の耳には届いていないようだ。
1時間程経過した頃に、仕事がひと段落した一ノ瀬さんも合流した。
休日の店内はまだざわついているが、郁江さんの夫である誠司さんが、一ノ瀬さんに替わって接客に入ってくれているみたいだ。
誠司さんもまた、いかにもマイペースで優しそうな見た目をしている。夫婦というものは長年連れ添ってくると、性格も雰囲気も似てくるのだろうか。
一ノ瀬さんが僕と大友さんのどちらの隣に座ろうかで悩んでいると、大友さんがどうぞと言って隣の席を差し出した。目がちょっと座っているが、大丈夫だろうか。
「失礼します。あの、本当にわたし、お邪魔して良かったでしょうか?」
「もちろんです。というか、呼んだのはあたしですし」
選択肢がなくなった一ノ瀬さんは、一礼をしてから大友さんの隣の席に収まる。
一ノ瀬さんはさっきまでの店員スイッチが消えてしまったみたいで、いつもの謙虚な状態に戻っている。こちらから2人を眺めていると、大友さんが上司で、一ノ瀬さんが部下のようにも見えた。
大友さんは、僕が初めて海猫堂で一ノ瀬さんと会った時と同じような質問を一通り終えると、唐突に僕を巻き込み始めた。
「一ノ瀬さんと蒼さんって、付き合ってるんですか?」
「なんでそうなるの?」
大友さんも一応は女子高生であるため、やはりこういう話題で盛り上がりたいのだろうか。ただ、こういう話題は向いていないと思っているのは、多分一ノ瀬さんも同じだろう。
「だって、めっちゃ仲良さそうに話してたじゃないですか。一ノ瀬さん、バイトの時あたしと全然喋らないのに」
口にしていたコーヒーを吹き出してしまった。ひょっとして一ノ瀬さんと仲良くなりたかったのか。
「バイトの時は仕事中だから、仕方がないんじゃないかな。ね、一ノ瀬さん」
「え?あ……はい」
欲しかった答えが返ってこなかったのか、大友さんは納得がいかないような表情をしながら、僕と一ノ瀬さんの顔を交互に見てから、レモンティーを啜る。
「本当に付き合ってるとかじゃないんですね」
「はい」
一ノ瀬さんがそう言うと、大友さんが小声で「ならいいんですけど」と呟いてから、
「一ノ瀬さん、かもめ書店で働いている時より雰囲気が全然違いますよね」
と言った。
「えっと、やっぱりそう見える、よね」
「かもめ書店で働いている時は、力を抜いているように見えます」
どうしてこう大友さんは、思ったことをそのまま口にするのだろう。
失礼な質問には無視する権利がある。なのに一ノ瀬さんは、あっさりとそのことを認めるどころか、丁寧に説明をしてくれた。
正直僕もそのことについて気になってはいたから、これ以上は止めなかった。