その後再開した僕の講座はスムーズに進めることができたが、突然大友さんのお腹が鳴ったところで中断する。時計を見ると、お昼を過ぎていた。
そこであらためて熱心にノートに取っている大友さんに対する申し訳なさや腹の底に溜まっていたものを教える気持ち悪さが綺麗に無くなっていることにようやく気が付いた。
「なんでも好きなもの頼んでいいよ」
「え、本当ですか⁉︎」
大友さんは通常のメニューには目もくれず、季節限定メニュー表のキノコソース仕立てのオムライスを指差した。1000円以上のランチメニューを指されて少し後悔したが、いまさら後には引けない。
帳尻合わせのために、僕はその半分くらいの値段の野菜サンドを選んでおく。
「注文ボタンがないんですけど、どうすれば良いんですか?」
大友さんはそう言って、きょろきょろとテーブルを見渡す。
「直接呼べばいいんだよ」
「あ、そっか。すみませーん!キノコソースオムライスと野菜サンド一つずつお願いしまーす!」
突然何を思ったのか、大友さんはいきなりカウンターに向かって注文をぶっ放した。
「はーい!ちょっと待ってね!」
にも関わらず、カウンターで料理を作っている郁江さんは笑顔で返事をしてくれた。店内は適度に混み合っており、いくつかのテーブルからは笑いを堪える声が聞こえてきた。
「ちょ、大友さん、いきなり注文するのはまずいって」
「え、でも、直接って」
きょとんとしている大友さんは、本気で何が悪いのかを理解していないようだった。
「呼ぶだけだって。店員さんがテーブルに来てくれるから、叫んで注文しなくても大丈夫だよ。これからオムライスを食べることを宣言しているみたいじゃん」
「え……あ……早く言ってくださいよ……もう」
ようやく自分のしたことに気が付いたみたいで、大友さんは耳まで顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「呼び出しボタンがないお店は初めて?」
「はい、そもそもあんまり外食しないので」
そこまで聞いて、ようやく失礼なことをしてしまったことに気付いた。
「大変お待たせしました」
「へ?一ノ瀬さん、どうして?」
気まずい空気になりかけたところで、一ノ瀬さんがオーダーを取りに来た。驚いたが、これはこれで助かった。
僕らがパソコンの画面に集中している間に、一ノ瀬さんが手伝いに来ていたのだろう。
当然ながら海猫堂に一ノ瀬さんがいることを知らない大友さんは、バイト先以外で一ノ瀬さんにどういう顔を見せればいいのかわからず、ただ困惑していた。
おまけに一ノ瀬さんは、
「キノコソースオムライスと野菜サンドでしたっけ」
なんて言うものだから、
「うわ……さっきの、一ノ瀬さんにめっちゃ聞かれてたんですね。恥っず……」
と完全に恥じらいメーターは振り切ったみたいで、ゴンッという音を立ててテーブルに突っ伏した。多分おでこが赤くなっていると思う。
頭から湯気が出ている大友さんに、とりあえず水分補給をさせようとドリンクの注文も促すと、彼女は僕の提案虚しくホットレモンティーを頼んだ。余計な提案だったか。
混み合っている店内にも関わらず、一ノ瀬さんはてきぱきとオーダーを受けて回っていた。その姿は、書店で働いている時からは想像できないほど手際がいいものだった。
「まさか一ノ瀬さんがここで働いているなんて思いませんでした。蒼さんは知ってたんですか?」
「まあ、ね」
「言ってくださいよ」
「でも、今日ここにいるとは思わなかったよ」
「そんなの言い訳です」
申し訳ないが、項垂れている大友さんを見るのは面白い。ただ、大袈裟に感情を露わにするあたりが、どうしてもあいつに似ている。そう思わずにもいられなかった。
そこであらためて熱心にノートに取っている大友さんに対する申し訳なさや腹の底に溜まっていたものを教える気持ち悪さが綺麗に無くなっていることにようやく気が付いた。
「なんでも好きなもの頼んでいいよ」
「え、本当ですか⁉︎」
大友さんは通常のメニューには目もくれず、季節限定メニュー表のキノコソース仕立てのオムライスを指差した。1000円以上のランチメニューを指されて少し後悔したが、いまさら後には引けない。
帳尻合わせのために、僕はその半分くらいの値段の野菜サンドを選んでおく。
「注文ボタンがないんですけど、どうすれば良いんですか?」
大友さんはそう言って、きょろきょろとテーブルを見渡す。
「直接呼べばいいんだよ」
「あ、そっか。すみませーん!キノコソースオムライスと野菜サンド一つずつお願いしまーす!」
突然何を思ったのか、大友さんはいきなりカウンターに向かって注文をぶっ放した。
「はーい!ちょっと待ってね!」
にも関わらず、カウンターで料理を作っている郁江さんは笑顔で返事をしてくれた。店内は適度に混み合っており、いくつかのテーブルからは笑いを堪える声が聞こえてきた。
「ちょ、大友さん、いきなり注文するのはまずいって」
「え、でも、直接って」
きょとんとしている大友さんは、本気で何が悪いのかを理解していないようだった。
「呼ぶだけだって。店員さんがテーブルに来てくれるから、叫んで注文しなくても大丈夫だよ。これからオムライスを食べることを宣言しているみたいじゃん」
「え……あ……早く言ってくださいよ……もう」
ようやく自分のしたことに気が付いたみたいで、大友さんは耳まで顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「呼び出しボタンがないお店は初めて?」
「はい、そもそもあんまり外食しないので」
そこまで聞いて、ようやく失礼なことをしてしまったことに気付いた。
「大変お待たせしました」
「へ?一ノ瀬さん、どうして?」
気まずい空気になりかけたところで、一ノ瀬さんがオーダーを取りに来た。驚いたが、これはこれで助かった。
僕らがパソコンの画面に集中している間に、一ノ瀬さんが手伝いに来ていたのだろう。
当然ながら海猫堂に一ノ瀬さんがいることを知らない大友さんは、バイト先以外で一ノ瀬さんにどういう顔を見せればいいのかわからず、ただ困惑していた。
おまけに一ノ瀬さんは、
「キノコソースオムライスと野菜サンドでしたっけ」
なんて言うものだから、
「うわ……さっきの、一ノ瀬さんにめっちゃ聞かれてたんですね。恥っず……」
と完全に恥じらいメーターは振り切ったみたいで、ゴンッという音を立ててテーブルに突っ伏した。多分おでこが赤くなっていると思う。
頭から湯気が出ている大友さんに、とりあえず水分補給をさせようとドリンクの注文も促すと、彼女は僕の提案虚しくホットレモンティーを頼んだ。余計な提案だったか。
混み合っている店内にも関わらず、一ノ瀬さんはてきぱきとオーダーを受けて回っていた。その姿は、書店で働いている時からは想像できないほど手際がいいものだった。
「まさか一ノ瀬さんがここで働いているなんて思いませんでした。蒼さんは知ってたんですか?」
「まあ、ね」
「言ってくださいよ」
「でも、今日ここにいるとは思わなかったよ」
「そんなの言い訳です」
申し訳ないが、項垂れている大友さんを見るのは面白い。ただ、大袈裟に感情を露わにするあたりが、どうしてもあいつに似ている。そう思わずにもいられなかった。