「大友さんは、僕みたいな生き方を目指してるの?」


長々と自分のことを説明するのは面倒だったし、これ以上彼女に余計な希望を持たせるのは嫌だった。だからもしその通りだと言われれば、やんわりと辞めておくよう示唆(しさ)するつもりだった。

けれど大友さんは神妙な面持ちになり、


「誰にも頼らずに生きたいんです。なるべく早く……」


と言った。

何か事情を抱えている。そう思ったが、これ以上詮索(せんさく)するのは野暮だと思った。


「そういえば、将来小説家になりたいんだったよね。卒業後はどこの大学を目指してるの?」

「あたし、大学には行くつもりありません」

「じゃあ、就職するの?」

「いえ、就職もしません」

「え?」

「生活するだけで精一杯なので、大学には行きません。それに、会社に就職すると、周りの人に迷惑もかけちゃうと思います」


彼女は決して仕事ができないわけではなかった。確かに最近感情的になって仕事が乱雑になることはあるけれど、むしろ要領は僕よりもいい。そんなに自分を卑下(ひげ)しなくても。


「迷惑?」

「集団生活が苦手なんです。よく周りの人からうざがられるので」


これ以上詮索(せんさく)はしない。深入りはしない。そう何度も唱える。


「あー、そっか。なるほど。じゃあ高校卒業したらどうするの?」

「今のバイト先で働きながら、小説家を目指します。小説家になるのに学歴は必要ないじゃないですか」

「そうだけど、随分ハードル高くない?」


なれるかどうかわからない小説家を憧れるのは大友さんらしい。ただ、実際は厳しいと思う。金銭的にも。社会的にも。なんて僕が言う立場ではないが。


「生活が厳しくなったらバイトのシフトを増やしてもらえるように店長に相談します。それに、蒼さんのようにライターのお仕事も覚えてなんとかします。だから……よろしくお願いします!」


こうもはっきりと切実に、そして都合良く僕を利用すると宣言されるなんて思ってもみなかった。

彼女の人生設計は、なんというか、生き急いでいるというか、表面上は衝動的で無計画のように見える。だけど、それが今の彼女の原動力であるならば、否定することはできない。


「まあ、僕でよければ、できることはするけど」


彼女の勢いに押し負けたのか、僕は頷く。


「ありがとうございます!」


大友さんはまたお店に響き渡るくらい大きな声で言った。