高校生活最後の夏休みが過ぎても、暑さが一向に衰えることはない。

なんて思いながらも十月を過ぎると、今度は一気に冷え込んできて、僕を含む体温調節が間に合わない貧弱な生徒は、授業中に鼻を(すす)る音を奏でる。

この時期になると就職希望の人間は、進学希望の生徒より一足早く緊張から解放される。

ようやく就職試験が終わった。

直前の夏休みではほとんど毎日と言って良いほど進路指導担当のもとに通い、面接と作文の練習に明け暮れた。

就職校でもある暁高校(あかつきこうこう)では、3年間の成績や内申点が優れている者から優先的に希望企業の入社試験を受けさせてもらえることになっていた。

しかも大抵募集先の企業は1校につき1人か2人という採用枠だったから、人気の企業の就職試験を受けたければ、高校入学と同時に成績や内申点を稼いで校内推薦の枠を勝ち取らなければならない。

自分の進みたい道に行くには、常に人より優れていなければならない。

僕らは高校入学後間もない時期に行われた進路希望調査時に、厳しい競争社会の仕組みを刷り込まれた。

戦うしかなかった。

僕は少しでも早く沢山のお金を稼ぎたかった。世界的に有名な大手企業は給料や待遇がいい。もちろんそこに就職希望者が溢れていたのは言うまでもない。