帰り際。言い忘れていた入院のことをユイ先輩に伝えたら、どうやらそのことすらも知っていたらしく「お見舞い行くから」と真顔で宣言されてしまった。
 正直なところ、入院中はあまり会いたくない。
 でも、いつ退院できるかわからない状態では断ることもできなかった。
 付き合った矢先に会うことすらも禁じてしまったら、さすがに報われない。
 いつもは病室のベッドでだらけきっているが、今回はなるべく身綺麗にしておく必要がありそうだ。そんなことを、明後日の方向を見つめながら、ぼうっと考える。

「まあ、入院まではのんびりするかなあ。ってことで帰ろうか、愁」

「……帰ったら、とりあえず母さんの手伝いさせられそうだけど。今日は姉ちゃんの好きなじゃがいものポタージュ作るって張り切ってたから」

「えっ、ほんと? 嬉しい!」

 食せるものが限られている今、とりわけスープ系はご褒美のようなもの。
 味はもう感じられない。嗅覚も、少しずつ鈍ってきている気がする。
 それでもお母さんのじゃがいものポタージュは、胸が温かくなるから好きだ。
 泣きそうになるほど愛情がたんまりと籠っているから、好きだ。

「ねえ、愁」

「なに?」

「いつも、ありがとうね」

 一拍遅れて、愁が振り返ることなく「べつに」とつぶやいた。
 その背中が震えているように見えたのは、きっと気のせいだと思うことにした。