しかし後に続いた言葉は、私の予想していたものとはまったく違っていた。

「興味があるのは、俺の方だ。小鳥遊さんのことならなんでも知りたい。君が見ている世界を見たい。そんなふうに思えば思うほど、溺れていくんだよ」

 ユイ先輩は私と繋いだ手をきゅっと少し強く握った。
 その手はかすかに震えを伴っていて、私は戸惑いを隠せないまま視線を落とす。私よりもずっと大きな手なのに、真冬の海に浸けた後のようにひどく冷え切っていた。

「せんぱ……」

「──俺は、小鳥遊さんのことが好きだから」

 私とユイ先輩を取りこんだ、すべての時が止まったような気がした。
 呼吸すら忘れて、ユイ先輩に射すくめられる。
 さきほどの胸の痛みがふたたびぶり返し、心臓なのか、喉なのかはわからないけれど、灰を詰め込まれたような苦しさを覚えた。
 どこか切なげな色を灯しながら揺れる瞳は、決して人形のものではない。

「……この好きは、君が俺に言う好きと、同じ?」

 まるで迷子の子どものようだった。自分でそれがなんなのかもはっきりしなくて、今も答えを探している。不安のなかで執着地点を見つけようと足掻いている。

「俺の好きは、君と一緒にいたいっていう好きだよ」

 好き。もう何度、先輩に伝えたかわからない言葉なのに。
 そのはずなのに自分が言われる側になってみればどうだろう。
 身体が、心が、焼けるように熱い。溶けてしまいそうなくらい、熱い。
 けれどその一方で、私の頭のなかは氷水を浴びたみたいに冷えきっていく。

「……どうして、そんなに泣きそうなの」

 ユイ先輩の表情が痛みを堪えるように歪んで、私の頬に手が添えられる。

「俺の気持ちは、迷惑?」

 そうじゃない。そうじゃない、と言いたい。
 私も好きだって、同じ意味の好きだって、そう伝えたい。
 けれど、だめだ。
 なにも伝えていないのに、私にユイ先輩の気持ちを受け取る資格はない。

「……ユイ先輩」

 私は頬に触れる先輩の手に自分の手を重ねた。締まりきった喉から無理やり声を押し出せば、それはまるで自分のものではないように掠れていた。

「大事な話があるんです」



 広海水族館を後にした私とユイ先輩は、敷地内の穏やかな散歩コースを歩く。
 海沿いの並木道。耳朶をくすぐるのは、子どものはしゃいだ声。木々の葉が擦れるさざめき。それから、さざ波が堤防に打ちつけられる音。