「……なるほど。わかった、受け取っておく。顧問に渡せばいいんだよね」

「はい、お願いします」

「じゃあ……」

「ところで、活動場所はここですか?」

 被せるように追従された質問。一瞬、思考が追いつかなかった。
 なにせ美術部の部員がはたして今何名いるのかすら、俺は把握していない。
 だが、少なくとも俺以外にまともに活動している生徒を、ここ二年見たことはなかった。うちは基本的に放任主義だし、個人創作に重きを置いているから。
 まあ、がちがちな運動部でもあるまいし、高校の部活なんてそんなものだろう。
 とりわけ美術部のような影が薄い文化部は、入部こそすれ幽霊部員上等だ。強制でもされない限り、実際に部活に顔を出す生徒なんてほとんどいない。
 当の俺だって、部活動を理由に絵を描いているわけではないし。
 しかし一応、表面上の決まりごとはあったはずだ。さて、なんだったか。
 ようやく思考が働くようになってきた俺は、遥か彼方に葬り去られた記憶の欠片からそれらしいものを引っ張り出しつつ、軽く捏造を交えて伝えることにした。

「……活動内容はとくに決まってないよ。描きたいものはみんな違うしね。場所も固定じゃない。時間も自由。好きなときに描いて、好きなときに切り上げればいい」

 実際口に出してみればただの願望で、まったくの捏造であるような気もした。
 だが、実際そんな感じで成り立ってきたのだから問題はないはずだ。仮に間違っていても今の部長は俺だし、それぐらい許されるはずだと都合よく思うことにする。

「ふむ、なるほど。先輩は? いつもどこで活動してます?」

「……俺は、基本的にここだけど」

「おお! じゃあ私も、ここに来ていいですか?」

 にこにこと屈託なく笑いながら、こてんと小首を傾げる小鳥遊さん。なんとも無邪気な反応に面食らって、しかし同時に、どこか落ち着かない気分になる。

「べ、つに、好きにすればいいんじゃない。俺専用の場所ってわけじゃないし」

「やった。ふふ、楽しみ」

「……画材とかは自分で美術室から持ってくる必要があるけど、いいの? 俺みたいに鉛筆一本で済むならまだしも、君は絵具いるでしょ。大変じゃないの」

「大丈夫ですよ。それくらい、どうってことないです」

「──……そう」