すごくつらい。涙が止まらない。けれど、これほどまでに強く死にたくないと思うことができるほど、私はこの世界がとにかく大好きだったのだ。

 ユイ先輩がいるこの世界が。

 ユイ先輩と過ごした時間のすべてが。

 大好きな人がいる。その小さな真実が、私の世界を鮮やかに彩ってくれていた。

「──私、頑張りますから。生きられるだけ生きて、強くユイ先輩の心に棲みつきます。枯れた桜なんて言わせません。私は絶対に、枯れてなんかやりませんから」

「……ん。鈴は、枯れないよ。鈴はいつだって誰より綺麗に咲き誇ってる」

 ほんのわずかに、ユイ先輩の声に涙が混じったような気がした。
 けれど顔を上げて見てみると、少し切なげな表情のなかには思いのほか真剣な色が灯っている。向けられる視線があまりにも熱くて、かすかに呼吸が乱れる。

「……鈴が頑張ってるのは知ってるからさ。俺も頑張らなきゃいけないよね」

「頑張る……」

「美大、受けるよ。スカウトされてるって言っても筆記も実技も試験はあるし、今さら遅いような気はするけど」

「っ……!」

 ああ、よかった。そう心の底から自分が安堵したのがわかった。ユイ先輩がちゃんと生きていくことを決めてくれた。それは、なによりの私の望みだった。
 ともすれば、生きたいという思いよりもずっと、願っていた。

「……先輩なら、大丈夫ですよ。頭いいですし、実技は間違いなく一位通過です」

「いや、そんな世のなか上手くいかないって」

「上手くいかせちゃうのが先輩じゃないですか。私、知ってるんですから」

 大丈夫。確信を持って、そう言える。
 だってユイ先輩は、歩む道を見つけさえすれば、この世の誰よりも強い人だ。
 これほどまでに才に溢れ、世界に好かれた人を、私はほかに見たことがない。モノクロの世界でもそうなのだから、色づいた世界に生きるユイ先輩はもう無敵だ。

「先輩。──春永結生先輩」

 先輩のなかだけの永遠に続く春で、私は、きっと生きていく。
 そうして、枯れずに咲き続ける桜のように、道行を示す羅針盤となろう。

「私の、大切な人」

 だからどうか、ユイ先輩が迷わずに歩んでいけますように。
 どうか、ユイ先輩の世界がもっともっともっと、色づきますように。

「こんな私を世界一の幸せ者にしてくれて、ありがとうございます」

「ううん、こちらこそ。俺と出逢ってくれて、ありがとう」