「あ? なにおまえ、まさかとは思うけど知らないの? 小鳥遊さんも毎年絵画コンクール出してんじゃん。べつに去年に限ったことじゃなくて、ここ数年ずっとさ」
──鈴が……毎年、絵画コンクールに。
「おまえが金賞、小鳥遊さんが銀賞。もう定番だろ」
図らずも思考が停止した。
つまり、鈴が銀賞を取ったのは去年だけではないと。そういうことか?
「それこそ、五年連続銀賞取ってるんじゃね? ……いや待てよ、違うな。たしか一昨年は部門違いだったか。おまえが中学部門から高校部門に移った年に、一回だけ小鳥遊さん金賞取ったことあるんだよ。あれ、めちゃくちゃよかった」
「……ちょっと、待って」
俺は呆然としながらスマホを取り出して絵画コンクールで検索する。飛んだばかりのサイトにアクセスして、これまでの入賞作品のページを呼び出した。
一昨年。中学部門の入賞作品を表示すれば、トップページに表示されたのは。
「……小鳥遊、鈴……」
緑豊かな森林のなかで、ひとりの少女が幻想的に踊っている絵だった。
多くの色を用いる使い方こそ鈴のものだとよくわかるが、描かれているもの、描かれ方はあまり鈴の印象と直結しない。
俺はひとつ前のページに戻り、今度はその前の年のページを開く。トップに表示されたのは自分の絵だ。下にスクロールして、ふたたび言葉を失った。
「……嘘、でしょ」
銀賞。中学二年生、小鳥遊鈴。
今度は一転して、大嵐で荒れ狂う海を俯瞰的に描いたものだった。
激しい波飛沫を上げる海の中央には、沈没しかけている海賊船。暗黒の雲に覆われた空には稲光が主張し、見事な明暗のコントラストが表現されている。全体的に温度が低く、暗度が高い色合いにもかかわらず、細部にはやはり数多く色を用いていた。
表現技術としては、この頃からすでに目を瞠るものがある。
けれど、やはり今の鈴と直結しない。その前の年の絵も同様だった。まったくテーマの異なる絵が、鈴らしい色味で描かれていた。
こんなにも多種多様なものを描ける子だったのか、という驚きと、毎年鈴が銀賞を取っていたという事実の衝撃が交錯して気持ちが追いつかない。
「おまえ、本当に知らなかったのかよ……」
「………………知らなかった……」