放課後の特進コースの教室。
 いよいよ出演者や演出担当、大道具などのスタッフが集まって台本の読み合わせ開始。
 鈴木に沙織、ほかの出演者は台本を手にしている。
 全員が明日香の様子を注目している。
 明日香は胸を張って教壇の中心に立った。クラスメイトの期待した姿。みすぼらしく肩を落とした「地味」で「陰キャラ」「ぼっち」の明日香はそこにはいない。
 ほかのクラスメイトが顔を見合わせる。
 そして明日香は、ほかのクラスメイトと違って、台本を持っていない。

「遠山さん、台本は?」

 演出担当の真弓が声をかける。

「要らない。セリフは全部頭に入ってる」

 明日香の堂々とした口調。明日香のことを笑い飛ばすはずだったクラスメイトは、あてが外れて呆然としている。

「さあ、始めない?」

 沙織がうなずいて笑顔を返した。
 明日香は悠馬と撮ったツーショットを心に再生させた。スマホを手にしなくても、いつも心の目で見ることが出来るだろう。

(朝井くん、君がカッコいいと思ってくれるヒロインになってみせるから)