翌日の昼休憩。明日香はいつものように旧校舎の前のベンチに向った。お弁当は持っていなかった。花壇に目を向けると、ハッとした表情に変わる。そのままベンチに座ると、前を向いたまま、そっと口を開いた。

「朝井くん、いるんでしょう。花壇に水ありがとう。隣に来てよ」

 旧校舎の玄関の奥。悠馬が泣き出しそうな顔で出てきた。
 悠馬の目に涙を見たとき、明日香の心は我慢することをやめた。
 隠すことなく大声で泣いた。その横で、悠馬も慟哭していた。
 ふたりが肩を並べて十分以上泣いていた。
 明日香はハンカチで顔を拭くと、少しだけ笑顔を悠に見せた。

「何があったか知ってるんだね? もしかしたら噂になってるの?」

 悠馬は答えなかった。答える代りにこう言った。

「学校の裏の高蔵寺公園の掃除をしている生徒が何人かいます。遠山先輩を見習って……。僕も参加してます」

 明日香の涙が止まった。これ以上、絶対泣いてはいけない。そんな思いに打たれて、悠馬の顔を見つめる。

「遠山先輩は、僕のヒロインです。クラスカーストのトップなんです」

 悠馬は、一気に叫んで立ち上がった。

「僕ひとりだけじゃ足りないですか?」

 そのまま明日香の前から遠くへ走り去った。
 そのはずが、その場で動けなくなっていた。明日香が悠馬を後ろからしっかりと抱きしめていた。