六時間目は臨時のHR。学園祭のメインイベント、演劇フェスティバルのキャスティングの決定。
 『僕はどうしても君に告白する』という高校を舞台にした恋愛もの。沙織の取り巻きのひとり、寺尾真弓(てらおまゆみ)が執筆し、台本はクラス全員に一冊ずつ配られていた。
 内容はと云うと---
 クラスカーストのトップに立つ新川瑠璃(あらかわるり)にクラスメイトの西条司(さいじょうつかさ)が告白するが、平凡なクラスメイトに過ぎない司を瑠璃はバカにして蔑む。瑠璃の取り巻きや崇拝者の男子生徒から散々ディスられ、イヤがらせをされる司。
 そんな司を陰から慕うおとなしいが心優しい性格、白石麻衣子(しらいしまいこ)。司は麻衣子の気持ちに気がつき、たとえクラスカーストのトップでも心の冷たい瑠璃ではなく、麻衣子と結ばれるという純愛ストーリー。
 ストーリーだけ聞くと、瑠璃が完全なヒールに思えるけれど、実は最後には今までの自分を反省。ラストシーン。司と麻衣子の前に現れて、ふたりにディズニーランドのパスポートを渡して立ち去る。
 出番も見せ場もいっぱいの役。

「では最初は主役の新川瑠璃の役を決めます」

 福島先生が泣きそうな顔でクラス全員を見回す。二十代後半。真面目だけれど、全く威厳のないのが悲しすぎる。まずは立候補。誰も名乗りをあげない。
 推薦になったとき、すぐに結城が手を挙げた。

「遠山さんがいいと思います」

 一番後ろの席の明日香の耳にもハッキリ聞こえる。決して気のせいなんかじゃない。だけどどうして?
 推薦したのが、結城というのは偶然だろうか?空のペットボトルを突きつけられたことを思い出す。
 すぐに三人が手をあげて、三人とも明日香を推薦した。あちこちから歓声と拍手が起こり、クラスカーストトップと真逆のスタンスに立つ明日香が、クラスカーストのトップの女子生徒、新川瑠璃を演じることとなった。
 続いて司と麻衣子の役に移る。
 鈴木と沙織が手を挙げ、拍手のうちに決定した。
 明日香は一番後ろの席で、ブルブルと震えていた。溢れそうな涙を必死でこらえていた。
 「地味」「陰キャラ」「ぼっち」の明日香がクラスカーストのトップの役で舞台に立つ。客席からの爆笑。

「頑張れ、ぼっちさん。陰キャラのトップ!」

 結城たちがヤジを飛ばすことだろう。
 演劇フェスティバルで明日香が演じるのは、ヒロインではなく惨めな笑い者のキャラ。
 沙織がニコニコ笑いながら、そっと明日香の様子を伺っている。
 福島先生がどうしたらよいか分からないまま、教壇に立ち尽くしていた。