ベンチに並んでふたりで話をする。明日香はまだ男子生徒の言葉を完全には信じられずにいる。後で突然、クラスメイトたちがゲラゲラ笑いながら出てきて、
「モニタリング大成功」
と手を叩くんじゃないだろうか?
さて男子生徒の方はといえば、失神からは立ち直ったけれど、相変わらず顔は赤く、極限まで緊張した表情。
明日香は、いつもの無口な陰キャラが少しだけ快活になった。
「朝井悠馬くんだったよね。どうして、私のこと、ストーカーしてたの?」
悠馬は緊張した表情のまま下を向いている。ゴクンと唾を飲み込んで、ゆっくりと口を開く。
「遠山先輩のこと、あこがれてたんです」
「そんな人、絶対いないと思う。本当の理由を教えてよ」
悠馬は下を向いたままだった。
「毎朝、ゴミ拾いのボランティアしています。公園の掃除してるのだって見ました。花壇に水をあげているのも……」
振り絞るように声を出す。ゼーゼー息を吐いている。こんな光景、誰かに見られたら、確かに不審者そのもの。
「すごく……カッコいいと思いました」
明日香は小さく笑った。
「カッコいいかなあ。そんなこと言うの、朝井くんだけだと思う」
明日香は、悠馬の価値基準が一般人とは正反対なんだと考えて納得した。このままでは、自分と同じように不幸になる。明日香は心の底から悠馬の未来を心配していた。
「私のところ、シングルマザーなんだ」
明日香が優しく語りかける。
「何度か生活保護の申請をしたけどダメだった。福祉事務所に行ったとき、女性の担当者がお母さんに言った言葉を今でも覚えている。
『こうなったのも、ご自分の責任じゃないですか?それを行政に押しつけるんですか?』
お母さん、何度もペコペコ頭を下げてた。どうしてシングルマザーになったか、中学のときに教えてもらった。私、お母さんが悪かったとは思わない」
悠馬は黙ったまま、顔を上げた。真剣にまぶしそうに明日香の顔を見つめる。悠馬の真剣な表情を見ていると、この少年に何もかも打ち明けたくなってきた。
「お母さんは、時々、私に見えないように泣いている。だけどね。私、マッチ売りの少女なんかにはなりたくないんだ。冷たい社会かもしれないけど、前を向いて少しずつ世の中をよくしていくヒロインになりたい。そうすれば最後には、きっと私とお母さんだって幸せになれる」
そう言ってから肩をすくめて笑う。
「と、言うことだけはすごいよね。『陰キャラ』で『ぼっち』の女子がね」
ゴミ拾いやボランティアの人たちと公園の掃除、そして親と離れて暮らす子どもたちの施設の慰問……。それが本当に社会をよくすることになるのだろうか? 明日香をヒロインにしてくれるのだろうか?
明日香は結城たちの嘲笑を思い出す。
「クラスではね。ヒロインではなく『地味』で『陰キャラ』で『ぼっち』、そして『清掃業者』だと思われている」
悠馬ったら、これ以上は絶対ムリなくらい真剣な表情で、明日香の話を聞いている。
「そんなことありません」
悠馬が弾かれたように立ち上がった。トートバッグから百枚入りの「消臭ゴミ袋」を出してベンチに置いた。
「ぼ、僕のところも母子家庭です。遠山先輩みたいにカッコよくなりたいです」
そう叫んで明日香の前から走り去った。
明日香は後を追うため立ち上がった。けれども、その必要もなかった。
あわててたのは悠馬も同じ。足がもつれて、あっというまに地面に大の字。明日香は悠馬を助け起こしてベンチまで戻り、ブレザーの汚れを拭き取ってあげた。ティシュで顔の汚れを拭った後、明日香は悠馬がまた意識をなくしていることに気がついた。
つまり、これは二度目の失神ということ。
「モニタリング大成功」
と手を叩くんじゃないだろうか?
さて男子生徒の方はといえば、失神からは立ち直ったけれど、相変わらず顔は赤く、極限まで緊張した表情。
明日香は、いつもの無口な陰キャラが少しだけ快活になった。
「朝井悠馬くんだったよね。どうして、私のこと、ストーカーしてたの?」
悠馬は緊張した表情のまま下を向いている。ゴクンと唾を飲み込んで、ゆっくりと口を開く。
「遠山先輩のこと、あこがれてたんです」
「そんな人、絶対いないと思う。本当の理由を教えてよ」
悠馬は下を向いたままだった。
「毎朝、ゴミ拾いのボランティアしています。公園の掃除してるのだって見ました。花壇に水をあげているのも……」
振り絞るように声を出す。ゼーゼー息を吐いている。こんな光景、誰かに見られたら、確かに不審者そのもの。
「すごく……カッコいいと思いました」
明日香は小さく笑った。
「カッコいいかなあ。そんなこと言うの、朝井くんだけだと思う」
明日香は、悠馬の価値基準が一般人とは正反対なんだと考えて納得した。このままでは、自分と同じように不幸になる。明日香は心の底から悠馬の未来を心配していた。
「私のところ、シングルマザーなんだ」
明日香が優しく語りかける。
「何度か生活保護の申請をしたけどダメだった。福祉事務所に行ったとき、女性の担当者がお母さんに言った言葉を今でも覚えている。
『こうなったのも、ご自分の責任じゃないですか?それを行政に押しつけるんですか?』
お母さん、何度もペコペコ頭を下げてた。どうしてシングルマザーになったか、中学のときに教えてもらった。私、お母さんが悪かったとは思わない」
悠馬は黙ったまま、顔を上げた。真剣にまぶしそうに明日香の顔を見つめる。悠馬の真剣な表情を見ていると、この少年に何もかも打ち明けたくなってきた。
「お母さんは、時々、私に見えないように泣いている。だけどね。私、マッチ売りの少女なんかにはなりたくないんだ。冷たい社会かもしれないけど、前を向いて少しずつ世の中をよくしていくヒロインになりたい。そうすれば最後には、きっと私とお母さんだって幸せになれる」
そう言ってから肩をすくめて笑う。
「と、言うことだけはすごいよね。『陰キャラ』で『ぼっち』の女子がね」
ゴミ拾いやボランティアの人たちと公園の掃除、そして親と離れて暮らす子どもたちの施設の慰問……。それが本当に社会をよくすることになるのだろうか? 明日香をヒロインにしてくれるのだろうか?
明日香は結城たちの嘲笑を思い出す。
「クラスではね。ヒロインではなく『地味』で『陰キャラ』で『ぼっち』、そして『清掃業者』だと思われている」
悠馬ったら、これ以上は絶対ムリなくらい真剣な表情で、明日香の話を聞いている。
「そんなことありません」
悠馬が弾かれたように立ち上がった。トートバッグから百枚入りの「消臭ゴミ袋」を出してベンチに置いた。
「ぼ、僕のところも母子家庭です。遠山先輩みたいにカッコよくなりたいです」
そう叫んで明日香の前から走り去った。
明日香は後を追うため立ち上がった。けれども、その必要もなかった。
あわててたのは悠馬も同じ。足がもつれて、あっというまに地面に大の字。明日香は悠馬を助け起こしてベンチまで戻り、ブレザーの汚れを拭き取ってあげた。ティシュで顔の汚れを拭った後、明日香は悠馬がまた意識をなくしていることに気がついた。
つまり、これは二度目の失神ということ。