お昼の休憩時間。弁当持参のクラスメイトたちは仲間同士で集まり、食堂に行くクラスメイトたちはグループをつくって教室を出ていく。

「鈴木くん、今日は私たちと一緒に食堂に行かない?」

 教室の出入口近くで生徒会長の鈴木とクラスの女子四人が話をしている。

「ごめん、ごめん。一条さんと学園祭の打ち合わせも兼ねて一緒に食事するから」
「ガッカリ」
「でも一条さんじゃ仕方ないか」

 鈴木とつりあいがとれるのは、クラス委員の一条沙織(いちじょうさおり)ひとりだろう。ロングの髪に知的な表情。一メートル八十センチと長身で、スラリとした印象を受ける。クラスメイトの男子の人気は抜群。だがそのうち九割は最初から自分に縁のない人と諦めている。ふたりが正式にカップルになるのは時間の問題という話。
 
「鈴木くん、この前の一斉朝礼での挨拶、カッコよかった」
「一年生に向かって、

『君たち、おとなしすぎるんじゃないか? あまり遠慮せず、いつでも僕ら生徒会役員のところに来て意見を出して欲しい。時間とか場所とかルールはなし。胸を張って色々聞かせてくれ』

 感動した!」

 鈴木のファンの女子生徒たちは、生徒会報告だって聞き逃しはしない。

「恥ずかしいな。やめてくれよ」

 そう言いながら鈴木は、全然恥ずかしい様子も見せない。
 明日香はチラリと彼らの様子を見ながら、弁当箱を持って席を離れようとした。
 そこへクラスメイトの結城と宇野、松下の三人が近づいてきた。いつも鈴木の後ろにくっついているメンバー。机の上には空のペットボトル四本が並べられた。

「頼むぜ。清掃業者さん」

 ハハハハハハハ  アハハハ  フフフ

 複数の笑い声がおこる。一条沙織の取り巻きの女子生徒たちだった。沙織は興味なさそうに前を向いている。
 明日香は黙ってペットボトルをトートバッグに入れた。そのまま足早に教室の出入口に向かった。
 鈴木は横目で明日香の様子を見送った。

「清掃業者が学年一位なんて、許せんな」

 結城が鈴木や沙織に媚びるように話しかける。

「まあ、そんなこと言わず」

 鈴木は口ではそう言っているものの、その声には冷たい響きがあった。
 沙織は微笑を浮かべている。

「それからうちは、学園祭のメインイベント、演劇フェスティバルに参加するんだ。みんな協力してくれよな」

 そう言いながら沙織の方を見る。沙織はクラスメイトを見回し、ニコニコと笑った。