高蔵寺(こうぞうじ)《こうぞうじ》高校といえば、都立の進学校として知られている。
 学校前の大通り。二年特進コースの遠山明日香(とおやまあすか)は、ビニール袋をカバンから出した。食べ終わったお菓子の箱やペットボトル、ストローを挿したままのジュースのパック。目に入ったゴミを、手際よくビニール袋に入れていく。
 ほかの生徒たちは気にも留めず通り過ぎる。
 時々、嘲るような笑いが投げかけられる。
 そしてこの朝、ちょっとした出来事があった。明日香の目の前に、飲料水のペットボトルが放り出された。
 振り返るとクラスメイトの結城がニヤニヤ笑っている。

「頼むぜ、清掃業者さん」

 隣に生徒会会長の鈴木卓也(すずきたくや)がいた。長身で、女子の誰もがイケメンと認めている。明日香と同じ特進コース。

「おい」

 苦笑いして結城に声をかけると、明日香の前から去った。

(恥ずかしいことなんかしていない)

 明日香は心の中で何度もつぶやいた。ペットボトルをビニール袋に入れた。
 そのときだった。明日香を見つめる誰かの視線に気がつき、急いで振り返ってみた。だが明日香の視界は、登校生徒の集団にさえぎられた。最近、登下校、校内を移動するとき、よく感じる視線だった。

(誰かにつけられている?)

 すぐに明日香は気のせいだと首を横に振った。特進コースで成績トップでも、クラスカースト最下層の自分を、わざわざストーカーする人間なんているはずがない。家がお金持ちだと思い込む人間だっていないはず……。
 だがクラスカースト最下層でも、家がお金持ちでなくたって、明日香をストーカーする人間は確かに存在する。
 明日香はまだ、そのことを知らない。
 その人物は、今も明日香の後ろ姿を見送っていた。だが登校中の生徒たちに埋もれてしまい、誰も彼に気がつくことはない。