どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい――こんな自分のことが大嫌いだ。
高校２年生、最初の定期テストは学年１位という優秀な成績を収めた。
だが一位を取ること自体は初めてではない。
一年生の時はほぼ毎回一番で、わたしが上位の成績を取ることは暗黙の了解のようになっていた。
だが、それを褒めてくれるのは先生しかいなかった。
好成績を収めることに不満がある生徒が、わたしに理不尽な嫌がらせをするようになったのだ。
それがクラス中に広まり、２年生になった今でも陰口を毎日のように言われるようになった。
わたしは頭が良いわけではない。
どちらかと言えば頭は悪い方だ。
毎日の努力で何とかなってる。
それをわかってくれないクラスメイトは、
「うざい」
「少し頭が良いからって」
などの悪口を直接言ってくる。
――それが苦しかった。
良かれと思ってやってきていたことが、周りは不快に思っていたことがショックだったのだ。
わたしだって元から頭が良くなりたかった。
こんなに苦しい思いをしながら勉強して、辛かった。
だから認めて欲しい。
悪口だとか、そんな言葉より
「頑張ったね」
この一言が欲しいだけなのだ。
ただ、認めて欲しかっただけなのに。
「それじゃあホームルームを終わります。今日は部活動停止の日なので早々に帰るように」
２年生初のテストがあってから３日。
わたしは部活動に入っていないので、いつものように帰る準備をした。
机の中にある教科書と筆箱、ファイルをバックにしまい、忘れ物がないかチェックをする。
すると、見覚えのない一枚の紙が中に入っていた。
――――――――――
屋上で待ってる
――――――――――
「なんだ、これ」
差出人の名前もなしに、一言だけ。
最初はいたずらかと思ったがそのまま帰るのもなんか、とその場所に行ってみることにした。
カバンを背負い、教室を出ようとしたその時、
「優等生の結奈ちゃ～ん」
誰かが私を呼ぶ声が聞えた。
その声の主はクラスの中心である松山さんの声だった。
「私さぁ、このあと大事な用事があるんだよね。だから代わりに掃除やってくれないかな」
嘘だ。大事な用事なんてないだろと思うわたしは性格が捻じ曲がっているのか。
だが皆から好かれる私になるためには断れない。
「わかった」
「本当にごめんね～。それじゃ、よろしく」
この頼みが嘘だと思うのには理由がある。
松山さんはわたしに陰口を言い始めた、いじめの主犯なのだ。
だからこうやって毎日嫌がらせをしてくる。
今もどこかでわたしのことを笑っているだろう。
でも耐えられなくなるほどのいじめをされてないのが不幸中の幸いだ。
「見て、また結奈掃除やらされてるよ」
「ほんとだ。ウケる」
「雑用係には丁度いいんじゃない？」
何人かが私の方を見て笑っている。
会話も、わざとわたしが聞えるような声で話していた。
これも、耐えなきゃ。
そして一瞬、そちらに気を取られ足元にある水バケツを蹴ってしまった。
「あーあ。何やってんの？」
「服濡れたんですけど、最悪」
「一人で片付けろよ」
「ご、ごめんなさい、」
わたしの声は笑い声と、罵声によりかき消されてしまった。
―――――
掃除を終え、屋上に向かう。
果たして呼んだのは誰なのか。何の目的で呼んだのか。
その疑問が、今 解明される。
「遅くなってごめんなさい、」
ドアを勢いよく開け、そこにいるであろう誰かに謝罪をする。
「おせぇよ。何分待たせるんだ」
そこにいるのはクラスメイトの碇壮真くんだった。
「え、なんでここにいるの」
「手紙読んでねーの？俺がお前を呼んだからここにいるんだけど」
「あ、そういうことじゃなくて……」
碇くんと言えば、クラスの人気者である人だった。
わたしなんかとはカーストが違う。
そんな彼がわたしを呼ぶくらいなのだから、相当嫌なことをしてしまったに違いない。
「どうして碇くんがわたしなんかを呼んだのかなって」
本当は早くここから逃げ出したかった。
きっとまた嫌がらせをされる。
屋上という人目の付かない場所で、何をされるかわからない。
「いや、お前さ。疲れてんだろ」
「――え？」
意外な優しさに、思わず口から言葉が漏れる。
わたしが、疲れている？
いやそんなことはないはずだ。
わたしは周りに自分の心情をあまり出さないようにしているのに。
「この前のテスト、一位だったのにあんなに言われて。悔しくないの？」
「それは……」
『また結奈が一番だよ』
『調子にのってる』
『正直うざいよね』
色んな罵声を浴びされてきた。
でもわたしはどれも耐えれると思っていた。
――けど違ったのかもしれない。
本当は苦しくて、辛くて、誰かに助けてもらいたくて。
そんな自分を隠すために「いい子」を演じる。
本当のわたしはどこにいる？
「……ごめん、私帰るね。確かに疲れているみたいだから。呼んでくれてありがとう」
「おい、ちょっと待てよ！」
碇くんの声も聴かず足早にこの場から立ち去る。
わたしは駄目な人間だ。
この世の中は頭の良さだけでは認められない。
じゃあ何をすれば認められるのか、それはわたしにもわからない。
きっと一生分からないと思う。
でもそれでいいのだ。
わたしという存在は、そういうものだから。
――気が付いたら、人気のない公園にいた。
きっと無意識にここに来たのだろう。
辺りは既に薄暗くなっていて、風に吹かれるブランコが静かに揺れているだけだった。
街灯がつき始める。
家に帰らなくてはいけないとはわかっていても、足取りが重かった。
「帰りたくないな」
「帰らなくてもいいんじゃね」
急に後ろから話しかけられたことに驚き、体がビクッとなる。
薄暗くて顔は良く見えなかったがこの声は碇くんだ。
「どうしてここに……」
「追いかけてきた」
「なんでそこまで」
わたしは最低なことをしたのだ。
折角心配してくれたのに、
それを見捨てるかのように逃げてきた。
「お前さ、星って好き？」
「え、星？」
話の流れがつかめず、おろおろする。
「あ、ほらあそこ。一番星があるだろ」
彼が指した先には真っ暗な夜空に一つだけ輝く、一番星があった。
街灯よりも輝いて見えた。
「それが、どうしたの？」
「瀬山に似てるなって」
「わたし？」
一番星と自分を比較してみる。
一番星は誰よりも輝いていて、目立っている。
自分は周りから下に見られていて、ろくな人間じゃない。
どこが似ているのだろう。
「一番星は星の中で一番に光っている。瀬山は勉強の面で一番に光っている。それって当たり前のようで結構すごくないか？俺なんか今回のテスト８０位くらいだったし」
「そうかな」
でも、逆に言えば似ているのは勉強だけだ。
それ以外は何も共通点がない。
「でもそれだけでしょ？わたしは一番星みたいに輝いてないし」
「だったらこれから輝けばいいじゃん」
これから？
わたしはもう自信をなくして窮地に立っているのに、ここから輝くのは不可能に近い。
「一番星って、ずっと輝いてるだろ。つまり常にありのままでいるってこと。瀬山もさ、悪口ばっか言われるだけじゃなくて、たまには自信持てよ。ちょっといじめられたくらいで自分の事見失うな」
心臓が締め付けられるような気がした。
わたしでも一番星になれる。
勉強と同じように努力をすれば、本当の自分に出会えるかもしれない。
「―いい子―を作んなくてもいいんだよ」
今まで散々言われて、悔しくて、辛くて。
本当の自分を見失っていたけど。
分かった気がする。わたしはわたしのままで良い、無理にキャラを作る必要はない。
そんなことを教えてくれる碇くんはかっこいいと思う。
自然に笑みがこぼれる。
少しだけ息がしやすくなった気がした。
高校２年生、最初の定期テストは学年１位という優秀な成績を収めた。
だが一位を取ること自体は初めてではない。
一年生の時はほぼ毎回一番で、わたしが上位の成績を取ることは暗黙の了解のようになっていた。
だが、それを褒めてくれるのは先生しかいなかった。
好成績を収めることに不満がある生徒が、わたしに理不尽な嫌がらせをするようになったのだ。
それがクラス中に広まり、２年生になった今でも陰口を毎日のように言われるようになった。
わたしは頭が良いわけではない。
どちらかと言えば頭は悪い方だ。
毎日の努力で何とかなってる。
それをわかってくれないクラスメイトは、
「うざい」
「少し頭が良いからって」
などの悪口を直接言ってくる。
――それが苦しかった。
良かれと思ってやってきていたことが、周りは不快に思っていたことがショックだったのだ。
わたしだって元から頭が良くなりたかった。
こんなに苦しい思いをしながら勉強して、辛かった。
だから認めて欲しい。
悪口だとか、そんな言葉より
「頑張ったね」
この一言が欲しいだけなのだ。
ただ、認めて欲しかっただけなのに。
「それじゃあホームルームを終わります。今日は部活動停止の日なので早々に帰るように」
２年生初のテストがあってから３日。
わたしは部活動に入っていないので、いつものように帰る準備をした。
机の中にある教科書と筆箱、ファイルをバックにしまい、忘れ物がないかチェックをする。
すると、見覚えのない一枚の紙が中に入っていた。
――――――――――
屋上で待ってる
――――――――――
「なんだ、これ」
差出人の名前もなしに、一言だけ。
最初はいたずらかと思ったがそのまま帰るのもなんか、とその場所に行ってみることにした。
カバンを背負い、教室を出ようとしたその時、
「優等生の結奈ちゃ～ん」
誰かが私を呼ぶ声が聞えた。
その声の主はクラスの中心である松山さんの声だった。
「私さぁ、このあと大事な用事があるんだよね。だから代わりに掃除やってくれないかな」
嘘だ。大事な用事なんてないだろと思うわたしは性格が捻じ曲がっているのか。
だが皆から好かれる私になるためには断れない。
「わかった」
「本当にごめんね～。それじゃ、よろしく」
この頼みが嘘だと思うのには理由がある。
松山さんはわたしに陰口を言い始めた、いじめの主犯なのだ。
だからこうやって毎日嫌がらせをしてくる。
今もどこかでわたしのことを笑っているだろう。
でも耐えられなくなるほどのいじめをされてないのが不幸中の幸いだ。
「見て、また結奈掃除やらされてるよ」
「ほんとだ。ウケる」
「雑用係には丁度いいんじゃない？」
何人かが私の方を見て笑っている。
会話も、わざとわたしが聞えるような声で話していた。
これも、耐えなきゃ。
そして一瞬、そちらに気を取られ足元にある水バケツを蹴ってしまった。
「あーあ。何やってんの？」
「服濡れたんですけど、最悪」
「一人で片付けろよ」
「ご、ごめんなさい、」
わたしの声は笑い声と、罵声によりかき消されてしまった。
―――――
掃除を終え、屋上に向かう。
果たして呼んだのは誰なのか。何の目的で呼んだのか。
その疑問が、今 解明される。
「遅くなってごめんなさい、」
ドアを勢いよく開け、そこにいるであろう誰かに謝罪をする。
「おせぇよ。何分待たせるんだ」
そこにいるのはクラスメイトの碇壮真くんだった。
「え、なんでここにいるの」
「手紙読んでねーの？俺がお前を呼んだからここにいるんだけど」
「あ、そういうことじゃなくて……」
碇くんと言えば、クラスの人気者である人だった。
わたしなんかとはカーストが違う。
そんな彼がわたしを呼ぶくらいなのだから、相当嫌なことをしてしまったに違いない。
「どうして碇くんがわたしなんかを呼んだのかなって」
本当は早くここから逃げ出したかった。
きっとまた嫌がらせをされる。
屋上という人目の付かない場所で、何をされるかわからない。
「いや、お前さ。疲れてんだろ」
「――え？」
意外な優しさに、思わず口から言葉が漏れる。
わたしが、疲れている？
いやそんなことはないはずだ。
わたしは周りに自分の心情をあまり出さないようにしているのに。
「この前のテスト、一位だったのにあんなに言われて。悔しくないの？」
「それは……」
『また結奈が一番だよ』
『調子にのってる』
『正直うざいよね』
色んな罵声を浴びされてきた。
でもわたしはどれも耐えれると思っていた。
――けど違ったのかもしれない。
本当は苦しくて、辛くて、誰かに助けてもらいたくて。
そんな自分を隠すために「いい子」を演じる。
本当のわたしはどこにいる？
「……ごめん、私帰るね。確かに疲れているみたいだから。呼んでくれてありがとう」
「おい、ちょっと待てよ！」
碇くんの声も聴かず足早にこの場から立ち去る。
わたしは駄目な人間だ。
この世の中は頭の良さだけでは認められない。
じゃあ何をすれば認められるのか、それはわたしにもわからない。
きっと一生分からないと思う。
でもそれでいいのだ。
わたしという存在は、そういうものだから。
――気が付いたら、人気のない公園にいた。
きっと無意識にここに来たのだろう。
辺りは既に薄暗くなっていて、風に吹かれるブランコが静かに揺れているだけだった。
街灯がつき始める。
家に帰らなくてはいけないとはわかっていても、足取りが重かった。
「帰りたくないな」
「帰らなくてもいいんじゃね」
急に後ろから話しかけられたことに驚き、体がビクッとなる。
薄暗くて顔は良く見えなかったがこの声は碇くんだ。
「どうしてここに……」
「追いかけてきた」
「なんでそこまで」
わたしは最低なことをしたのだ。
折角心配してくれたのに、
それを見捨てるかのように逃げてきた。
「お前さ、星って好き？」
「え、星？」
話の流れがつかめず、おろおろする。
「あ、ほらあそこ。一番星があるだろ」
彼が指した先には真っ暗な夜空に一つだけ輝く、一番星があった。
街灯よりも輝いて見えた。
「それが、どうしたの？」
「瀬山に似てるなって」
「わたし？」
一番星と自分を比較してみる。
一番星は誰よりも輝いていて、目立っている。
自分は周りから下に見られていて、ろくな人間じゃない。
どこが似ているのだろう。
「一番星は星の中で一番に光っている。瀬山は勉強の面で一番に光っている。それって当たり前のようで結構すごくないか？俺なんか今回のテスト８０位くらいだったし」
「そうかな」
でも、逆に言えば似ているのは勉強だけだ。
それ以外は何も共通点がない。
「でもそれだけでしょ？わたしは一番星みたいに輝いてないし」
「だったらこれから輝けばいいじゃん」
これから？
わたしはもう自信をなくして窮地に立っているのに、ここから輝くのは不可能に近い。
「一番星って、ずっと輝いてるだろ。つまり常にありのままでいるってこと。瀬山もさ、悪口ばっか言われるだけじゃなくて、たまには自信持てよ。ちょっといじめられたくらいで自分の事見失うな」
心臓が締め付けられるような気がした。
わたしでも一番星になれる。
勉強と同じように努力をすれば、本当の自分に出会えるかもしれない。
「―いい子―を作んなくてもいいんだよ」
今まで散々言われて、悔しくて、辛くて。
本当の自分を見失っていたけど。
分かった気がする。わたしはわたしのままで良い、無理にキャラを作る必要はない。
そんなことを教えてくれる碇くんはかっこいいと思う。
自然に笑みがこぼれる。
少しだけ息がしやすくなった気がした。
