けれど、明らかに私の目に映るものは変わっていた。退屈なものに見えていた視界がキラキラと色を放つのだ。
 そのおかげか、それなりに会話をし、それなりの時間に神社を出て、それなりに恋人らしく身を寄せながらも、早く今日を終えて、携帯電話を触ってしまいたかった。

 今思えばなかなか最低なやつ。我ながら、と苦笑をこぼした時、永と目が合った。

「どうしたの?」
「いや、やけににやにやしてるなって。なに食べるか考えてた?」
「食いしん坊だと思ってる? 残念ながら、感傷に浸ってたんです」
「感傷か、夕日を見てると色々考えちゃうよな」

 口元を緩めていたが、私から視線を外すと夕日を見て、きゅっと口元も結ばれる。永は何を考えているのだろう。

「自分が死ぬなんて考えたことなかったよ」

 私の思考を読んだ答えに、胸がどきりと脈打つ。彼の目に揺れる赤い光を見てしまう。

「年寄りになるまで生きるんだって漠然と思ってた。でも俺の肉体はもうないし、この心臓も……。本当に、ゾンビみたいだな、俺」

 泣いているのだろうか。そう思うほどにか細い声で、瞳の中の光は揺れている。
 泣いて欲しくなかった。