「……そうだな、俺は、怖かったんだよ。ずっと一緒にはいられないこと、分かってたから」
「……私もね、恐かったけれど、永に出会えたことが本当に嬉しかったの。ずっとはいられなくても、これからの人生、あなたを思い出にして生きていけると思うと幸福だった。……やっぱり別れた時は、辛かったけれど」

 長続きはしない関係。そんなの分かっていた。分かっていたけれど、もちろん夢は見たし、間違いなく、初めて別れた日の私は、彼と出会えたことに誇りさえ覚えていた。

 この大空の下に彼はいる。生きて、今日も生活をして、どこかで私を思ってくれている。そう思うと力が湧いてきた。

「それでも、今でもそう思うよ。あなたに出会えて良かった」
「うん。……俺もだ」

 彼の言葉が返ってくると、今までの感覚も戻ってきた。クーラーの冷気も、外からの声も、この部屋の匂いも。
 永と目を合わせる。時計の針が刻一刻と、時間を刻む。夜へ近付いていく。