こくりと頷くと、良かった、と永はそれだけ言い、ココアを再びちびちびと飲み始めた。私も同じようにコーヒーを啜る。以前の楽しい空気ではなく、彼との思い出の最後によく感じた空気のすれ違いが目立ち始める。

 終わりが近付く空気。それが嫌で、あの時は拒んでいた。けれど、空気も、電波も、環境も、そういう実体のないものがすれ違っていく。離れていき、近くに感じていたはずなのにどんどん遠くへ行ってしまう。

「俺さあ、あの日……戻ってきただろ?」
「うん……」

 私が突き放したあの日。あの日から私たちは十年、囚われ続けた。

「戻ったのはやっぱり……甘えたかったからだよ。今度こそ、ただのネット住民として、お互い距離を守れば苦しくなくなるんじゃないかって」
「うん」
「でも、無理だった。お前は既に覚悟を決めてた。いつまでたっても覚悟を決めてなかったのは俺の方。もう無理だったのにな、俺たちの関係は所詮ネットじゃなかった。……留まってなかった。そのことに今になって気付いた。あの日から時間はすごい経ってたんだな。結婚してるんだもん」
「そうだよ。いい人なんだから」
「そうみたいだな。……今日の祭り、楽しみだな」