頷くことしか出来ないでいると、デンモクを手渡される。入れるの忘れてたから適当に入れて、歌い始めるがやっぱり私は下手で、恥ずかしくなるくらい。

 歌い終わるまで歌唱力が突き抜けた人を見れなかったが、拍手を送られる。

「上手くはないけど、最後まで歌い終えてたし」
「必死のフォローありがとう」
「いや、本当に……ここまで下手な人初めて見たな」
「酷い!」

 睨み付けると笑い声が上がる。釣られて私も笑ってしまう。安心した。こういう空気が心地良い。
 最初はこんな感じだったな、と思い出す。

 ただ楽しかった。彼の特別にはなりたかったけれど、ただずっとこうしていたかっただけかもしれない。兄妹のような、親友のような、こういう空気感。

 いつだったか、戻ってきた時に永は言っていた。

──やめよう、こんな話。せっかく夏菜子と話せてるのに。楽しく話したい。

 何の話をしていたのかは、今はもう覚えていない。でも彼も私と話すことを楽しいと感じてくれていたし、私もそうだった。