それからも同じことが二回あった。様子を見に来た、とか、少し話に来た、とか言って永はしばらくの間私と話してくれるが別れていく。

 こんな時、怒れたら違ったのだろうか。

 鼻をすすりながら、ようやく涙が止まってきたため、冷めたココアを飲み干す。
 私は永と向き直り、手を握った。

「疑ってごめんね。それから、喜一を助けてくれてありがとう。私を覚えててくれてありがとう」
「忘れたことないよ」

 嬉しそうなくしゃっとした笑み。こんな風にも笑うのだな、と初めて知る。

「そうだ、カラオケ行くか?」
「いいの?」
「ああ。あの時は歌声、聞かせられなかったからな」

──聴きたいなあ。

 私が言ったことを覚えてくれているらしい。頷き返して急いで支度を始めた。

 家から出て十分くらい歩いたところにカラオケ店はある。平日の昼間だから予約もしていなかったがすぐ入れることが出来た。

 暗い室内、照明はテレビ画面だけ。永と二人きり。体は喜一だからもう慣れたはずなのに、妙にそわそわする。自然と彼から少し離れた位置に腰掛け、デンモクを手渡した。