それからの私は心ここに在らず。所詮ネット、という言葉に憑かれてしまう。言葉が何度も何度も頭の中を巡り、悔しくて、永にそうさせたバンドメンバーを恨んだ。

 携帯電話なんかもう意味を持たない。持つ理由はただ一つ、彼と話したかったから。放りっぱなしにしていた日々の終止符を打ったのは、やはり永。

──ただいま。やっぱり 戻ってきた。

「かなちゃん……? 起きてたんだ」

 呼ばれて我に返ると、喜一が顔を上げ、安心したように笑ってくれる。愛おしさにその頭に手を伸ばす。

「ごめんね」
「ここ病院だから……ちょっと恥ずかしい」

 あ、ごめんね、と慌てて撫でていた手を引っ込める。静かに笑い合うと、喜一が、看護師さんに言ってくる、と離れていった。

 永は、どうなったのだろう。
 彼を、ネットの海から探し出そうとしたのは、ひとえに謝りたかったから。それでまたあの日々を過ごせたらいい、と思っていたのもほんの少しだけある。

 けれど、それよりも、私は……彼の中で、今も尚、帰りたいと思える場所になりたかったのだ、と今なら思える。
 あの時の私は汚い欲を隠して、謝りたかったから、としか言わないだろうが。