砂浜を進んで、海の近くを歩き続ける。人々の笑い声が響き、波の音が弾け、視線を投げるとキラキラと水面が宝石のように輝く。太陽の光が頭をじりじりと焼く。
 もう二十八回も迎えた夏なのに、初めて知るような夏。
 こんなに騒がしくて、懐かしくて、もどかしい夏はなかった。

「私たちが出会ったのも夏だったね」
「そうだな。あの時は……変な子が話しかけてきたって思ったな」
「変な子って、酷い」

 小突くと笑い声が返ってくる。釣られて笑みが零れた。

「そうか、出会ってから十二年経ってるんだな」
「うん」

 そうだね。別れてからは、と言いそうになって口を噤む。別れてからは十年。出会ってから私たちは何度も別れ、再会して、別れた。繰り返していたのに、決定的にになった別れは、あの日。

 でも、それを口にすると、あの日の再現が始まりそうで、私はただ海に視線を向けていた。

「十二年……今、あのサイトはなくなったみたいだな」
「そうだよ。居場所がなくなったって思った」
「根付いてた人はそうだろうな。俺も……帰る場所がなくなったって思ったよ」

 少し私の前を歩く背中に目がいった。あの後でも、まだ、帰る場所だと思っていたのだろうか。