恥ずかしくなって、足早に歩くがすぐに追いつかれた。

「やっぱり、この人のおかげ?」

 ぽんぽんと自身の胸を叩いて聞いてきた。私は首を傾げる。

「うーん、女性として振る舞えるように助長させてくれたのは喜一だけど、時間が解決してくれたかな」

 そうだ。大人になってくると、男友達と呼べる人はいなくなっていた。みんなもう外で走り回らないし、下品なことを言わない。冒険と言って変な所に入り込まないし、何より、男性が私を女性として扱うから。

 それでも長年抵抗をしていたが、男のように振る舞う必要がなくなったと時間が教えてくれた。
 そんな時、喜一と出会えたのだ。

 海に辿り着くが案の定人が多かった。砂浜にレザーシートを敷いて寝転がる男女、はしゃぐ女性グループ、ナンパする男性たち。治安が悪そうで、思わずげんなりするが、自然に手を握られた。

「昔はナンパしによく海に来てたんだ」
「言ってたね。バンド仲間と行ったって」

 うん、と頷いてくれて嬉しくなった。
 永はバンドをしていて、ボーカルだったと聞いている。兼、作詞もしていたそうで、その癖で文章の間にスペースが入る、と聞いたことがあった。