洗い物を手伝いながら先ほどまでの余韻に浸る。

――剣を使いたいなら包丁を使いなさい
――魔法が使いたかったらこの粉を使いなさい

ママの言葉が胸に刻み込まれ、わたしはそれを噛みしめていた。わたしが包丁を握って魔法の粉を振ったきゅうりはお客さんに大好評だった。ママに教わりながら、何度追加で作ったかわからない。お客さんが「旨い」と言いながら笑顔になる。この喜びは感動となって胸に押し寄せてくる。

「ママありがとう。勇者じゃなくても魔法使いじゃなくても人を笑顔にすることができた」

「それがあんたのスキルでしょ。自分の強み活かして生きていきなさいよ」

ママは何でもないようにサラっと言う。
ぶっきらぼうで強い口調なのにどこかあったかい。
それがママの優しさなのだと何となく気づいた。

「――というわけで、ここで正式に雇って下さい」

わたしは頭を下げる。
ママはため息をつきながら呆れたように言った。

「だから、人は足りてるって言ってるじゃない」

「えー、いいじゃないですかぁ」

「イヤよ」

「そんなこと言わないで、ママぁ~」

閉店後の店内で、わたしとママの押し問答がしばらく続いたのは言うまでもない。

しばらく言い合いしたのち、先に根負けしたママが「まったく、一晩だけなら泊まってもいいわよ。ふんっ」と冷たく私を二階の一室へ放り込んだのだった。

ベッドにはふかふかのお布団。
こんなの高級宿屋じゃないかと思いつつそろりと潜り込んでみると、あまりの気持ちよさにすぐに意識が吹き飛んでいった。