「ねえママ、魔法の粉もママが作ってるの?」

「んなわけないでしょ。向こうで調達してるただの塩よ、塩」

「しお?」

「アンタ、料理に興味ある? なんかウェイトレスだけじゃもったいないわね」

「今日ポテトサラダ作るのすっごく楽しかった」

「不器用だったけどね」

「うっ、いちいち厳しい」

「やってみたら?」

「え?」

「勇者なんかより断然向いてるわよ。牛刀で喉を掻き切るの上手かったものね。包丁、イケるんじゃない?」

またそうやって、わたしに道を示してくれる。
ウェイトレスだけじゃなくて、その先を見据えて話をしてくれる。

「わたし、やってみる。いつかママみたいなお店が持てるかなぁ? 夢はでっかくだよね!」

「いきなり目標がでかいのよ。とりあえず借金返すまではこの店から抜け出せないからね。あ、あとこのコバルトファイヤードラゴンの肉代もいただくわ」

「ええっ! なんで~! ママのいじわるっ」

ガハハと笑いながらママは片づけを始める。
でもそれって、借金がある限り、ここに住んでいいってこと、だよね?
本当に、どこまで優しいの、ママは。まるでわたしの勇者みたいじゃない。

……おねえだけど。
いや、おっさんなのか?

「明日もバリバリ働いてもらうわよ」

「はーい。おやすみなさーい」

あふ、と大あくびをしてわたしは階段を上がっていく。
薄暗い階段は天窓から月の光が差し込んで、ほんのりとあたりを照らした。

「ああ、マリちゃん」

「はい?」

振り向くとキラリとした何かが飛んでくるので、反射的にそれを両手でキャッチする。

「次は大事にしなさいよ、コバルトファイヤードラゴンの鱗」

「ん?」

手のひらを開いてみれば、月明かりに照らされて虹色に光る楕円形のチャーム。それはまるで昔助けてもらった勇者にもらったそれと同じで――。

「え、うそ、ママが――?!」

もうそこにママの姿はなくて、パタンと扉の閉まる音だけが静かに響く。

胸が震えるとはこういうことなのか。
あの時も、今回も、わたしの行く先を照らしてくれる勇者。

わたしはチャームを付け替える。
月明かりに揺れてキラキラと輝きを増し、前よりも重みを感じるようだった。

わたしはわたしの道を、明日からもしっかりと踏みしめていこう。
決意を新たに、わたしはぐっすりと眠りについたのだった。


【END】