「その制服の代金支払うまで働いてもらうわよ」

なんて厳しいこと言いながら、私を追い出すことはしない。なんだかんだやっぱりママは優しいんだ。 お腹を空かせて死にそうになってたわたしを助けてくれて、勇者じゃない別の道を示してくれて。

昨日までひとりぼっちで戦っていたのが嘘みたい。
世界にはこんなにたくさんの人がいて、笑顔が溢れていて、こんなにおいしい料理があって、まだまだ知らないことがたくさんあるんだって、わかった。
勇者じゃなくても、人を笑顔にできる職業があるんだって知った。

「ありがとね、ママ」

「マリちゃんさぁ、お腹すいてない? 今から焼肉パーティーしましょうよ」

「やきにく?」

「コバルトファイヤードラゴンのお肉、食べてみたいでしょ」

「食べたい食べたい!」

それはぜひとも!
だってママ曰く絶品なんでしょ。
せっかく頑張って倒したんだから食べてみたいよ。

ママは肉の塊を薄く切ってお皿に並べていく。まるで花を咲かせたような盛り付けに、ワクワクとドキドキが止まらない。

「焼肉といったらやっぱり炭火よね」

ママはどこから出してきたのか、七輪の中に炭を入れ火をおこし、網をのせる。頃合いを見計らって網の上にお肉をのせた。

ジュッといい音がする。
あぶらが滴って炭火を赤く燃え立たせた。

「焦げる前に食べるわよ」

ママは私のお皿にお肉を取ってくれ、上からぱらぱらと粉をかける。これはきゅうりの時と同じ魔法の粉だ。絶対美味しいやつ。

「いただきます」

フーフーと息を吹きかけてから一口で頬張る。

「ん〜〜〜!」

口に入れた瞬間蕩けるような食感。
お肉なのに程よい甘み。
これがコバルトファイヤードラゴンのお肉。

「絶品でしょ?」

「うん! うん! 頑張って倒してよかったぁ〜」

こんなに美味しいお肉が食べられるなんて、思ってもみなかった。想像以上に美味しい。ていうか、こんな美味しいお肉初めて食べた。他の部位もぜひとも食べたいものだ。

「結構、様になってたじゃない、勇者」

「ほんと? 自己流だけど頑張って修行したんだよね。でもあれはママの魔法があったから」

「ま、そりゃそうね」

「そこはそんなことないよって言ってよ。あとはこれかな……」

わたしはネックレスを胸から取り出す。
チャーム部分は粉々に砕けてなくなってしまったけど、きっとあの火炎から守ってくれたんだと思う。やけどひとつしなかったもの。

「わたしの思い出、なくなっちゃったな……」

「何言ってんの、今までそれに守ってもらってただけでしょ。しおしおしてんじゃないわよ。肉が不味くなるわ」

「そうだよね。スペアリブも食べたい!」

「アンタ、贅沢どころか図々しいわね」

フンとママが笑う。
ぶっきらぼうなママの優しさがなんだか今日はしんみりさせる。
もうだいぶ夜も更けてきたからだろうか。