軽く落とされた照明が店内を暖かい空間にしている。
目の前に広がるカウンターはこじんまりしていて、何種類か大きなお皿に料理が盛られていた。
「えっと……?」
わたしはモンスターのような大柄な人物を前にカウンターを挟んで座らされている。
「アタシのことはママって呼んでちょうだい」
「は、はあ……」
「アンタ名前は?」
「……マリエットです」
「長くて覚えられないわ。マリちゃんでいいわね」
「は、はぁ……」
化粧はバッチリで紅い口紅が印象的。髪はアップにしており、丸首で襟がなく丈の長い身頃にゆったりとしたデザインの白い上着のようなものを身に付けている。そんな容姿なのにどこかおっさんっぽい、でもしゃべるとお姉系なママ。
「はい、お待たせ」
ドンっと目の前に置かれたお皿には黄色いふわとろの玉子料理が乗っていた。優しい香りにごくっと喉が鳴る。湯気のくゆる料理とママを交互に見た。
「アンタお腹空いてるんでしょ?食べなさいよ」
「でもわたし、お金がなくて……」
「アタシの店の前でのたれ死にされたくないのよ。いいから食べなさいっ」
「は、はいぃっ!」
フォークを突き出され、反射的にそれを受け取った。
玉子を掬おうとフォークを入れる。すると中から赤くて細長い紐のようなものが出てきて思わずママを見る。
「それ?ナポリタンっていう料理。ナポリタンをアタシの包容力みたいにふわとろ玉子でコーティングした、ママの優しさ溢れるまかないパスタよ」
「なぽりたん? ぱすた?」
「アンタからしたら異世界の食べ物。いいからちゃっちゃと食べなさい。美味しくてびっくりするわよ」
ママの威圧感に負けて恐る恐るフォークを口に運んだ。
「こ、これは……!」
少し刺激のあるパスタがふわとろ玉子と絡み合って絶妙なまろやかさを生み出す。一心不乱に食べ進め、気付けばペロリと平らげていた。
「やだ、何泣いてんの?」
ママが心配そうな顔でわたしを見る。
「……うっうっ」
ポロポロと涙がこぼれ落ち、とめどなく溢れてくる。得も言われぬ感情が次から次へと押し寄せてきて、人目も憚らずわあわあと泣いた。お店にとっては迷惑極まりない客なのに、ママはわたしが落ちつくまで黙って見守ってくれた。それがとても嬉しかった。
「久しぶりにこんなに美味しい食事を取りました」
「あら、よかったわね」
「でも私銅貨一枚しか持ってなくて……」
「別にいらないわよ」
「皿洗いでも何でもします」
「いらないって言ってるでしょう?」
「私、勇者向いてないんです」
「人生相談はお断りよ」
「……ママ冷たい」
「はあ? 十分優しいでしょうが。行き倒れていたアンタを助けてあげたんだから。ていうかアンタ勇者なの? 見えないわ~」
ママはわたしを舐めるように見る。
今のわたしはモンスターにこてんぱんにやられて武器も防具もボロボロの状態。お世辞にも勇者には見えないだろう。
「勇者に向いてないから魔法使いにジョブチェンジしようとしたんですけど、魔法のセンスもなくて断念しました」
わたしは自虐的に笑う。剣は重い。振り回しても上手く立ち回れない。じゃあ魔法使いになろうと手のひらに魔力を集中させてみたが、焚き火の火種を作るだけで精一杯だった。
「ふぅーん。若いのに苦労してるのね。何で勇者になろうと思ったわけ?」
「それはですね……」
わたしは昔を思い出した。
目の前に広がるカウンターはこじんまりしていて、何種類か大きなお皿に料理が盛られていた。
「えっと……?」
わたしはモンスターのような大柄な人物を前にカウンターを挟んで座らされている。
「アタシのことはママって呼んでちょうだい」
「は、はあ……」
「アンタ名前は?」
「……マリエットです」
「長くて覚えられないわ。マリちゃんでいいわね」
「は、はぁ……」
化粧はバッチリで紅い口紅が印象的。髪はアップにしており、丸首で襟がなく丈の長い身頃にゆったりとしたデザインの白い上着のようなものを身に付けている。そんな容姿なのにどこかおっさんっぽい、でもしゃべるとお姉系なママ。
「はい、お待たせ」
ドンっと目の前に置かれたお皿には黄色いふわとろの玉子料理が乗っていた。優しい香りにごくっと喉が鳴る。湯気のくゆる料理とママを交互に見た。
「アンタお腹空いてるんでしょ?食べなさいよ」
「でもわたし、お金がなくて……」
「アタシの店の前でのたれ死にされたくないのよ。いいから食べなさいっ」
「は、はいぃっ!」
フォークを突き出され、反射的にそれを受け取った。
玉子を掬おうとフォークを入れる。すると中から赤くて細長い紐のようなものが出てきて思わずママを見る。
「それ?ナポリタンっていう料理。ナポリタンをアタシの包容力みたいにふわとろ玉子でコーティングした、ママの優しさ溢れるまかないパスタよ」
「なぽりたん? ぱすた?」
「アンタからしたら異世界の食べ物。いいからちゃっちゃと食べなさい。美味しくてびっくりするわよ」
ママの威圧感に負けて恐る恐るフォークを口に運んだ。
「こ、これは……!」
少し刺激のあるパスタがふわとろ玉子と絡み合って絶妙なまろやかさを生み出す。一心不乱に食べ進め、気付けばペロリと平らげていた。
「やだ、何泣いてんの?」
ママが心配そうな顔でわたしを見る。
「……うっうっ」
ポロポロと涙がこぼれ落ち、とめどなく溢れてくる。得も言われぬ感情が次から次へと押し寄せてきて、人目も憚らずわあわあと泣いた。お店にとっては迷惑極まりない客なのに、ママはわたしが落ちつくまで黙って見守ってくれた。それがとても嬉しかった。
「久しぶりにこんなに美味しい食事を取りました」
「あら、よかったわね」
「でも私銅貨一枚しか持ってなくて……」
「別にいらないわよ」
「皿洗いでも何でもします」
「いらないって言ってるでしょう?」
「私、勇者向いてないんです」
「人生相談はお断りよ」
「……ママ冷たい」
「はあ? 十分優しいでしょうが。行き倒れていたアンタを助けてあげたんだから。ていうかアンタ勇者なの? 見えないわ~」
ママはわたしを舐めるように見る。
今のわたしはモンスターにこてんぱんにやられて武器も防具もボロボロの状態。お世辞にも勇者には見えないだろう。
「勇者に向いてないから魔法使いにジョブチェンジしようとしたんですけど、魔法のセンスもなくて断念しました」
わたしは自虐的に笑う。剣は重い。振り回しても上手く立ち回れない。じゃあ魔法使いになろうと手のひらに魔力を集中させてみたが、焚き火の火種を作るだけで精一杯だった。
「ふぅーん。若いのに苦労してるのね。何で勇者になろうと思ったわけ?」
「それはですね……」
わたしは昔を思い出した。