「クシャーラ様の話したいことって何かしら?」
 ある日突然クシャーラ様から個人的なお茶会の招待状を送られてきた。クシャーラ様の体調も安定してきて、夜会で顔を合わせることはこれまでも何度かあったが、個人的なお茶会に誘われるのは初めてだった。
 他の家のお茶会には全てお断りを入れているが、クシャーラ様は今や王子妃である。断りづらいというのもあるが、そんな立場となった彼女からの個人的なお茶会の誘い――それは何か意味があるのではないかと踏んで、エリオットに許可を取って足を運んだわけだが……。
「――それでブラントン家に女児が産まれたら是非フィリップの婚約者候補になって欲しいの!」
 まさかここでも気の早い話を聞かされるとは誰が予想しただろうか?
 リガードからクシャーラ様とユグラド王子が、私達の子どもへの贈り物を選んでくれているらしいって話は聞いたけれど、まさか産まれてもない子どもの婚約まで話が進むとは……。
 私の考えが遅いのかしら? と考えてしまう。
 私がユグラド王子の婚約者候補として選ばれてからというもの、王子妃様には選ばれないようにして、後は16歳を迎えた後にお父様が決めた相手と結婚する! くらいの軽い気持ちで過ごしてきたのだ。
  婚約話は今からでも進めといたほうがいいのかな?――と考えて私の中での重要な記憶が呼び覚まされる。
「クシャーラ様、王子の婚約者候補は厳正な審査の上で行われますから我が子が選ばれるとは……」
 私のお腹から産まれてくるのは私の血を引く子どもである。そう、この『私』の! まだ顔も見る前からこう判断してしまうのは、親として問題あるかもしれないが、王子妃とか絶対無理だろう。エリオットの血を濃く継いでくれれば……と一瞬だけ考えもしたが、蛙の子は蛙。サボテンの子どもはサボテンなのだ。
  「それなら大丈夫ですわ! 私とユグラド様、それに王妃様が推薦いたしますので! いざという時は他の2人は適当に王家の近しい者を選んで出来レース形式にしても構わないと王妃様もおっしゃっておりましたわ」
「えっ!?」
 え、あれ推薦制度あったの?
 というか出来レースって……そんなのアリなの?
 あれほどクシャーラ様を嫌っていた王妃様と彼女が仲良くなったようなのは嬉しいことだが、そんなことを共謀されてもなぁ……。というかユグラド王子までその作戦に加わっているなんて、この国大丈夫なのかしら?
 確かに私とエリオットの子となれば、筆頭貴族であるハリンストン公爵家と騎士貴族の名家ブラントン公爵家の間に生まれた、いわゆる貴族のサラブレッドである。そんな子どもが王家と繋がりを持ったら、より強固な関係を築ける上に王家、ハリンストン家、ブラントン家のどこの家にも得しかないだろうけど……。 だがさすがにエリオットに相談もせずに決めることは出来ない。とりあえず持ち帰らせてもらうことにしよう。
「私だけではなんとも……夫と相談して決めさせていただきますわ」
「色よい返事をお待ちしておりますわ!」
  ――と返した1週間後、私達の子どもにと本棚付きで大量の絵本を携えてブラントン屋敷にやってきたライボルトがバカなことを言い出した。
「俺達にも子どもが出来たらユタリアのところの子どもと結婚させたい。だから婚約者の枠空けといてくれ」
「枠って、ライボルトあなたね……」
「ユタリア様の子どもと私達の子どもが結婚!! なんて素晴らしいのかしら!?」
「うちの子には結婚の話なんてまだ早い!」
 まるで天気の話をするかのようにサラッと産まれてきてすらいない子ども達の婚約話を持ち出すライボルトに、呆れる私と感動するリーゼロット様。そしてすでに溺愛を発揮しているエリオット――そしてそれに参戦しようと私のお腹の中でもがく我が子。
 ちなみに我が子とエリオットはクシャーラ様からの提案にも同じような抗議していた。
 エリオットは我が子には結婚や婚約な話なんてまだ早い、と私と同じことを思っているはずなのだが、物語の中でたまに目にする娘を嫁に出すシーンの父親の様子と今の彼はよく似ている。嫁や婿に出すことを想像しているのか、今にも泣きそうだし。エリオットにはすでに息子や娘が見えているのかしらね?
 私は中からドンドンと蹴られるお腹を撫でながら、聞こえるかどうかはわからないが、「出てくる前からあなたモテモテね」と我が子に呟いてみた。
 
 
 それから数ヶ月間、一切社交場に顔を出さなかったというのに返しても返しても手紙と子どもへの贈り物はたくさん溜まっていく一方だった。
 王都内外の貴族がブラントン家の子どもに贈り物を買い漁った結果、リットラー王国はベビーブームでもやってきたのかと思うほどに市場にはベビー用品が溢れかえっている。いや事実として、本当にたまたまなのだろうがこの国はベビーブームとまではいかないが、妊娠によって社交界から一時的に姿を消すご婦人方が多いとミランダから聞いた。
  「それによって益々お姉様の子どもと婚約をと言ってくる貴族が増えそうですわね!」なんてミランダは早速親バカならぬ叔母バカを発動させている。そしてその言葉を聞く度に「結婚はまだ早い!」とエリオットが泣きそうな顔で返すのだった。
 

 そんな色んな人に望まれていた我が子だが、なんと盛大に空気を読んだのか男の子2人、女の子1人の3つ子としてこの世に生を受けてくれた。よくお腹蹴ってくるな〜と思っていたが、まさか私のお腹は3人によって攻め込まれていたとは……よくまぁ私のお腹なんてあんな狭いところに収まっていてくれたものである。
 そりゃあ出てくると共に大きな声で泣き叫ぶわよね。
 多すぎないかと思っていたエリオットが端から買い付けたベビー用品に、ミランダがはしゃぎすぎた結果クローゼットの中に溢れかえるベビー服、そして各地から贈られてきた様々な物は、元気すぎる我が子達によってどれも大切? に使われている。