「お兄様がいないこの時間こそお義姉様と親睦を深める絶好のチャンスですわ!」
「ラウスったら独り占めするんだもの。独り占めはよくないわよね〜」
「義姉さんが結婚するのはお兄様なんだから仕方ないっちゃ仕方ないけどな……」
「サキヌったらまたそんなこと言って! 私の時はお説教ばっかりなのに、全く誰に似たのかしら……」
「俺だって義姉さんともっと長くいたいけど、だからって義姉さんとお兄様の気持ちを無視はできないだろ……」
右は手を揺らし、左は離すまいとガッチリと絡められた腕。そして後ろは立ち止まればすぐに衝突しそうな距離。彼らは私を包囲しながら口々に文句を垂れ流す。……主に身内であるラウス様に。
一体いつ、私がここまで彼らに好かれるだけの何かをしたのだろうか。もしくは私に似た誰かが友好を深めていたのかもしれない。そう思うと純粋に楽しく交流を深めてくれている彼らには申し訳ない気持ちになる。
「ねぇ、モリアちゃん」
「は、はい、何でしょう、お義母様!」
考え事をしていたせいで驚くように返事を返すとピタリとお義母様は足を止めた。その身体は徐々に震えを増していく。
「お義母様?」
話をちゃんと聞いていなかったのがバレてしまったのか。怒られるかもしれないと止まった足に視線を注いだ。けれどお義母様の反応は私の予想していたものと大きく違った。
「お義母様……お義母様ですって!? なんて素晴らしい響きなの!」
どうやらお義母様と呼ばれたことに感動していたらしい。
お母様とお義母様って紙に書くと違うけど、発音は一緒なのにな……。
怒られるよりは何倍もいいのだが、そんなに喜ばれると少し対応に困る。
こんな時、どうするのが正解なのだろう? というより他の二人だって大げさなお義母様の反応に困っているに違いない。そう思って横目で二人を確認したのだが、二人は揃いも揃ってお義母様側の人間だった。
「義姉さん、俺のこともサキヌって呼んで?」
「私のことはアンジェリカと!」
この場で困っているのは私ただ一人だ。味方などいない。この状況をどうやって切り抜けるかは自身で方法を見つけるしかなさそうだ。
「ええっと、サキヌ様?」
「サキヌって呼び捨てでいいよ。俺は義弟なんだから」
「サキヌ?」
「なんだい、義姉さん」
「お義姉様、私は? 私は?」
「アンジェリカ?」
「はい、お義姉様!」
この後、庭に到着するまで、いや到着後もしばらくこの名前を呼び続けるという謎の行動が繰り返された。私には一体これの何が楽しいのかはわからないが、彼らにとっては有意義な時間だったらしい。
名前を呼んだ後の彼らは一様に蕩けるような表情を私に向けたのだから。
「ラウスったら独り占めするんだもの。独り占めはよくないわよね〜」
「義姉さんが結婚するのはお兄様なんだから仕方ないっちゃ仕方ないけどな……」
「サキヌったらまたそんなこと言って! 私の時はお説教ばっかりなのに、全く誰に似たのかしら……」
「俺だって義姉さんともっと長くいたいけど、だからって義姉さんとお兄様の気持ちを無視はできないだろ……」
右は手を揺らし、左は離すまいとガッチリと絡められた腕。そして後ろは立ち止まればすぐに衝突しそうな距離。彼らは私を包囲しながら口々に文句を垂れ流す。……主に身内であるラウス様に。
一体いつ、私がここまで彼らに好かれるだけの何かをしたのだろうか。もしくは私に似た誰かが友好を深めていたのかもしれない。そう思うと純粋に楽しく交流を深めてくれている彼らには申し訳ない気持ちになる。
「ねぇ、モリアちゃん」
「は、はい、何でしょう、お義母様!」
考え事をしていたせいで驚くように返事を返すとピタリとお義母様は足を止めた。その身体は徐々に震えを増していく。
「お義母様?」
話をちゃんと聞いていなかったのがバレてしまったのか。怒られるかもしれないと止まった足に視線を注いだ。けれどお義母様の反応は私の予想していたものと大きく違った。
「お義母様……お義母様ですって!? なんて素晴らしい響きなの!」
どうやらお義母様と呼ばれたことに感動していたらしい。
お母様とお義母様って紙に書くと違うけど、発音は一緒なのにな……。
怒られるよりは何倍もいいのだが、そんなに喜ばれると少し対応に困る。
こんな時、どうするのが正解なのだろう? というより他の二人だって大げさなお義母様の反応に困っているに違いない。そう思って横目で二人を確認したのだが、二人は揃いも揃ってお義母様側の人間だった。
「義姉さん、俺のこともサキヌって呼んで?」
「私のことはアンジェリカと!」
この場で困っているのは私ただ一人だ。味方などいない。この状況をどうやって切り抜けるかは自身で方法を見つけるしかなさそうだ。
「ええっと、サキヌ様?」
「サキヌって呼び捨てでいいよ。俺は義弟なんだから」
「サキヌ?」
「なんだい、義姉さん」
「お義姉様、私は? 私は?」
「アンジェリカ?」
「はい、お義姉様!」
この後、庭に到着するまで、いや到着後もしばらくこの名前を呼び続けるという謎の行動が繰り返された。私には一体これの何が楽しいのかはわからないが、彼らにとっては有意義な時間だったらしい。
名前を呼んだ後の彼らは一様に蕩けるような表情を私に向けたのだから。