6. ひな人形の怪
私には二人の親友がいる。一人は小学校の頃に出会った。もう一人はまだもう少し先、大学で出会う。
小学校からの親友白羽根瑠衣は颯さんと秘密の結婚式を挙げたときにも家族以外で唯一彼女だけ招待した。
颯さんがあやかしだということを含め全て彼女に話したが、最初は信じなかった。
自分だって信じられなかったもん。信じられなくて当たり前だ。
そして兄と同じ事を言われた。「まさか、なんか間違いでもあったの?!」
「その台詞、お兄ちゃんにも言われたよ・・・。」
「そりゃそうでしょ!絶対騙されてるよ!」と、散々な言われようだった。
でも実際に会ったら、そンな事言ったなんて忘れたらしく、颯さんの美貌にうっとりして頬を真っ赤に染めながら「初めまして。白羽根瑠衣と言います。明日香の親友です。宜しくお願いします。」とか言って挨拶していた。
そんな瑠衣に颯さんは一瞬だけ瞠目した。不思議に思った私はどうしたのか聞いてみると、700年前に人身御供にされそうになっていた村娘にそっくりだという。きっと生まれ変わりなのだろう。
それを聞いた瑠衣も驚きを隠せなかったようである。本当に不思議な縁でつながっている。
そんな彼女が、とんでもない事態に巻き込まれたのだった。
****
瑠衣は今、母方の祖父母と生活している。
初めて出会ったのは、同じクラスになって隣の席になったからだった。
なんとなくこの子とは長い付き合いになる。そんな風に感じた。
仲良くなりたいと思って話しかけても目が虚ろで何も話さない。ただ怯えて震えているだけだった。
様子がおかしいと思って担任の先生に話したのがきっかけで瑠衣が家庭でどんな扱いを受けてたのか
が後で分かった。彼女は両親から虐待を受けてボロボロの精神状態だった。
身体に傷つけるのではなく精神的に追い詰める虐待。いわゆるモラハラだ。その過酷さは常軌を逸していたという。瑠衣は両親から離されて保護され、母方の祖父母に引き取られた。
一時的に精神を病んだ彼女は病院に入院した。その時に少しでも元気になって欲しいと思ってお菓子やぬいぐるみ、漫画本にゲームやおもちゃなどを持って母と一緒に足しげくお見舞いに行ったのが仲良くなるきっかけだった。
退院してから家へ遊びに来るようになった。霊水が大のお気に入りになったので、私が毎日水筒に入れて学校に持って行った。お寺の風景が気に入って絵を描くようになった。少しづつ心を開いて、話をしてくれるようになった。一歩づつ、一歩づつお互いを知って絆を深めていった。
今では心から信頼できる間柄だ。
瑠衣は美術部の部活が忙しく私は帰宅部だったので時間が合わず一緒に帰った事は無かった。
高校卒業後、彼女は都会の美術大学へ進学する。将来画家になるのが彼女の夢だ。
年が明けてしばらくしたある日、瑠衣がカフェに行こうと誘ってきた。
「どこ行く?」と聞くと、「ペンギン行こう」と言った。
ペンギンカフェはチーズケーキが絶品でコーヒーも美味しい。価格がセットで500円とリーズナブルなので私達にはちょうどいい。
「チーズケーキとコーヒー下さい」「私も」と同じものを注文した。
ケーキとコーヒーが来る前に瑠衣が話し始める。
「ねえ、明日香。人形って魂宿るっていうけれど、本当なのかな」
「う~ん、颯さんとお父さんに聞いてみないと何とも言えないけど、魂が籠りやすいということは聞いたことあるよ。何かあった?」
「ほら、3日前から歴史館で古いひな人形の展示やってるでしょ。昨日絵を描きたくて行ったんだ。20段飾りになってて、1000体くらいあってね。それはすごいんだよ。」
「うんうん。瑠衣が好きそうだね」
「壮観で、もう夢中になって描いてたんだ。そしたら閉館時間になってしまって。慌てて出たんだけど鞄忘れたのに気付いて取りに戻ったの。で、展示室の扉開けたら妙な違和感があってね。何だろうと思ってよく見たら、眼が瞬いてたの…。」
「え!全部?」
「うん。ものすごく怖くなって、鞄取って慌てて出た。」彼女はそういって震えた。
「それは・・。その後から何か変わったこととかある?」
「それが…悪夢を見るようになってしまってね。ものすごい数の人形が家まで来て私を見つめて、迫ってくるの。すごく怖い。」もしや、とり憑かれているかも・・・。
そう思った私はとっさに鞄からあるものを出して瑠衣に渡した。
「これあげるから肌身離さず持ってて!絶対離しちゃだめだよ!寝るときも側に置いてね。」
そう言って彼女に渡したのはうちのお寺の厄除け守り。しかも颯さんの強力なパワーも入っている私の為の特製お守りだがそんな事言ってられない。
「ありがとう。いつも身に着けていればいいの?!お風呂や、寝るときも?」
「うん。どんな時でも絶対にお守り離しちゃダメ!いつも側に置いてね。」
そう言い聞かせてその日はそれで帰った。そして自宅に帰って父と颯さんにあわてて話した。
「実は3日前から尋常じゃない邪悪な気配を感じていた。だがその気配がどこから来るのか分からなかったんだ。」
「颯さんでも分からない事があるんですか?!」
「ああ。魔物も私の事を認識しているから、気配を方々へ拡散させて場所が分からないようにしていたのだと思う。」
すると父も
「瑠衣ちゃんの命にかかわるかもしれない。
お守りを渡してあるなら今夜のところは大丈夫だと思うが、一刻も早く浄化しないといけない。」
「え!そんなに危険なんですか!」
「「かなり危ないね(よ)」」二人が同時に言った。
「歴史館には今夜行く。」「はい。ご一緒します。」と、二人の部屋に戻り早速支度を始めた。「なら、夕飯はとんかつにしようか!」と母が言って、いつも用意している特大のブロック肉を厚く切り始めた。
魔物浄化に行く前には母は必ず験を担ぐ。入試じゃあるまいし!とも思うが、肉は颯さんの大好物だから、これで良しとしている。
颯さんは浄化に行く前、私にいつも注意点を話してくれる。今回はかなり厄介だ。
「ひな人形というのは、元々産まれてきた子供が災厄に見舞われないよう人形に移し、身代わりとして作られたものだから魂が入りやすいんだ。魂の入っていない人形に災厄を宿した魂が生まれる。魂を持ってしまった人形であっても毎年飾って、愛し、手入れをされている時は決して災いをもたらす事は無い。だが古くなり、時代とともに忘れられ、供養もされず粗末に扱われた人形は時間が経てば経つほど強烈な怨霊となってしまう。」
「つまり、歴史館に展示されている人形達は忘れられていた存在という事ですか?」
今、展示されている人形達は個人の寄付が殆どだという。
「ああ。確かにそういった気配もあるが、そこまで強烈ではなかった。今回感じたのは怨霊とは違うとてつもない妖気を感じるんだ。それに今回は私一人で行く。明日香は関わらない方がいい。」
「どういうことですか?!」
「明日香は人間だから。それに・・・」そう話しかけたところに、母が慌てた様子で来た。
「明日香!瑠衣ちゃんが病院へ運ばれたって。お祖母様から連絡がきたわ。」
「えぇ!どういうこと!」
「学校から帰ってきて倒れたらしいの。今検査してるって。」
それを聞いた颯さんは「もしかして・・・。明日香、すぐ病院に行こう。」と言ったのだ。
「はい!」取るものもとりあえず、母の運転で急いで病院へ行った。
病室に入ると人形のように白い顔をして、目を開けているが全くの無表情で天井を見ている瑠衣がいた。病室には顔面蒼白の瑠衣の祖父母もいた。「明日香ちゃん…。」と苦しそうな表情で私を呼んだ。
息を吞んで「お祖父さん、お祖母さん。これは一体…。」と言うのが精一杯だった。
「学校から帰って部屋に入ったきり呼んでも返事が無かったから部屋に行ったの。そしたらブツブツ何か言っていて、名前を呼んでも反応しなくてね。そしたら急に意識が無くなって。慌てて救急車で病院に来たの。でもどこにも異常は無いって。だけど、こんな状態になってしまって…」と、お祖母さんが涙声で言った。
すると姿を消して私の側に居る颯さんが「瑠衣ちゃんから妖気がする。辛うじてお守りに守護されているがこのままでは乗っ取られる。」と言った。「え?!」 思わず叫んでしまった。まさかお守りが効かなかったの?!
「「??」」
瑠衣のおじいちゃんとおばあちゃんは一瞬不思議な顔をしたので、慌てて「瑠衣があまりにも白い顔してるのに異常が無いってどういうことかと思って。」と、取り繕った。
「本当にね。だが医者はどこも悪くないと言うんだ。この子は娘夫婦に散々傷つけられてその傷がやっと癒えたのに、またこんな事になってしまって。何故この子ばかり苦しまないといけないんだ。」とお祖父さんも辛そうに声を震わせた。
この瞬間、瑠衣をこのままには出来ない。助けたい。颯さんがダメと言っても一緒に行かなきゃ!
そう決意した。
娘の何かを察した母は「明日香。お母さん用事があるから帰らないと。また明日来たらどう?」
「うん、そうする。お祖父さんお祖母さんすみません。明日また来ます。瑠衣は強い子だから絶対に良くなると信じてます。」そう言って病室を後にした。
颯さんはずっと無言で何か考えているようだった。家に着いてから私は颯さんに話しかけた。
「颯さん、私も行きます。瑠衣を助けたい。」「・・・。」
「お願いします。一緒に行かせてください。」
「瑠衣ちゃんが元に戻るかは五分五分だ。あの状態だと体も心も乗っ取られるのは時間の問題だ。
明日香も憑依される恐れがあるんだ。そうなってしまったら私でも手を焼くかもしれない…。」と、重い口を開いた。
「自分の身は自分で守ります。私には精霊の笛という強い味方がいますから。絶対颯さんの足手まといにならないように気を付けますから。」そう懇願した。
すると「行くなら、これを持っていきなさい。」と父が小さな巾着袋に入った何かを持ってきた。
「これは?!」「御守りだよ。中には不動明王像が入ってる。明日香の力になってくれるよ。」
袋を開けるとシルバーグレーに赤褐色がちょんちょんと混じった高さ10㎝くらいの不動明王像が入っていた。
「父上。これは…。」颯さんが少し驚いている。
「颯。これで心配は無いよ。」
「この不動明王像は、この寺が開かれてからずっとあるものだ。強力な魔除けの石で出来ていてしかも不動様の霊力もたっぷりと入ってる。これで明日香は守られる。」
さらっと父は言ったが、つまり千年前の物。しかも当時は超貴重なヘマタイトの石。
「それって国宝級!というか国宝じゃない!!そんなの持って行ける訳ないじゃない!失くすかもしれないし壊れるかもしれない。そうなっても責任取れないし!無理無理!何考えてるのよ!あ~~もう!訳分かんない!」と喚いた。
そんな私に父は静かに「大丈夫。元々これはこういう時のためのものだ。」
「いや、しかし。」
「明日香、これを身に着けるなら連れて行こう。」
「・・・はぁ、分かった。でも何かあっても責任はとれないけど。」
そう言った私は間違っていないと思う。
そして夕飯にとんかつを食べてエネルギー補給をし、準備万端整えて夜10時頃歴史館へと向かった。
私は精霊の笛を母手作りの布袋に入れて袈裟懸けにし、太くて丈夫な縄に巾着袋の紐を通して腰に縄を何重にも厳重に巻いて結んだ。いつものように颯さんはオオカミに姿を変え、私は背中に跨った。
**
歴史館は街外れの東側にあり、豪農が住んでいた屋敷が今は歴史館となっている。
観光スポットとしても人気がある。棟門を入ると池泉回遊式の庭園があり、手入れがされた立派な松に、春は梅や桜夏はつつじ秋は紅葉を楽しめる。
建物の外観は入母屋造りでとても大きく、中に入ると手前から奥に部屋が三部屋あり、それぞれの部屋が20畳ほどある。襖で区切られた部屋を開け放ってひとつの空間にして展示がし易いようになっている。
**
歴史館に着くと、颯さんは建物の外から警戒しながら気配を探っている。
下弦の月が建物をうっすらと映している。不気味な静寂が辺りを包んでいた。
「外も中も気配が全然無い。」「隠れているのでしょうか?」
「中に入ってみよう。」そう言って、警戒しながら中へと入った。玄関に入って上がり框を昇る。
奥に少しずつ進むと、巨大な20段飾りのひな壇が一番奥の部屋にあった。何故かその部屋だけ明るく電気が灯っていた。
そして私達は展示スペースを見て驚愕した。そこには、ひな壇があるだけで人形が一体も無かったのだ。
「え!!!人形が無い!!」
「いや・・・。必ずこの屋敷内に居る。」
すると突然ハッ!!と颯さんは後ろを振り返った。その勢いにビクッとして私も後ろを見た。
「うっ・・・・!!」驚きすぎて声が上擦った。
いつの間にか私達の後ろにおびただしい数の人形が姿を現していた。
内裏雛、右大臣、左大臣、仕丁、三人官女、五人囃子。1000体はあるだろう。
その人形全ての眼が生きているように瞬き、しかも本来座っている形の人形も全部立っていた。
ふいに一対の親王が話し出した。「クックック!来たか。卑しい人間とあやかし風情が。
我らに勝てるつもりでおるのか。」「まあ、吾が君。そのような物言いはお控えなさいませ。このような下賤な者共、相手にする価値もございませぬ。」「そうよのう。ふ、ははは!」
「おほほほほ!」
それを皮切りに「さもありなん!」「身の程知らずが!!」「下郎!」「馬鹿に付ける薬など無いわ!」「月夜の蟹!」「うんつく!」「あばずれ!」「カッコつけんなよ!」など大昔から現代の悪口雑言のオンパレード。散々な言われようだった。
本来は美しくて可愛くて上品な雛人形が口汚く罵ってくる様ってどうよ。今後、自分のひな人形見たらトラウマになりそうだ・・・・。
言いたい放題の人形達を静かに見ていた颯さんだったが、ひと言「いい加減正体を現したらどうだ。妖鬼。」と言った瞬間ピタッと止り、静寂が戻った。
「クク。ほほほ。そうか。気付いていたのか。」男女の声が混じって聞こえた。その瞬間ぶわっ!と音がした。白い煙がもやもやと漂った後すぐに消えた。視界が戻った私達の前に立っていたのは非常に美しい顔立ちの白拍子だった。
年齢は20歳前後。ツヤツヤの黒髪、白い肌、シュっとして細く整った眉、切れ長の目に鼻筋がすっと高く小さく整った鼻翼、ほんの少し厚みがあって艶っぽくプルンとした薄桃色の唇。その顔立ちは日本人離れしたものだった。
そして手に扇、腰に太刀、頭には立烏帽子、狩衣に似た水干、赤い長袴の姿は完璧な美そのものだった。その姿に正直一瞬見惚れてしまった。
おびただしい数のひな人形は物言わぬ元の人形になって散らばっていた。
「よく私だと気づいたな。私の気配は消して人形どもの邪気を取り込んで身に纏っていたはずなのに。」いつの間にか女性の声だけになった。
人間の姿となった颯さんは
「先ほどまではっきりと分からなかった。だが、お前が喋ってくれたおかげで気付いた。」
「ほほ!吾と分かっても何も出来まい!出来損ないのあやかしと下等な人間風情、吾とは格が違うからな。」そう言って、綺麗な口元に弧を描き、歪んだ笑顔を見せた。
その瞬間背筋に嫌な汗が流れ、鳥肌が立って悪寒が走った。相当ヤバい奴だ。綺麗な顔して言う事は辛辣だし、一瞬でも見惚れてしまった私は後悔した。こんな奴全然綺麗じゃない。醜い化け物だ!
「どうして瑠衣をあんな風にしたの?!彼女を元に戻して!」私は思わず叫んでいた。
「ああ、あの女か。ほほほ!吾の一部になる名誉を与えたまでだ。あの女の心は吾と似ていたからな。もうすぐ吾と同化する。」
「似ている?!どこが?彼女の心は綺麗だよ。貴女なんか歪みまくってるじゃない。彼女と一緒にしないで!」すると、歪んだ笑顔をさらに深くして、
「は!!これだから下等な生き物は疲れる。あの女のどこが綺麗と言う?!苦しみ悲しみ、心の奥底には憤怒と怨嗟の炎が渦巻いているというのに。それを隠しながら生きていくよりも吾と同化して報復出来た方がどれだけ救いになるか。お前のような生温い世界で生きてきた人間には分かるまい。親に疎んじられ捨てられた者の気持ち。お前などには到底理解出来ぬ。」
「瑠衣はそんな事望んでない。勝手なこと言わないでよ!確かに彼女の生い立ちは辛くて苦しかった。心の奥底に恨み、怒りを持ってるのは否定しない。だからと言って彼女はそれで報復しようなんて考えない。それに今瑠衣は前向きに生きてる。私はそんな彼女が好きだからこの先ずっと友達でいたい。貴女は単に人間の負の感情を養分にしたいだけじゃない!」
「そういうのを御為倒しと云う。だが、お前の怒りも中々旨味がある。お前も同化する名誉をやろう。」
「絶対お断り!!」
「明日香やめるんだ。お前が怒るように煽ってる。人間の怒りと苦しみの感情は妖鬼の大好物だからな。それを自分に取り込んで今もここにいる。公家だったというのに憎しみに囚われ妖鬼に落ちてしまったんだ。」
妖鬼の肩がピクッと僅かに揺れた。
「お前に何が分かる!お父様にもお母様にも似ていない鬼の子供と言われ、産まれてすぐに暗い牢へ放り込まれ18年間居ないものとして扱われた。吾が辛うじて生きられたのは、お父様に不義を疑われたお母様も一緒に牢に入れられたからだ。お母様は自分の潔白を訴え続けたがお父様が聞く耳を持たなかった。お母様は絶望の中私を庇い食事も何もかもままならぬ中、必死に自分を奮い立たせて何とか育ててくれた。だが吾が15歳の時無理が祟って悲しみと苦しみに塗れて亡くなった。お母様が亡くなり、吾は孤独と戦いながら3年必死に生き永らえていた。そんな時、天災、飢饉、疫病が国中を襲った。この難局を乗り超えるには神に位の高い男女の生贄を捧げよと、どこぞの占い師が言った。その生贄に選ばれたのが吾と御上の落胤だった。吾は自分の運命を呪った。お父様と云う悪魔を憎み世を恨んだ。呪詛の言葉を吐き続けながら吾は御上の落胤と共に殺された。この悔しさは誰にも理解出来ぬわ!」
何と壮絶な人生・・・・。自分は何も悪いことはしていないのにそんな理不尽な事をされたとは。
確かに世の中を恨み、憎みたくなるだろう。
でも、だからと言って関係無い人を巻き込むのは違う。この世に災いを齎すのは間違ってる。
瑠衣は必ず返してもらう。
「もう一度現世に帰って来ればいい。」そう颯さんが言った。
私には二人の親友がいる。一人は小学校の頃に出会った。もう一人はまだもう少し先、大学で出会う。
小学校からの親友白羽根瑠衣は颯さんと秘密の結婚式を挙げたときにも家族以外で唯一彼女だけ招待した。
颯さんがあやかしだということを含め全て彼女に話したが、最初は信じなかった。
自分だって信じられなかったもん。信じられなくて当たり前だ。
そして兄と同じ事を言われた。「まさか、なんか間違いでもあったの?!」
「その台詞、お兄ちゃんにも言われたよ・・・。」
「そりゃそうでしょ!絶対騙されてるよ!」と、散々な言われようだった。
でも実際に会ったら、そンな事言ったなんて忘れたらしく、颯さんの美貌にうっとりして頬を真っ赤に染めながら「初めまして。白羽根瑠衣と言います。明日香の親友です。宜しくお願いします。」とか言って挨拶していた。
そんな瑠衣に颯さんは一瞬だけ瞠目した。不思議に思った私はどうしたのか聞いてみると、700年前に人身御供にされそうになっていた村娘にそっくりだという。きっと生まれ変わりなのだろう。
それを聞いた瑠衣も驚きを隠せなかったようである。本当に不思議な縁でつながっている。
そんな彼女が、とんでもない事態に巻き込まれたのだった。
****
瑠衣は今、母方の祖父母と生活している。
初めて出会ったのは、同じクラスになって隣の席になったからだった。
なんとなくこの子とは長い付き合いになる。そんな風に感じた。
仲良くなりたいと思って話しかけても目が虚ろで何も話さない。ただ怯えて震えているだけだった。
様子がおかしいと思って担任の先生に話したのがきっかけで瑠衣が家庭でどんな扱いを受けてたのか
が後で分かった。彼女は両親から虐待を受けてボロボロの精神状態だった。
身体に傷つけるのではなく精神的に追い詰める虐待。いわゆるモラハラだ。その過酷さは常軌を逸していたという。瑠衣は両親から離されて保護され、母方の祖父母に引き取られた。
一時的に精神を病んだ彼女は病院に入院した。その時に少しでも元気になって欲しいと思ってお菓子やぬいぐるみ、漫画本にゲームやおもちゃなどを持って母と一緒に足しげくお見舞いに行ったのが仲良くなるきっかけだった。
退院してから家へ遊びに来るようになった。霊水が大のお気に入りになったので、私が毎日水筒に入れて学校に持って行った。お寺の風景が気に入って絵を描くようになった。少しづつ心を開いて、話をしてくれるようになった。一歩づつ、一歩づつお互いを知って絆を深めていった。
今では心から信頼できる間柄だ。
瑠衣は美術部の部活が忙しく私は帰宅部だったので時間が合わず一緒に帰った事は無かった。
高校卒業後、彼女は都会の美術大学へ進学する。将来画家になるのが彼女の夢だ。
年が明けてしばらくしたある日、瑠衣がカフェに行こうと誘ってきた。
「どこ行く?」と聞くと、「ペンギン行こう」と言った。
ペンギンカフェはチーズケーキが絶品でコーヒーも美味しい。価格がセットで500円とリーズナブルなので私達にはちょうどいい。
「チーズケーキとコーヒー下さい」「私も」と同じものを注文した。
ケーキとコーヒーが来る前に瑠衣が話し始める。
「ねえ、明日香。人形って魂宿るっていうけれど、本当なのかな」
「う~ん、颯さんとお父さんに聞いてみないと何とも言えないけど、魂が籠りやすいということは聞いたことあるよ。何かあった?」
「ほら、3日前から歴史館で古いひな人形の展示やってるでしょ。昨日絵を描きたくて行ったんだ。20段飾りになってて、1000体くらいあってね。それはすごいんだよ。」
「うんうん。瑠衣が好きそうだね」
「壮観で、もう夢中になって描いてたんだ。そしたら閉館時間になってしまって。慌てて出たんだけど鞄忘れたのに気付いて取りに戻ったの。で、展示室の扉開けたら妙な違和感があってね。何だろうと思ってよく見たら、眼が瞬いてたの…。」
「え!全部?」
「うん。ものすごく怖くなって、鞄取って慌てて出た。」彼女はそういって震えた。
「それは・・。その後から何か変わったこととかある?」
「それが…悪夢を見るようになってしまってね。ものすごい数の人形が家まで来て私を見つめて、迫ってくるの。すごく怖い。」もしや、とり憑かれているかも・・・。
そう思った私はとっさに鞄からあるものを出して瑠衣に渡した。
「これあげるから肌身離さず持ってて!絶対離しちゃだめだよ!寝るときも側に置いてね。」
そう言って彼女に渡したのはうちのお寺の厄除け守り。しかも颯さんの強力なパワーも入っている私の為の特製お守りだがそんな事言ってられない。
「ありがとう。いつも身に着けていればいいの?!お風呂や、寝るときも?」
「うん。どんな時でも絶対にお守り離しちゃダメ!いつも側に置いてね。」
そう言い聞かせてその日はそれで帰った。そして自宅に帰って父と颯さんにあわてて話した。
「実は3日前から尋常じゃない邪悪な気配を感じていた。だがその気配がどこから来るのか分からなかったんだ。」
「颯さんでも分からない事があるんですか?!」
「ああ。魔物も私の事を認識しているから、気配を方々へ拡散させて場所が分からないようにしていたのだと思う。」
すると父も
「瑠衣ちゃんの命にかかわるかもしれない。
お守りを渡してあるなら今夜のところは大丈夫だと思うが、一刻も早く浄化しないといけない。」
「え!そんなに危険なんですか!」
「「かなり危ないね(よ)」」二人が同時に言った。
「歴史館には今夜行く。」「はい。ご一緒します。」と、二人の部屋に戻り早速支度を始めた。「なら、夕飯はとんかつにしようか!」と母が言って、いつも用意している特大のブロック肉を厚く切り始めた。
魔物浄化に行く前には母は必ず験を担ぐ。入試じゃあるまいし!とも思うが、肉は颯さんの大好物だから、これで良しとしている。
颯さんは浄化に行く前、私にいつも注意点を話してくれる。今回はかなり厄介だ。
「ひな人形というのは、元々産まれてきた子供が災厄に見舞われないよう人形に移し、身代わりとして作られたものだから魂が入りやすいんだ。魂の入っていない人形に災厄を宿した魂が生まれる。魂を持ってしまった人形であっても毎年飾って、愛し、手入れをされている時は決して災いをもたらす事は無い。だが古くなり、時代とともに忘れられ、供養もされず粗末に扱われた人形は時間が経てば経つほど強烈な怨霊となってしまう。」
「つまり、歴史館に展示されている人形達は忘れられていた存在という事ですか?」
今、展示されている人形達は個人の寄付が殆どだという。
「ああ。確かにそういった気配もあるが、そこまで強烈ではなかった。今回感じたのは怨霊とは違うとてつもない妖気を感じるんだ。それに今回は私一人で行く。明日香は関わらない方がいい。」
「どういうことですか?!」
「明日香は人間だから。それに・・・」そう話しかけたところに、母が慌てた様子で来た。
「明日香!瑠衣ちゃんが病院へ運ばれたって。お祖母様から連絡がきたわ。」
「えぇ!どういうこと!」
「学校から帰ってきて倒れたらしいの。今検査してるって。」
それを聞いた颯さんは「もしかして・・・。明日香、すぐ病院に行こう。」と言ったのだ。
「はい!」取るものもとりあえず、母の運転で急いで病院へ行った。
病室に入ると人形のように白い顔をして、目を開けているが全くの無表情で天井を見ている瑠衣がいた。病室には顔面蒼白の瑠衣の祖父母もいた。「明日香ちゃん…。」と苦しそうな表情で私を呼んだ。
息を吞んで「お祖父さん、お祖母さん。これは一体…。」と言うのが精一杯だった。
「学校から帰って部屋に入ったきり呼んでも返事が無かったから部屋に行ったの。そしたらブツブツ何か言っていて、名前を呼んでも反応しなくてね。そしたら急に意識が無くなって。慌てて救急車で病院に来たの。でもどこにも異常は無いって。だけど、こんな状態になってしまって…」と、お祖母さんが涙声で言った。
すると姿を消して私の側に居る颯さんが「瑠衣ちゃんから妖気がする。辛うじてお守りに守護されているがこのままでは乗っ取られる。」と言った。「え?!」 思わず叫んでしまった。まさかお守りが効かなかったの?!
「「??」」
瑠衣のおじいちゃんとおばあちゃんは一瞬不思議な顔をしたので、慌てて「瑠衣があまりにも白い顔してるのに異常が無いってどういうことかと思って。」と、取り繕った。
「本当にね。だが医者はどこも悪くないと言うんだ。この子は娘夫婦に散々傷つけられてその傷がやっと癒えたのに、またこんな事になってしまって。何故この子ばかり苦しまないといけないんだ。」とお祖父さんも辛そうに声を震わせた。
この瞬間、瑠衣をこのままには出来ない。助けたい。颯さんがダメと言っても一緒に行かなきゃ!
そう決意した。
娘の何かを察した母は「明日香。お母さん用事があるから帰らないと。また明日来たらどう?」
「うん、そうする。お祖父さんお祖母さんすみません。明日また来ます。瑠衣は強い子だから絶対に良くなると信じてます。」そう言って病室を後にした。
颯さんはずっと無言で何か考えているようだった。家に着いてから私は颯さんに話しかけた。
「颯さん、私も行きます。瑠衣を助けたい。」「・・・。」
「お願いします。一緒に行かせてください。」
「瑠衣ちゃんが元に戻るかは五分五分だ。あの状態だと体も心も乗っ取られるのは時間の問題だ。
明日香も憑依される恐れがあるんだ。そうなってしまったら私でも手を焼くかもしれない…。」と、重い口を開いた。
「自分の身は自分で守ります。私には精霊の笛という強い味方がいますから。絶対颯さんの足手まといにならないように気を付けますから。」そう懇願した。
すると「行くなら、これを持っていきなさい。」と父が小さな巾着袋に入った何かを持ってきた。
「これは?!」「御守りだよ。中には不動明王像が入ってる。明日香の力になってくれるよ。」
袋を開けるとシルバーグレーに赤褐色がちょんちょんと混じった高さ10㎝くらいの不動明王像が入っていた。
「父上。これは…。」颯さんが少し驚いている。
「颯。これで心配は無いよ。」
「この不動明王像は、この寺が開かれてからずっとあるものだ。強力な魔除けの石で出来ていてしかも不動様の霊力もたっぷりと入ってる。これで明日香は守られる。」
さらっと父は言ったが、つまり千年前の物。しかも当時は超貴重なヘマタイトの石。
「それって国宝級!というか国宝じゃない!!そんなの持って行ける訳ないじゃない!失くすかもしれないし壊れるかもしれない。そうなっても責任取れないし!無理無理!何考えてるのよ!あ~~もう!訳分かんない!」と喚いた。
そんな私に父は静かに「大丈夫。元々これはこういう時のためのものだ。」
「いや、しかし。」
「明日香、これを身に着けるなら連れて行こう。」
「・・・はぁ、分かった。でも何かあっても責任はとれないけど。」
そう言った私は間違っていないと思う。
そして夕飯にとんかつを食べてエネルギー補給をし、準備万端整えて夜10時頃歴史館へと向かった。
私は精霊の笛を母手作りの布袋に入れて袈裟懸けにし、太くて丈夫な縄に巾着袋の紐を通して腰に縄を何重にも厳重に巻いて結んだ。いつものように颯さんはオオカミに姿を変え、私は背中に跨った。
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歴史館は街外れの東側にあり、豪農が住んでいた屋敷が今は歴史館となっている。
観光スポットとしても人気がある。棟門を入ると池泉回遊式の庭園があり、手入れがされた立派な松に、春は梅や桜夏はつつじ秋は紅葉を楽しめる。
建物の外観は入母屋造りでとても大きく、中に入ると手前から奥に部屋が三部屋あり、それぞれの部屋が20畳ほどある。襖で区切られた部屋を開け放ってひとつの空間にして展示がし易いようになっている。
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歴史館に着くと、颯さんは建物の外から警戒しながら気配を探っている。
下弦の月が建物をうっすらと映している。不気味な静寂が辺りを包んでいた。
「外も中も気配が全然無い。」「隠れているのでしょうか?」
「中に入ってみよう。」そう言って、警戒しながら中へと入った。玄関に入って上がり框を昇る。
奥に少しずつ進むと、巨大な20段飾りのひな壇が一番奥の部屋にあった。何故かその部屋だけ明るく電気が灯っていた。
そして私達は展示スペースを見て驚愕した。そこには、ひな壇があるだけで人形が一体も無かったのだ。
「え!!!人形が無い!!」
「いや・・・。必ずこの屋敷内に居る。」
すると突然ハッ!!と颯さんは後ろを振り返った。その勢いにビクッとして私も後ろを見た。
「うっ・・・・!!」驚きすぎて声が上擦った。
いつの間にか私達の後ろにおびただしい数の人形が姿を現していた。
内裏雛、右大臣、左大臣、仕丁、三人官女、五人囃子。1000体はあるだろう。
その人形全ての眼が生きているように瞬き、しかも本来座っている形の人形も全部立っていた。
ふいに一対の親王が話し出した。「クックック!来たか。卑しい人間とあやかし風情が。
我らに勝てるつもりでおるのか。」「まあ、吾が君。そのような物言いはお控えなさいませ。このような下賤な者共、相手にする価値もございませぬ。」「そうよのう。ふ、ははは!」
「おほほほほ!」
それを皮切りに「さもありなん!」「身の程知らずが!!」「下郎!」「馬鹿に付ける薬など無いわ!」「月夜の蟹!」「うんつく!」「あばずれ!」「カッコつけんなよ!」など大昔から現代の悪口雑言のオンパレード。散々な言われようだった。
本来は美しくて可愛くて上品な雛人形が口汚く罵ってくる様ってどうよ。今後、自分のひな人形見たらトラウマになりそうだ・・・・。
言いたい放題の人形達を静かに見ていた颯さんだったが、ひと言「いい加減正体を現したらどうだ。妖鬼。」と言った瞬間ピタッと止り、静寂が戻った。
「クク。ほほほ。そうか。気付いていたのか。」男女の声が混じって聞こえた。その瞬間ぶわっ!と音がした。白い煙がもやもやと漂った後すぐに消えた。視界が戻った私達の前に立っていたのは非常に美しい顔立ちの白拍子だった。
年齢は20歳前後。ツヤツヤの黒髪、白い肌、シュっとして細く整った眉、切れ長の目に鼻筋がすっと高く小さく整った鼻翼、ほんの少し厚みがあって艶っぽくプルンとした薄桃色の唇。その顔立ちは日本人離れしたものだった。
そして手に扇、腰に太刀、頭には立烏帽子、狩衣に似た水干、赤い長袴の姿は完璧な美そのものだった。その姿に正直一瞬見惚れてしまった。
おびただしい数のひな人形は物言わぬ元の人形になって散らばっていた。
「よく私だと気づいたな。私の気配は消して人形どもの邪気を取り込んで身に纏っていたはずなのに。」いつの間にか女性の声だけになった。
人間の姿となった颯さんは
「先ほどまではっきりと分からなかった。だが、お前が喋ってくれたおかげで気付いた。」
「ほほ!吾と分かっても何も出来まい!出来損ないのあやかしと下等な人間風情、吾とは格が違うからな。」そう言って、綺麗な口元に弧を描き、歪んだ笑顔を見せた。
その瞬間背筋に嫌な汗が流れ、鳥肌が立って悪寒が走った。相当ヤバい奴だ。綺麗な顔して言う事は辛辣だし、一瞬でも見惚れてしまった私は後悔した。こんな奴全然綺麗じゃない。醜い化け物だ!
「どうして瑠衣をあんな風にしたの?!彼女を元に戻して!」私は思わず叫んでいた。
「ああ、あの女か。ほほほ!吾の一部になる名誉を与えたまでだ。あの女の心は吾と似ていたからな。もうすぐ吾と同化する。」
「似ている?!どこが?彼女の心は綺麗だよ。貴女なんか歪みまくってるじゃない。彼女と一緒にしないで!」すると、歪んだ笑顔をさらに深くして、
「は!!これだから下等な生き物は疲れる。あの女のどこが綺麗と言う?!苦しみ悲しみ、心の奥底には憤怒と怨嗟の炎が渦巻いているというのに。それを隠しながら生きていくよりも吾と同化して報復出来た方がどれだけ救いになるか。お前のような生温い世界で生きてきた人間には分かるまい。親に疎んじられ捨てられた者の気持ち。お前などには到底理解出来ぬ。」
「瑠衣はそんな事望んでない。勝手なこと言わないでよ!確かに彼女の生い立ちは辛くて苦しかった。心の奥底に恨み、怒りを持ってるのは否定しない。だからと言って彼女はそれで報復しようなんて考えない。それに今瑠衣は前向きに生きてる。私はそんな彼女が好きだからこの先ずっと友達でいたい。貴女は単に人間の負の感情を養分にしたいだけじゃない!」
「そういうのを御為倒しと云う。だが、お前の怒りも中々旨味がある。お前も同化する名誉をやろう。」
「絶対お断り!!」
「明日香やめるんだ。お前が怒るように煽ってる。人間の怒りと苦しみの感情は妖鬼の大好物だからな。それを自分に取り込んで今もここにいる。公家だったというのに憎しみに囚われ妖鬼に落ちてしまったんだ。」
妖鬼の肩がピクッと僅かに揺れた。
「お前に何が分かる!お父様にもお母様にも似ていない鬼の子供と言われ、産まれてすぐに暗い牢へ放り込まれ18年間居ないものとして扱われた。吾が辛うじて生きられたのは、お父様に不義を疑われたお母様も一緒に牢に入れられたからだ。お母様は自分の潔白を訴え続けたがお父様が聞く耳を持たなかった。お母様は絶望の中私を庇い食事も何もかもままならぬ中、必死に自分を奮い立たせて何とか育ててくれた。だが吾が15歳の時無理が祟って悲しみと苦しみに塗れて亡くなった。お母様が亡くなり、吾は孤独と戦いながら3年必死に生き永らえていた。そんな時、天災、飢饉、疫病が国中を襲った。この難局を乗り超えるには神に位の高い男女の生贄を捧げよと、どこぞの占い師が言った。その生贄に選ばれたのが吾と御上の落胤だった。吾は自分の運命を呪った。お父様と云う悪魔を憎み世を恨んだ。呪詛の言葉を吐き続けながら吾は御上の落胤と共に殺された。この悔しさは誰にも理解出来ぬわ!」
何と壮絶な人生・・・・。自分は何も悪いことはしていないのにそんな理不尽な事をされたとは。
確かに世の中を恨み、憎みたくなるだろう。
でも、だからと言って関係無い人を巻き込むのは違う。この世に災いを齎すのは間違ってる。
瑠衣は必ず返してもらう。
「もう一度現世に帰って来ればいい。」そう颯さんが言った。