「……あれがスケルトン」

「確かに聞いていた通りだな……」

 敵陣に見える骸骨集団を見て、レオは息をのむ。
 剣や槍などの武器を持ち、行進する様は不気味で気味が悪い。
 あんなのと戦うことになるのかと思うと、身のすくむ思いがする。
 精鋭として集められたスパーノも、骸骨軍団に若干引いているようだ。

「それにしてもこの数は……、話より増えていないか?」

 彼の場合はスケルトン自体に脅威を覚えているというよりも、その数の方が気になっているようだ。
 万を超える骸骨たちに襲い掛かられたら、どんなに強くてもその内力尽きるのが目に見えているからだろう。
 しかも、話だと1万くらいだと言っていたスケルトンたちの数は、どう見てもその数は余裕で越えているように思える。

『やっぱり何らかの方法で増やしているのか……?』

 もしかしたら、自分のスキルと似たような能力なのかもしれないと考えていたのだが、数の増え方からいって自分とは違うようだ。
 レオのスキルだと、自作の人形でないと自動で動かせられない。
 人骨だと組み立てられないので、当然レオは動かすことができない。
 どうやら自分のとは似て非なる物だと、レオは頭の中で考えていた。
 しかし、この考えはレオの仮説でしかないため、今は言うつもりない。
 というより、指揮官の男は何やら不快感を滲ませている。
 言ったところで一蹴されるのがおちだろう。

「近くにいる市民兵には全く危害を加える素振りがない。もしかして何かの能力か?」

「っ!! 流石ですね。そんな風に考えるなんて……」

 誰かに説明するとなると、もしかしたら自分の能力も説明しなければならなくなる。
 ファウストにも言われているように、自分の能力はできればなるべく知られたくない。
 しかし、あの指揮官はともかく、ここに集められた精鋭たちには知らせておきたいと思っていた。
 彼らなら何か対策が見つかるかもしれないと思ったからだ。
 その説明をいつするべきかと考えていると、スパーノは自力でその考えにたどり着いていたようだ。
 多くの戦闘を潜り抜けてきた経験によるものなのだろうか。
 レオはスパーノの洞察力に思わず感心してしまった。

「何だ? お前もそう考えていたのか?」

「はい。しかし説明のしようがないので……」

「確かにな」

 レオの言葉で自分と同じように考えていたと知り、スパーノは意外そうに問いかけてきた。
 一番下の騎士爵とは言え、貴族のレオがそのように考えるとは思ってもいなかったようだ。
 あくまで仮説でしかないため、それを説明するのは難しい。
 スパーノも同じらしく、レオの言葉に頷きを返した。

「しかし、ここに集まった者たちの中には同じ考えの奴は結構多いと思うぜ」

「そうなんですか?」

「あぁ、不可解のことが起こったらスキルによるものだったってのは冒険者じゃあよくある話だからな」

 貴族のレオが知っているのが意外だと思ったのは、これが理由だったようだ。
 冒険者だと不可解な事件に巻き込まれることがあるらしい。
 特にここにいる精鋭たちは高ランク冒険者が多いので、そう言ったことにかかわる確率が高い。
 そのため、他の冒険者たちもスパーノと同じように何かしらの能力によるものではないのかと考えているようだ。

「まぁ、俺たちは市民兵の相手だ。スケルトンは他の貴族様に任せりゃいい」

「はい……」

「出来れば殺さずにいきたいところだが……」

「そうも言っていられないですからね」

 スパーノの言うように、スケルトンの相手は他の貴族がするから、レオたちは市民兵をどうにかするように指揮官の男から言われていた。
 それはそれでレオは気が重い。
 強制奴隷にされた、何の罪もない市民を相手にしなくてはならないからだ。
 しかし、手心を加えれば、自分や仲間の命に危険が及ぶ。
 そうならないためにも、手にかけることも考えておかないとだめだろう。

「あいつのことは気に入らないが、俺たちもやることやらないとな」

「そうですね……」

 市民兵の方を相手にする指揮官の男は、時折レオを睨むように見てくる。
 わざわざ招集に従ってくれた精鋭たちにも上から目線で、かなり態度が悪い。
 爵位だけの指揮官なら、何もしないでくれるのが一番ありがたいのだが、やっぱり貴族は面倒なものだと思えてくる。

「話に聞いたら、あの指揮官ローデラとかいう奴の従弟らしいぜ」

「それでですか……」

 何で自分を睨んでくるのかの理由が、ようやく理解できた。
 ローデラ男爵は、平原の戦いで敵の策にハマり、イルミナートに殺された。
 そのこともあって、血のつながった兄弟であるレオのことを憎らしく思っているようだ。
 いつの頃からか、レオはイルミナートのことは兄とは思っていないのだが、あの兄との関係を無視した考えで気に入らない。
 だからと言って、さすがに負ける訳にはいかない。
 囮の役をしっかりやろうではないか。

「それより……本当にお前の言うようにして大丈夫か?」

「はい。問題ないです」

「……分かった」

 あの指揮官は、もしかしたらレオを囮にして自分がカロージェロたちを仕留めたいのかもしれない。
 そうすれば、従弟の復讐ができると共に手柄が得られる。
 しかし、そんなことをさせるつもりはない。
 昨日のうちに、レオはスパーノを通じて精鋭の者たちにある策を通してある。
 スパーノの問いは、その危険性を感じてのものだろう。
 しかし、レオが自信満々に答えを返したことで、スパーノは納得したように他の者たちに目配せをした。
 そして、レオとスパーノは、間もなく始まるであろう戦いに意識を集中することにした。





「レオポルド!!」

 戦いが始まったらしく、敵も味方も進軍を開始する。
 そして、先頭を走る市民兵が見えた所で指揮官の男がレオに行けと言うジェスチャーをしている。
 奴隷兵の背後にカロージェロ親子の姿を確認したようだ。

「行きましょう!!」

「おうっ!」

 指示も出たことだし、レオはスパーノと他の精鋭たちと共に移動を開始する。
 そして、少し進むと市民兵と戦うことになった。

「ギャッ!!」「うあっ!!」

 精鋭たちからすれば、市民兵の相手なんて何の問題もなく。
 攻めかかってくる市民兵を蹴散らしていた。
 レオも申し訳ないと思いつつも身を守るために倒していく。
 ガイオに習っていた剣が役に立っているようだ。





「父上!! レオポルドです!! あそこにレオポルドの姿が!!」

「何っ!! あの餓鬼!!」

 市民兵がやられて行くのを眺めつつも、カロージェロとイルミナートの親子は余裕で戦場を眺めていた。
 もしも市民兵が全員やられたら、スケルトンたちの後ろへと逃げればいいだけのことだからだ。
 そう思っていたところ、イルミナートが1人の少年に目を向ける。
 その姿を見た瞬間、2人はあまりの怒りの感情で瞳孔が開いた。

「お待ちください!! 奴らの罠かもしれません!!」

「しかし、ここで仕留めないといつチャンスが迎えられるか……」

 レオの姿を見た瞬間、カロージェロは乗っている馬を走り出させようとする。
 どれだけ視野狭窄に陥っているのだろう。
 その気持ちはイルミナートも分からなくもない。
 役立たずのくせに、自分たちから爵位を奪い取った憎むべき存在だからだ。
 完全に自分たちの自業自得ということを棚に上げた考えだ。
 病弱のレオがこんな所にいるということは、恐らく囮として連れて来られたのだろう。
 レオの体質が改善されていると考えていない2人は、その罠を利用してこの場でレオを殺す方法を考え始めた。

「見てください! 奴は他の者たちに守られているだけで、たいしてこちらの兵を相手にしていません」

「そりゃ、あの餓鬼が戦えるとも思えんしな……」

 2人のなかでは、レオはいつまで経っても病弱の役立たずという印象が抜けない。
 そのため、周りの兵たちに隠れているのが当然だと感じていた。

「こちらの兵を使ってあいつを孤立させれば良いのです!」

「なるほど……」

 イルミナートの考えを聞いたカロージェロは、レオの殺害の機を逃すまいと、笑みを浮かべて市民兵たちに指示を出したのだった。