「お前がレオポルドか?」
「はい! レオポルド・ディ・ヴェントレと申します」
呼び出されたレオは、いつものようにベンヴェヌートに島のことを任せ、指示通り前線へと向かうことになった。
今回招集された者たちと共に1つの部屋で待っていると、参戦している貴族たちが入室してきた。
ここにいる者がどういう経緯で呼ばれたかの説明や、敵の勢力についての説明がおこなわれて行く。
説明が終了すると、周りの者たちと比べて弱そうなことが判断材料になったのか、1人の貴族が歩み寄ってきた。
名前も名乗らずに問いかけて来てと思わなくもないが、レオはひとまず返答をした。
「そうか。お前が……」
相手の貴族は180cm近くの身長があるため、170cm位しかないレオを見下ろす形になっている。
レオの返答を聞くと、その貴族の目付きは険しいものに変わっていく。
この貴族のことは知らないため、どうして睨みつけられているのかレオには分からない。
他の貴族たちも眉をひそめているのが見えるので、どうせ父のカロージェロと因縁でもあるのだろうと、レオはたいして気にすることなく次の言葉を待った。
「先程も説明したように、我々は敵の数に押されて拠点の後退を余儀なくされている。せめてカロージェロの率いる市民兵を潰して数を減らしたいと思っている」
「はい……」
初戦で撤退を余儀なくされた王国軍は、戦うたびに増えるスケルトンの相手に手こずり、そのままズルズルと後退を続けるしかなかった。
それが続き、いつの間にか国境付近にまで押し戻されてきてしまった。
このままでは他の領に侵攻されてしまうだけでなく、王都に近付けてしまうことになる。
何としてもここで抑えておきたいため、まず市民兵を指揮しているカロージェロとイルミナートの親子を仕留めたい。
そのために呼び寄せたのがここにいる精鋭たちだが、レオだけが異質な感じになっている。
「そこで、お前には父と兄の意識を集中するために協力してもらいたい」
「……失礼ながら、あの者がそれに乗るかは分かりませんが?」
遠回しに言っているが、明らかに囮になれと言っているのだと分かる。
それは予想されたことだったので驚きはしないが、カロージェロがそんな誘いに乗るのか疑問だ。
2人は市民兵の後方に待機し、命令しているだけという話だ。
自ら危険な所へ出てくるとは考えにくい。
「それはお前がどこまで奴らに迫れるかにかかっている。指示に従え!」
「……分かりました」
暗殺を失敗して内乱罪で王国内に指名手配されたこともあり、カロージェロたちは自分のことを恨んでいるだろう。
なので、もしかしたら自分を狙ってくる可能性もあるが、ビビりで有名な2人が本当に出てくるかはレオの中では微妙に思える。
今回この貴族の男が自分を呼んだのは、捨て駒になっても良いという考えなのかもしれない。
関係ないといっても血のつながった親兄弟には変わりがない。
所詮爵位の低い者なのだから、この貴族の中ではどうなっても構わないのだろう。
結局名すら名乗らないこの貴族の態度が気に入らないが、元々囮になることは想定していたのでレオはこの指示を受け入れるしかなかった。
「では、決行日まで皆この部屋での待機を命ずる!」
そう言うと、この貴族を筆頭にして他の貴族たちも出ていくことになった。
中には何か言いたそうな表情をしている貴族の者もいたが、先頭の男の顔色を窺ってか、口をつぐんで出て行ってしまった。
「チッ! あの貴族の野郎態度でけえな……」
「……あまり大きな声で言わない方がいいですよ」
貴族たちが全員出ていくと、レオの側に1人の男性が近寄ってきて先程の貴族の態度に立腹していた。
どうやらあの貴族は、貴族以外を下に見る傾向が強いようだ。
レオの場合は、貴族であってもカロージェロの息子だからという理由なのかもしれない。
そんな貴族主義者に文句を言おうものなら、不敬罪で処罰されかねない。
そのため、レオは分かっていているとは思いつつも、男性に形ばかりの忠告をした。
「へっ! こっちは陛下からの要請でもあるんだ。文句言ったくらいで不敬罪とか言うなら、そのまま陛下に言えって話だ!」
「そうですね……」
状況の悪さから、あの貴族が陛下に嘆願したのだろう。
王都への侵入を防ぐため、精鋭を集めさせてくれとでも言ったのかもしれない。
国としても王都に侵入されては困るので了承したのだろうが、人選までは関わらなかったのだろうか。
もしも王が自分を囮に使うことを許したというのであれば、不信感が湧いてくる。
どうにか生き残って真意を尋ねたいところだ。
「……同じ貴族でも、お前はあいつとは色々違うみてえだな?」
「所詮ギリギリ貴族の騎士爵ですから……」
さっきのやり取りで、レオが家名を名乗ったところから貴族だということは理解できているはず。
それなのに、初対面でしかもため口で話している男。
そんな事をしたら喚きそうなさっきの貴族と違い咎めたりしないため、レオが貴族っぽくないという印象を受けたのだろう。
敬語を使われないことなんて島ではよくあることなので、文句なんて言うつもりはない。
同じ貴族でも騎士爵は平民同然という者がいるのも知っているため、レオは自嘲気味に言葉を返した。
「それにしても囮にされて何で文句言わねんだ?」
「いい機会だと思いまして……」
「……いい機会?」
さっきの貴族の態度からすると、直接言わないまでも囮だということはみんな分かっている。
それを分かった上で、レオがそれを受け入れたことにこの男性は疑問に思ったのだろう。
別に隠しておくことでもないので、レオは男性の質問に対し自分が思っていることを言うことにした。
しかし、レオの言葉に男性は首を傾げる。
「父と兄が他国に逃げたと聞いた時は、悔しい思いをしていました。今回のことで出来れば王国軍には捕縛してもらいたいです」
「捕縛? 殺害ではなく?」
「えぇ! 大衆の面前で断罪されて確実に死んだという結果が無いと、僕は安心できない小心者なので……」
父と兄がルイゼン側についていると知った時、レオは驚いた。
それと同時に、今度こそ捕まえるいい機会だと思った。
男性の言うように殺害の方がいいように思えるが、戦場で死んだと聞いていた者が生きていたとか言うことは起こり得ることだ。
そんな可能性すらもないように、2人を捕まえてキッチリ処刑したとならないとレオの中ではスッキリしないと感じていたのだ。
「……ハハッ! 面白い奴だなお前」
「そうですか?」
いくら敵に与したとは言っても血のつながった親と兄だ。
捕縛と言って、何か温情でも願う甘ちゃんなのかと思っていたが違ったようだ。
この少年は、2人がどこかでのうのうと生きていられることが許せないのだろう。
かなり冷徹なことを言ったというのに、男性は何だかおかしそうに笑みを浮かべた。
笑う要素があっただろうかと、レオは首を傾げた。
「俺はスパーノだ。よろしくな!」
「レオポルドです。よろしくお願いします!」
理由はともかく、気に入られたのは良かった。
スパーノと名乗った男性が握手を求めてきたので、レオも名乗って握手に応じた。
「レオは、俺が守ってやるよ。だから親父たちをどうにか捕まえろ」
「……はい。頑張ります」
見た目の印象なのだろう。
スパーノもレオが戦う力が無いと思っているようだ。
たしかにここに集まった精鋭たちと、スキル無しの剣術勝負となったら勝てると言い切れない所だが、スキルさえ使用できれば戦えない訳ではないと思っている。
色々奥の手も用意しているし、囮としてカロージェロたちに近付ける。
2人を捕縛するために、この機を利用するのは自分の方だ。
スパーノには悪いが、後々なるべく頼られないようにしたいため、レオは自分の能力は黙っておくことにした。
「はい! レオポルド・ディ・ヴェントレと申します」
呼び出されたレオは、いつものようにベンヴェヌートに島のことを任せ、指示通り前線へと向かうことになった。
今回招集された者たちと共に1つの部屋で待っていると、参戦している貴族たちが入室してきた。
ここにいる者がどういう経緯で呼ばれたかの説明や、敵の勢力についての説明がおこなわれて行く。
説明が終了すると、周りの者たちと比べて弱そうなことが判断材料になったのか、1人の貴族が歩み寄ってきた。
名前も名乗らずに問いかけて来てと思わなくもないが、レオはひとまず返答をした。
「そうか。お前が……」
相手の貴族は180cm近くの身長があるため、170cm位しかないレオを見下ろす形になっている。
レオの返答を聞くと、その貴族の目付きは険しいものに変わっていく。
この貴族のことは知らないため、どうして睨みつけられているのかレオには分からない。
他の貴族たちも眉をひそめているのが見えるので、どうせ父のカロージェロと因縁でもあるのだろうと、レオはたいして気にすることなく次の言葉を待った。
「先程も説明したように、我々は敵の数に押されて拠点の後退を余儀なくされている。せめてカロージェロの率いる市民兵を潰して数を減らしたいと思っている」
「はい……」
初戦で撤退を余儀なくされた王国軍は、戦うたびに増えるスケルトンの相手に手こずり、そのままズルズルと後退を続けるしかなかった。
それが続き、いつの間にか国境付近にまで押し戻されてきてしまった。
このままでは他の領に侵攻されてしまうだけでなく、王都に近付けてしまうことになる。
何としてもここで抑えておきたいため、まず市民兵を指揮しているカロージェロとイルミナートの親子を仕留めたい。
そのために呼び寄せたのがここにいる精鋭たちだが、レオだけが異質な感じになっている。
「そこで、お前には父と兄の意識を集中するために協力してもらいたい」
「……失礼ながら、あの者がそれに乗るかは分かりませんが?」
遠回しに言っているが、明らかに囮になれと言っているのだと分かる。
それは予想されたことだったので驚きはしないが、カロージェロがそんな誘いに乗るのか疑問だ。
2人は市民兵の後方に待機し、命令しているだけという話だ。
自ら危険な所へ出てくるとは考えにくい。
「それはお前がどこまで奴らに迫れるかにかかっている。指示に従え!」
「……分かりました」
暗殺を失敗して内乱罪で王国内に指名手配されたこともあり、カロージェロたちは自分のことを恨んでいるだろう。
なので、もしかしたら自分を狙ってくる可能性もあるが、ビビりで有名な2人が本当に出てくるかはレオの中では微妙に思える。
今回この貴族の男が自分を呼んだのは、捨て駒になっても良いという考えなのかもしれない。
関係ないといっても血のつながった親兄弟には変わりがない。
所詮爵位の低い者なのだから、この貴族の中ではどうなっても構わないのだろう。
結局名すら名乗らないこの貴族の態度が気に入らないが、元々囮になることは想定していたのでレオはこの指示を受け入れるしかなかった。
「では、決行日まで皆この部屋での待機を命ずる!」
そう言うと、この貴族を筆頭にして他の貴族たちも出ていくことになった。
中には何か言いたそうな表情をしている貴族の者もいたが、先頭の男の顔色を窺ってか、口をつぐんで出て行ってしまった。
「チッ! あの貴族の野郎態度でけえな……」
「……あまり大きな声で言わない方がいいですよ」
貴族たちが全員出ていくと、レオの側に1人の男性が近寄ってきて先程の貴族の態度に立腹していた。
どうやらあの貴族は、貴族以外を下に見る傾向が強いようだ。
レオの場合は、貴族であってもカロージェロの息子だからという理由なのかもしれない。
そんな貴族主義者に文句を言おうものなら、不敬罪で処罰されかねない。
そのため、レオは分かっていているとは思いつつも、男性に形ばかりの忠告をした。
「へっ! こっちは陛下からの要請でもあるんだ。文句言ったくらいで不敬罪とか言うなら、そのまま陛下に言えって話だ!」
「そうですね……」
状況の悪さから、あの貴族が陛下に嘆願したのだろう。
王都への侵入を防ぐため、精鋭を集めさせてくれとでも言ったのかもしれない。
国としても王都に侵入されては困るので了承したのだろうが、人選までは関わらなかったのだろうか。
もしも王が自分を囮に使うことを許したというのであれば、不信感が湧いてくる。
どうにか生き残って真意を尋ねたいところだ。
「……同じ貴族でも、お前はあいつとは色々違うみてえだな?」
「所詮ギリギリ貴族の騎士爵ですから……」
さっきのやり取りで、レオが家名を名乗ったところから貴族だということは理解できているはず。
それなのに、初対面でしかもため口で話している男。
そんな事をしたら喚きそうなさっきの貴族と違い咎めたりしないため、レオが貴族っぽくないという印象を受けたのだろう。
敬語を使われないことなんて島ではよくあることなので、文句なんて言うつもりはない。
同じ貴族でも騎士爵は平民同然という者がいるのも知っているため、レオは自嘲気味に言葉を返した。
「それにしても囮にされて何で文句言わねんだ?」
「いい機会だと思いまして……」
「……いい機会?」
さっきの貴族の態度からすると、直接言わないまでも囮だということはみんな分かっている。
それを分かった上で、レオがそれを受け入れたことにこの男性は疑問に思ったのだろう。
別に隠しておくことでもないので、レオは男性の質問に対し自分が思っていることを言うことにした。
しかし、レオの言葉に男性は首を傾げる。
「父と兄が他国に逃げたと聞いた時は、悔しい思いをしていました。今回のことで出来れば王国軍には捕縛してもらいたいです」
「捕縛? 殺害ではなく?」
「えぇ! 大衆の面前で断罪されて確実に死んだという結果が無いと、僕は安心できない小心者なので……」
父と兄がルイゼン側についていると知った時、レオは驚いた。
それと同時に、今度こそ捕まえるいい機会だと思った。
男性の言うように殺害の方がいいように思えるが、戦場で死んだと聞いていた者が生きていたとか言うことは起こり得ることだ。
そんな可能性すらもないように、2人を捕まえてキッチリ処刑したとならないとレオの中ではスッキリしないと感じていたのだ。
「……ハハッ! 面白い奴だなお前」
「そうですか?」
いくら敵に与したとは言っても血のつながった親と兄だ。
捕縛と言って、何か温情でも願う甘ちゃんなのかと思っていたが違ったようだ。
この少年は、2人がどこかでのうのうと生きていられることが許せないのだろう。
かなり冷徹なことを言ったというのに、男性は何だかおかしそうに笑みを浮かべた。
笑う要素があっただろうかと、レオは首を傾げた。
「俺はスパーノだ。よろしくな!」
「レオポルドです。よろしくお願いします!」
理由はともかく、気に入られたのは良かった。
スパーノと名乗った男性が握手を求めてきたので、レオも名乗って握手に応じた。
「レオは、俺が守ってやるよ。だから親父たちをどうにか捕まえろ」
「……はい。頑張ります」
見た目の印象なのだろう。
スパーノもレオが戦う力が無いと思っているようだ。
たしかにここに集まった精鋭たちと、スキル無しの剣術勝負となったら勝てると言い切れない所だが、スキルさえ使用できれば戦えない訳ではないと思っている。
色々奥の手も用意しているし、囮としてカロージェロたちに近付ける。
2人を捕縛するために、この機を利用するのは自分の方だ。
スパーノには悪いが、後々なるべく頼られないようにしたいため、レオは自分の能力は黙っておくことにした。