「何だ!? この数は……」

 ストヴァルテ公爵の死によって、代わりに参戦したディスカラ伯爵の手によって進軍が継続された。
 昔から軍に関わる人間ばかりを輩出してきた一族であり、兵の一人一人の強さには定評がある。
 国の軍を指揮するゴザーガ侯爵からの期待も厚い。
 しかし、今回の進軍は今までに経験したことがないような進軍になった。
 砦は奪えてもスケルトンの出現に手を焼かされ、一気に領都へと向かうことが出来なかった。
 そして領都へとつながる平原へ来てみれば、敵が大量の兵を配備していた。
 そのため、思わず驚きの言葉を呟いてしまった。

「何万の人間がいるんだ?」

 兵たちの中にも動揺が広がる。
 元々王国の一領地にしては考えられないくらいの兵が、敵側に集まっていたからだ。
 王国側も兵数だけなら4万近くの兵を平原での戦いのために招集していた。
 しかし、それと同等以上の数が揃っているのだから、仕方がない。

「狼狽えるな! よく見てみろ! 敵の多くは武器を持っただけで装備なんて着けていない!」

 遠くに見える敵の兵を見て、動揺している兵にディスカラが声を張り上げる。
 ディスカラの言うように、敵の最前線に位置する兵たちは各々武器を持ってはいるが、鎧などの装備を付けていない。
 敵は人を集められても、装備までは集められなかったのだということだ。
 その事が分かり、兵たちの動揺も自然と治まっていった。

「もしかして平民がそのまま参戦しているのか?」

「そうかもしれないですね」

 装備をしていない敵兵をよく見てみると、若者から老人までもが参戦している。
 その姿は、その辺を歩く平民を連れてきたと言っているかのように思えた。
 そのディスカラの独り言のような疑問に、1人の貴族が同意する。
 ディスカラと共に参戦したローデラ男爵だ。
 同じ騎士学校を卒業した先輩後輩であり、統治する領も近いことからディスカラと共に行動している。

「なら、恐れるに足らずだ!」

「えぇ!」

 平民を集めたことで兵の数の上ではやや敵の方が上でも、質の部分ではこちらの方に分があるとディスカラは踏んだ。
 ローデラも同じ考えに至り頷きを返す。

「数が多くても戦闘訓練もしていないような平民を相手に我らが負けるはずがない!!」

 敵の兵が平民を集めただけだということは、王国の兵も広がっていった。
 それにより、冷静さを取り戻した兵たちは、ディスカラの言葉で闘争心が湧いたようだ。
 こちらは訓練をおこなってきた戦闘のプロとも言うような集団で、訓練をおこなっていないような者たちに負けるはずがない。
 数さえ揃えればどうにかなるかと思っている敵に対し、目に物を見せてやろうと多くの者が思っているようだ。

「攻めかかれ!!」

「「「「「おぉ!!」」」」」

 敵の進軍が開始されたのを見て、ディスカラは戦闘開始の合図を送る。
 合図を受けた兵たちは、統率された列を組んで敵へと攻めかかって行った。

「ぐあっ!!」「ぎゃっ!!」

 ディスカラの予想通り、敵は訓練を受けていないために兵たちの相手にはならない。
 王国側の兵たちの槍や剣によって、多くが仕留められていく。

「中央が崩れた! 敵の大将首目掛けて攻めかかるぞ!」

「「「「「おぉ!」」」」」

 中央の敵が倒され、敵の主軸が集まる陣が丸見えになった。
 そこを突くべく、ローデラが馬を走らせ部下たちと攻めかかって行った。

「なっ!?」

 本陣を突こうとしたローデラを止めようと、突如平民の数人が武器を捨てて一斉に飛び掛かってきた。
 数人は斬り倒したが、全員とはいかずにローデラは馬から落とされてしまう。

「ローデラ様!!」

「大丈夫だ! お前らは進め!!」

「了解しました!」

 落馬したがどこにも怪我はしていない。
 部下にはこのまま本陣へ攻めさせることにし、ローデラはしがみついた敵の平民兵を引きはがした。

「ぐあっ!!」

 平民を引きはがしたと同時に、ローデラは左右から槍による攻撃を両足に受けた。
 周囲に敵は居なくなったはずなのに、どうして自分が攻撃を受けたのか分からない。
 攻撃をしてきた右側を見てみると、そこには骸骨が槍を持って立っていた。
 左側を見てみても、同じく骸骨が立っている。
 スケルトンはいつの間にか戦場に大量に出現していた。

「ローデラ!!」

 ローデラが怪我を負ったのを、戦場後方にいたディスカラが心配そうに声をあげる。
 助けに行きたいところだが、スケルトンの出現でそうはいかなくなった。

「何で…スケルトンが……」

 今回の戦いにおいて、砦内の罠として出現したスケルトンが、何故かこの場にも出現したのだ。
 しかも、ローデラを追い抜いていった部下たちも同じようにスケルトンに襲われ、剣や槍による攻撃を受けている。
 それはまだしも、何故かスケルトンは敵の兵には攻撃しない。
 王国の人間にのみ攻撃を開始している。
 なんとかスケルトンの槍から抜け出したが、苦痛で歪むローデラの思考はそのことが理解できないでいた。

「おぉ! 貴族の首発見!!」

 足に攻撃を受けたローデラがその場から動けないでいると、その場に顔の上半分を隠すような仮面をつけた人間がにやけた口元をして向かってきた。
 着けている鎧や衣装などの豪華さから考えるに、敵の中でも地位の高い人間なのだろう。
 しかし、敵の総大将であるムツィオにこんな側近がいるということは聞いたことがない。

「ぐっ! き、貴様……名を名乗れ!!」

 その男は剣を抜き、すぐさま動けないでいるローデラへ向かって斬りかかってきた。
 膝をついた状態のローデラは、その剣を何とか防ぐ事に成功する。
 そして、その仮面の男に名を名乗るように叫ぶ。

「男爵風情が舐めた口を利くな!!」

「貴様!! まさか……」

 ローデラはその声には聞き覚えがあった。
 昔から関わりたくない貴族として覚えていたので間違いない。
 しかし、この場に何故いるのかが分からないでいた。

「ディステ家の人間は他国に逃げたのではなかったのか!?」

「チッ! 声だけでバレるなんてな……」

 正体があっさりとバレてしまったことで、仮面の男は舌打ちした。
 そして、バレたならもうこの仮面は必要ないだろうと、その仮面を脱ぎ取った。

「あいつは!!」

「確かディステ家のカロージェロだ!!」

 その顔を見たディスカラが表情を歪める。
 兵たちの中にもその顔を覚えていた者がいたようで、顔を見た瞬間大きな声で叫んでいた。
 ローデラ同様、同年代の貴族の中でも特に評判が悪かったため、関わらないようにあの顔を覚えていた。
 案の定、内乱罪で国内中指名手配されて他国へ逃げたと思ったが、ムツィオが匿っていたようだ。

「悪党同士で手を組みやがったか……」

「王国に追われることになったのでな。仕方がないのでこの国で成り上がるつもりだ」

 スケルトンに加えて、まさかの人間の出現で王国兵たちは慌て始める。
 それにより、段々と後退させられていき、戦場中央にはローデラだけが残される形となってしまった。

「まずはお前の首をもらい受ける」

「おのれ!! 恥知らずの愚物が!!」

 足の怪我を我慢して、ローデラは無理やり立ち上がる。
 そして、罪を犯しておいて自分勝手なことを言うカロージェロに、剣を向けて罵倒した。

「うるせえよ!!」

「ぐふっ!!」

 カロージェロとの一騎打ちを意識していたのだが、相手にはそんなことをする気もないらしく、ローデラは背後からの攻撃を受けて血反吐を吐く。
 いつの間にか他の人間が背後に回っていたのだ。
 崩れ行くローデラの目には、カロージェロが付けていたのと同じ仮面をした男が映っていた。

「殺れるときに殺っとかないとな……」

 その男は、背後からローデラの体を突き抜いた剣を引き抜くと、仮面を取りつつ一言呟き、ローデラの首目掛けて振り抜いた。

「ローデラ男爵の首!! イルミナートが打ち取った!!」

「「「「「おぉ!!」」」」」

 斬り落としたローデラの首を高々と掲げ、イルミナートが戦場に響くような大きな声をあげた。
 それにより、敵の兵たちは活力を取り戻したかのように雄叫びを上げた。

「ローデラ!!」

「いけません! ディスカラ殿!!」

「止めるな!!」

 仲の良い後輩を殺されて一気に血が上ったディスカラは、敵を討とうとカロージェロたちの所へ向かおうとした。
 それを、近くにいたアルドブラノが止める。
 あんなところに向かったらディスカラまでもが命を絶たれる。
 アルドブラノの好判断に、他の貴族たちも抑えにかかった。

「スケルトンのこともあります! 一旦引いて対策を練るべきです!!」

「……くそっ!! 全軍一旦引け!! 引け!!」

 アルドブラノの助言に、熱くなった思考も僅かに治まる。
 またもスケルトンの出現に足をすくわれる形になり、王国軍は一時撤退を余儀なくされたのだった。