「えっ? ルイゼン領が独立?」
「あぁ……」
いつものように湖の調査・駆除をおこなっているレオの所に、ファウストからルイゼン領が独立を宣言したこと伝えられた。
その話を聞いて、レオは驚きで固まらざるを得なかった。
あまりにも無謀な行為だからだ。
ヴァティーク王国の領地でしかないルイゼン領が、何倍もの戦力のある相手に勝てるとでも思っているのだろうか。
「ほんの僅かにそんなこともあり得るかとは思っていましたが、そんなことしても潰されるのがオチだと思って頭から外していました」
「俺も独立なんて、口に出すバカがいるとは思わなかったぜ」
こんなことをするくらいなのだから、ムツィオは以前から今回の独立を考えていたのかもしれない。
ムツィオとの関係を示す証拠は見つからなかったが、こうなってくると分断されるのを狙って盗賊を動かしていたように思える。
レオもムツィオが独立を狙っているのかもしれないと思ってはいたが、そんなことをして王国を相手に勝てるわけがない。
ファウストの言うようにバカとしか言いようがないため、その考えは放棄していた。
「ムツィオの奴、自分を唯一無二の存在だとかぬかして、ルイゼン帝国を名乗るのだそうだ」
「……何か悪い薬にでも手を出しているのですかね?」
ファウストの言葉を聞いて、レオはムツィオが何か薬物に手を出して正常な判断ができない状態なのではないかと思えてきた。
自分のことを唯一だのと宣うのは、子供かとんでもない馬鹿ぐらいだ。
ムツィオの年齢を考えると、後者が当てはまりそうだ
「当然陛下は独立なんて認める訳がない。貴族たちに兵を出すように指示なされた」
「でしょうね……」
ルイゼン領はヴァティーク王国のものだ。
当然独立なんて許す訳など無く、領地を奪い返しに行くのが普通だろう。
「うちからも出した方が良いのでしょうか?」
「いや、ルイゼン領を潰すのに大量に兵を集め過ぎれば、兵糧などで無駄に資金を使うことになる。王都周辺の貴族を中心に動かすようだ」
兵を招集しているというなら、レオたちも加わった方が良いかもしれない。
そう思って問いかけたのだが、ファウストにはあっさりと否定された。
開発が進んでいるが、所詮ヴェントレ島はまだまだ無名の領地。
兵を集めるといっても、そんな離れた地からまで兵を集めていては、時間も資金もかかって仕方がない。
今回は王都周辺の貴族だけで構成した軍でことに当たるようだ。
「フェリーラ領も招集されるのですか?」
「ルイゼンの周辺領地は盗賊騒ぎで経済的に痛手を負っている。なので、兵ではなく少しの兵糧を提供する形で済んだ」
「そうですか」
ルイゼン領に隣接する各領は被害を受けたばかりだ。
しかも、分断するための工事もおこなったばかりで、資金的に痛手を負っている。
そこへさらに兵まで出せなんて酷なこと国は言う訳もなく、多少の援護で済むことになったそうだ。
「うちからも兵を出せと言われず一安心しました。うちは兵がまだまだ少ないですから、参加するには心許ないと思っていたので……」
『……いや、お前ひとりで戦力になるだろ……』
ここヴェントレ島へ兵を出すように求められたとしても、まだまだ数が少ないため、出せても数百しか出せないだろう。
そんな人数増えた所で役に立てるとは思わないので、命令が来なくて安堵した。
しかし、レオの意見に対し、ファウストは内心ツッコミを入れていた。
数千の人形兵を用いて戦うことのできるレオがいれば、資金的にかなりの安上がりで済ませることができる。
むしろ、レオを真っ先に呼んだ方が、死人も減らせていい気がする。
「まぁ、何を根拠に独立なんて言い出したのか分からんが、いくら何でもムツィオに勝ち目はない。すぐに治まるだろ」
「そうですね。数が違い過ぎますから……」
もしも独立を前々から企んでいたとしても、戦力差を覆せるわけがない。
ファウストの言うように、すぐに王国側の勝利で終わることだろう。
王国軍によってムツィオが倒されれば、ムツィオがエレナの父を殺した証拠も見つかるかもしれない。
そうなればエレナの生存を宣言することができる。
ルイゼン領がそのままエレナに任されるかは分からないが、少なくとも貴族には戻れるだろう。
そうなるためにも、レオは今回のことがどんな結果になるかを待つことにした。
◆◆◆◆◆
「まさか3大公爵家のストヴァルテ家が名乗り出るとはな……」
ヴァティーク王国の軍として先頭を行く人間を見て、市民たちは小声で呟く。
クラウディオからの命によって集められた貴族たちは、付けている鎧こそ煌びやかだが、体型が酷い者たちばかりだった。
明らかに怠惰な生活をおこなってきているのだと分かる。
その中でも、会話に上がったストヴァルテ公爵家の者は、馬に乗っているだけで汗を掻くほど肥満な体型をしている。
「カルノ王の時は散財して、勝手に税を増やすなどをおこなっていたという話だ」
「クラウディオ陛下に目を付けられているというのが分かっているんだろうな」
クラウディオは、今回の招集に先代カルノ王の時に問題を起こしていた貴族たちを優先して集めた。
指名された貴族たちは不満もあるだろうが、クラウディオが進める悪徳貴族への冷遇策が自分に向かないようにしないといけない。
心を入れ替えたという態度を見せるための、出兵と思っているのかもしれない。
今回は相手が数で劣っていると分かっているので、負けることはないと参戦したのだろう。
「……何だ?」
「あんな砦をいつの間に作り上げたのだ?」
ルイゼン領と隣接する町に多くの兵が集まった。
ここから進軍して追い詰めていくことになるのだが、領境に作った防壁の上から遠くを眺めると、いつの間にかルイゼン領内に砦らしきものが建設されていた。
樹々に隠れていたとは言っても、見逃すような大きさではない。
いつの間にか出現したかのような砦に、集まった貴族たちは戸惑いを見せていた。
「防壁によって分断し、兵が集まるまでそれ程時間は経っていない。たった数週間であんなのができたということか?」
「バカな! 何の冗談だ?」
王都周辺からこの町へ兵が集まるまで数週間程度の時間で、あの砦が建設されたということなのかもしれない。
しかし、それはかなり荒唐無稽な話だ。
相当な数の人間でことに当たらないと、とてもではないができるような規模ではない。
彼らが信じられないというのも当然かもしれない。
「そんなことができるほど人員がいるということなのか?」
「ただの張りぼてではないのか?」
「どうだろうな……」
数週間で砦を作れるほどの人員が配備されているのかもしれない。
もしくは、こちらから見える部分だけ作り上げた張りぼてという線も考えられる。
何にしても、いきなりの砦出現に、集まった貴族たちは二の足を踏むことになった。
「フンッ! 何を慌てているのだ!」
「ストヴァルテ公爵閣下……」
砦の出現によって会議を始めた貴族たちは、まず調査をすることにした。
もしも多くの軍勢が潜んでいるとしたら、他から回り込んで挟み撃ちにするなどの策で攻めるべきだからだ。
その相談をしていたところへ、ストヴァルテ公爵が脂肪を揺らして話し合いに入ってきた。
会議の場に来なくても後で方針を伝えるつもりだったのだが、後方で指揮しているという体での参加でしかない彼が何をしに来たのか、集まっていた貴族たちは首を傾げたくなる思いだ。
「あんな砦1つに、これだけの兵がいて負けるわけがないだろ!」
「いや、しかし閣下! もう少し様子を見てからで良いのでは?」
どうやらストヴァルテは、数の有利が戦争の有利を示すものだと疑っていないようだ。
砦が出現しただけで、数で絶対的有利のこちらが負けるわけないと思っているのかもしれない。
気持ちは分からなくもないが、兵の命もかかっているのだから慎重にことを進めるべきだと誰もが思った。
ここに集まった貴族は、カルノ王の時代に難ありの烙印を押されている者たちばかりだが、根っこまで腐っていない者たちなのかもしれない。
しかし、ただ1人を除いてと言って良いかもしれない。
最悪なことに、その1人の爵位が一番高いのだからついてない。
「調査などいらん! 明日にでも即刻攻めかかるぞ! これは命令だ!」
「……か、畏まりました!」
どうなるかは分からないが、確かに負ける要素は少ない。
公爵の命令となれば従わざるを得ないため、会議をしていた者たちは渋々従うことにした。
「あぁ……」
いつものように湖の調査・駆除をおこなっているレオの所に、ファウストからルイゼン領が独立を宣言したこと伝えられた。
その話を聞いて、レオは驚きで固まらざるを得なかった。
あまりにも無謀な行為だからだ。
ヴァティーク王国の領地でしかないルイゼン領が、何倍もの戦力のある相手に勝てるとでも思っているのだろうか。
「ほんの僅かにそんなこともあり得るかとは思っていましたが、そんなことしても潰されるのがオチだと思って頭から外していました」
「俺も独立なんて、口に出すバカがいるとは思わなかったぜ」
こんなことをするくらいなのだから、ムツィオは以前から今回の独立を考えていたのかもしれない。
ムツィオとの関係を示す証拠は見つからなかったが、こうなってくると分断されるのを狙って盗賊を動かしていたように思える。
レオもムツィオが独立を狙っているのかもしれないと思ってはいたが、そんなことをして王国を相手に勝てるわけがない。
ファウストの言うようにバカとしか言いようがないため、その考えは放棄していた。
「ムツィオの奴、自分を唯一無二の存在だとかぬかして、ルイゼン帝国を名乗るのだそうだ」
「……何か悪い薬にでも手を出しているのですかね?」
ファウストの言葉を聞いて、レオはムツィオが何か薬物に手を出して正常な判断ができない状態なのではないかと思えてきた。
自分のことを唯一だのと宣うのは、子供かとんでもない馬鹿ぐらいだ。
ムツィオの年齢を考えると、後者が当てはまりそうだ
「当然陛下は独立なんて認める訳がない。貴族たちに兵を出すように指示なされた」
「でしょうね……」
ルイゼン領はヴァティーク王国のものだ。
当然独立なんて許す訳など無く、領地を奪い返しに行くのが普通だろう。
「うちからも出した方が良いのでしょうか?」
「いや、ルイゼン領を潰すのに大量に兵を集め過ぎれば、兵糧などで無駄に資金を使うことになる。王都周辺の貴族を中心に動かすようだ」
兵を招集しているというなら、レオたちも加わった方が良いかもしれない。
そう思って問いかけたのだが、ファウストにはあっさりと否定された。
開発が進んでいるが、所詮ヴェントレ島はまだまだ無名の領地。
兵を集めるといっても、そんな離れた地からまで兵を集めていては、時間も資金もかかって仕方がない。
今回は王都周辺の貴族だけで構成した軍でことに当たるようだ。
「フェリーラ領も招集されるのですか?」
「ルイゼンの周辺領地は盗賊騒ぎで経済的に痛手を負っている。なので、兵ではなく少しの兵糧を提供する形で済んだ」
「そうですか」
ルイゼン領に隣接する各領は被害を受けたばかりだ。
しかも、分断するための工事もおこなったばかりで、資金的に痛手を負っている。
そこへさらに兵まで出せなんて酷なこと国は言う訳もなく、多少の援護で済むことになったそうだ。
「うちからも兵を出せと言われず一安心しました。うちは兵がまだまだ少ないですから、参加するには心許ないと思っていたので……」
『……いや、お前ひとりで戦力になるだろ……』
ここヴェントレ島へ兵を出すように求められたとしても、まだまだ数が少ないため、出せても数百しか出せないだろう。
そんな人数増えた所で役に立てるとは思わないので、命令が来なくて安堵した。
しかし、レオの意見に対し、ファウストは内心ツッコミを入れていた。
数千の人形兵を用いて戦うことのできるレオがいれば、資金的にかなりの安上がりで済ませることができる。
むしろ、レオを真っ先に呼んだ方が、死人も減らせていい気がする。
「まぁ、何を根拠に独立なんて言い出したのか分からんが、いくら何でもムツィオに勝ち目はない。すぐに治まるだろ」
「そうですね。数が違い過ぎますから……」
もしも独立を前々から企んでいたとしても、戦力差を覆せるわけがない。
ファウストの言うように、すぐに王国側の勝利で終わることだろう。
王国軍によってムツィオが倒されれば、ムツィオがエレナの父を殺した証拠も見つかるかもしれない。
そうなればエレナの生存を宣言することができる。
ルイゼン領がそのままエレナに任されるかは分からないが、少なくとも貴族には戻れるだろう。
そうなるためにも、レオは今回のことがどんな結果になるかを待つことにした。
◆◆◆◆◆
「まさか3大公爵家のストヴァルテ家が名乗り出るとはな……」
ヴァティーク王国の軍として先頭を行く人間を見て、市民たちは小声で呟く。
クラウディオからの命によって集められた貴族たちは、付けている鎧こそ煌びやかだが、体型が酷い者たちばかりだった。
明らかに怠惰な生活をおこなってきているのだと分かる。
その中でも、会話に上がったストヴァルテ公爵家の者は、馬に乗っているだけで汗を掻くほど肥満な体型をしている。
「カルノ王の時は散財して、勝手に税を増やすなどをおこなっていたという話だ」
「クラウディオ陛下に目を付けられているというのが分かっているんだろうな」
クラウディオは、今回の招集に先代カルノ王の時に問題を起こしていた貴族たちを優先して集めた。
指名された貴族たちは不満もあるだろうが、クラウディオが進める悪徳貴族への冷遇策が自分に向かないようにしないといけない。
心を入れ替えたという態度を見せるための、出兵と思っているのかもしれない。
今回は相手が数で劣っていると分かっているので、負けることはないと参戦したのだろう。
「……何だ?」
「あんな砦をいつの間に作り上げたのだ?」
ルイゼン領と隣接する町に多くの兵が集まった。
ここから進軍して追い詰めていくことになるのだが、領境に作った防壁の上から遠くを眺めると、いつの間にかルイゼン領内に砦らしきものが建設されていた。
樹々に隠れていたとは言っても、見逃すような大きさではない。
いつの間にか出現したかのような砦に、集まった貴族たちは戸惑いを見せていた。
「防壁によって分断し、兵が集まるまでそれ程時間は経っていない。たった数週間であんなのができたということか?」
「バカな! 何の冗談だ?」
王都周辺からこの町へ兵が集まるまで数週間程度の時間で、あの砦が建設されたということなのかもしれない。
しかし、それはかなり荒唐無稽な話だ。
相当な数の人間でことに当たらないと、とてもではないができるような規模ではない。
彼らが信じられないというのも当然かもしれない。
「そんなことができるほど人員がいるということなのか?」
「ただの張りぼてではないのか?」
「どうだろうな……」
数週間で砦を作れるほどの人員が配備されているのかもしれない。
もしくは、こちらから見える部分だけ作り上げた張りぼてという線も考えられる。
何にしても、いきなりの砦出現に、集まった貴族たちは二の足を踏むことになった。
「フンッ! 何を慌てているのだ!」
「ストヴァルテ公爵閣下……」
砦の出現によって会議を始めた貴族たちは、まず調査をすることにした。
もしも多くの軍勢が潜んでいるとしたら、他から回り込んで挟み撃ちにするなどの策で攻めるべきだからだ。
その相談をしていたところへ、ストヴァルテ公爵が脂肪を揺らして話し合いに入ってきた。
会議の場に来なくても後で方針を伝えるつもりだったのだが、後方で指揮しているという体での参加でしかない彼が何をしに来たのか、集まっていた貴族たちは首を傾げたくなる思いだ。
「あんな砦1つに、これだけの兵がいて負けるわけがないだろ!」
「いや、しかし閣下! もう少し様子を見てからで良いのでは?」
どうやらストヴァルテは、数の有利が戦争の有利を示すものだと疑っていないようだ。
砦が出現しただけで、数で絶対的有利のこちらが負けるわけないと思っているのかもしれない。
気持ちは分からなくもないが、兵の命もかかっているのだから慎重にことを進めるべきだと誰もが思った。
ここに集まった貴族は、カルノ王の時代に難ありの烙印を押されている者たちばかりだが、根っこまで腐っていない者たちなのかもしれない。
しかし、ただ1人を除いてと言って良いかもしれない。
最悪なことに、その1人の爵位が一番高いのだからついてない。
「調査などいらん! 明日にでも即刻攻めかかるぞ! これは命令だ!」
「……か、畏まりました!」
どうなるかは分からないが、確かに負ける要素は少ない。
公爵の命令となれば従わざるを得ないため、会議をしていた者たちは渋々従うことにした。