「えっ? 手に入ったのですか?」
「はい……」
いつも通り、アルヴァロが週1の訪問に来た。
魔法の指輪の実験で、レオはスキルで動かした人形たちによる開拓を計画した。
それによって、人形たちを収納する専用の魔法の指輪がもう一つ必要になった。
それをアルヴァロに言って、指輪の値段を調べて来てもらうことにしたのだが、今週きたアルヴァロから新しい魔法の指輪を渡された。
前に貰った魔法の指輪よりも容量が多い、かなりの大金を必要とするような魔法の指輪だ。
手に入れられたのはありがたいが、購入を計画して1週間で手に入れられるほど、レオにもアルヴァロにも資金はないはずだ。
どうやって手に入れたのか疑問に思って問いかけると、アルヴァロも答えにくそうに返事をした。
「お金は……?」
「それが、先週いつも通り坊ちゃんから渡された魔石なんかをギルドに持って行ったんですが、そこでギルマスに呼び止められやして……」
「ギルマスに……?」
元々漁師として魚をギルドで換金していたので、アルヴァロはギルドに登録していた。
販売ルートなんか持っていないので、アルヴァロは当然レオから渡された魔石や素材などを、これまでギルドで換金していた。
先週もレオから渡されたその日に換金に行ったのだが、そこでギルドマスターと何かあったらしい。
「ギルマスは、漁師の俺が毎週ごっそり素材を持ってくるのを気になっていたらしいんでさ……」
素材の受付場は他の冒険者に見られることはないので、特に違和感を持たれることはないだろう。
しかし、ギルドの職員の方は、急に毎週多くの魔物の素材を持ってくるようになった者がいれば、確かに理由を聞きたくなってもおかしくない。
ただ、ギルドのトップが出てくるとは思わなかった。
「その事でギルマスと話すことになりまして……」
「僕とのことを話したのですか?」
「えぇ、坊ちゃんに聞かずに、勝手に教えちまってすいやせん!」
アルヴァロが住んでいるオヴェストコリナの町のギルマスには会ったことはないが、資金集めでギルドに顔を出していた関係上仕事のできる人間だと耳に入っている。
魔法の指輪を手に入れてからまだ1か月しか経っていないのに、アルヴァロに目を付けるとは、噂は本当だったのかもしれない。
「構わないですよ。知られたところで特に問題ないですから……」
「ありがとうございやす」
別に隠していることでもないし、特に知られたところで何か問題が起きるとは思えない。
なので、ギルマスに話してしまったからと言って文句を言うつもりはない。
レオはあっさりとアルヴァロの謝罪を受け入れた。
「それで話したらギルド長が坊ちゃんに協力を申し出てくれやして……」
「えっ? ……ということは、これはギルマスがくれたのですか?」
「えぇ……」
話の流れでなんとなく気付いていたが、魔法の指輪はギルマスが譲ってくれたものらしい。
しかし、何で協力を申し出てくれたのかが疑問だが、欲しかったのでありがたくもらっておこう。
「指輪の代金は、少しの利子付きで毎回素材の販売価格から引かれるらしいです」
「ですよね……」
ギルマスが何を目的として指輪をくれたのかと思っていたが、くれたのではなくて代金を立て替えてくれていただけのようだ。
「しかも、坊ちゃんから大量の素材を受け取るために、俺にも同じ容量の魔法の指輪を渡されました」
「……長い返済になりそうですね?」
「そうっすね……」
これまで以上の魔物を保管できるようになったことで収入が増えるのはありがたいが、この指輪の価格を考えると結構な期間指輪の代金を払わないといけないことになる。
しかも、レオだけ容量の多い指輪を持っていても、アルヴァロが町までその分の素材を持って帰れるとは思えない。
当然アルヴァロ用の指輪も必要となる。
そこの所、ギルマスもちゃんと考えていたらしく、アルヴァロにも同量の収納ができる指輪をくれたらしい。
これまでが小部屋程度の容量だったが、今回は一般家庭の家と同程度の容量が入れられるそうだが、当然金額もその分何倍にもなる。
それが2つとなると、どれだけの期間返済にかかるか分かったものではない。
容量が増えた分だけ収入の金額が増えるが、それでも結構な金額を持って行かれることになるだろう。
金額返済のことを考えると、何だか2人とも気分が重くなった。
「もしかして、これが狙いなのかな……」
「えぇ、俺もそう思えてきました……」
高額な魔法の指輪を2つも提供して、ギルマス、というよりギルドに何のメリットがあるのか分からなかった。
しかし、これで大量の素材を定期的に手に入れられると考えると、ギルドとしても信頼を得られる。
それに、指輪の代金も少しとは言っても利子付きで帰ってくる。
レオが島に来てまだ数ヵ月程度しか経っていないが、特に無理をしなければ平気そうなのはアルヴァロからの話で分かったのかもしれない。
ギルマスとしては、それほどリスクのない投資と思ったのだろう。
「開拓は地道におこないますね」
「えぇ、気を付けてくださいやし」
「はい、無理はしません!」
とりあえず、アルヴァロやギルマスのことを考えると、指輪の金額を返済しないと借金を背負わせることになる。
面識のないギルマスはともかく、アルヴァロには世話になっているのでそうさせるわけにはいかない。
容量の多い魔法の指輪が手に入ったのだから、開拓へ向けて進もうかと思っていたが、返済をするまで無理する訳にはいかなくなった。
家の周りの狭い範囲で過ごしている分には危険も少ない。
なので、しばらくこれまで通りの生活をおこなうしかないようだ。
元々指輪を手に入れるまでの時間はそうするつもりだったので、予定が変わる訳ではない。
結局レオの生活は変わらずこのまま続くようだ。
◆◆◆◆◆
レオが与えられた領地へ着いた頃に戻る。
危険な地へ行くように仕向けたレオの父であるカロージェロは、息子たちと共に領地における異変の報告を受けていた。
「何っ!? アンデッドが増えている?」
「えぇ、近くの森で増えていっているという話です」
報告書を持つ執事からの報告に、カロージェロは眉をひそめる。
最近何故か冒険者がいなくなっているという噂が流れていたが、その原因が判明した。
それがアンデッドの発生らしい。
「ギルドは何をしている? 魔物の駆除は冒険者の仕事でもあるだろ?」
ギルドは国のためにある組織ではない。
しかし、魔物を駆除してくれることから、国としては無駄に兵を動かさなくて済むので重宝している。
そのギルドが、魔物の発生に対応していないとなると、領主のカロージェロが兵を出さなくてはいけなくなる。
メリットがあるから置いてやっているという思いが強いため、カロージェロはギルドの職務怠慢だと腹が立ってきた。
「アンデッドは金になりませぬので……」
「おのれ! 卑しい下民共め!!」
冒険者が町から減っているのは、どうやらアンデッドの発生が原因のようだ。
魔石以外何の利益もない危険なアンデッドを、依頼も出ていないのに狩るような者はいない。
こういう場合、領主がギルドに資金を出して依頼するということも可能なのだが、冒険者を下に見ているカロージェロは依頼をすることを嫌がる。
「兵を出しましょう!」
「父上! 我々もお供します!」
「あぁ、仕方ないがそうしよう……」
ギルドや冒険者には期待できない。
と言うより、そもそもそれほど期待していない。
アンデッドを放置しておく訳にもいかないので、レオの兄であるイルミナートとフィオレンツォは出兵を申し出る。
ギルドに依頼するよりもマシだという思いから、カロージェロはその発言に頷いた。
「兵に出陣の用意をするよう指示を出せ!」
「承りました!」
出陣することに決めたカロージェロは、執事の男に兵への指示を任せる。
執事の男は、了承の言葉と共に頭を下げて室内から出て行った。
「はい……」
いつも通り、アルヴァロが週1の訪問に来た。
魔法の指輪の実験で、レオはスキルで動かした人形たちによる開拓を計画した。
それによって、人形たちを収納する専用の魔法の指輪がもう一つ必要になった。
それをアルヴァロに言って、指輪の値段を調べて来てもらうことにしたのだが、今週きたアルヴァロから新しい魔法の指輪を渡された。
前に貰った魔法の指輪よりも容量が多い、かなりの大金を必要とするような魔法の指輪だ。
手に入れられたのはありがたいが、購入を計画して1週間で手に入れられるほど、レオにもアルヴァロにも資金はないはずだ。
どうやって手に入れたのか疑問に思って問いかけると、アルヴァロも答えにくそうに返事をした。
「お金は……?」
「それが、先週いつも通り坊ちゃんから渡された魔石なんかをギルドに持って行ったんですが、そこでギルマスに呼び止められやして……」
「ギルマスに……?」
元々漁師として魚をギルドで換金していたので、アルヴァロはギルドに登録していた。
販売ルートなんか持っていないので、アルヴァロは当然レオから渡された魔石や素材などを、これまでギルドで換金していた。
先週もレオから渡されたその日に換金に行ったのだが、そこでギルドマスターと何かあったらしい。
「ギルマスは、漁師の俺が毎週ごっそり素材を持ってくるのを気になっていたらしいんでさ……」
素材の受付場は他の冒険者に見られることはないので、特に違和感を持たれることはないだろう。
しかし、ギルドの職員の方は、急に毎週多くの魔物の素材を持ってくるようになった者がいれば、確かに理由を聞きたくなってもおかしくない。
ただ、ギルドのトップが出てくるとは思わなかった。
「その事でギルマスと話すことになりまして……」
「僕とのことを話したのですか?」
「えぇ、坊ちゃんに聞かずに、勝手に教えちまってすいやせん!」
アルヴァロが住んでいるオヴェストコリナの町のギルマスには会ったことはないが、資金集めでギルドに顔を出していた関係上仕事のできる人間だと耳に入っている。
魔法の指輪を手に入れてからまだ1か月しか経っていないのに、アルヴァロに目を付けるとは、噂は本当だったのかもしれない。
「構わないですよ。知られたところで特に問題ないですから……」
「ありがとうございやす」
別に隠していることでもないし、特に知られたところで何か問題が起きるとは思えない。
なので、ギルマスに話してしまったからと言って文句を言うつもりはない。
レオはあっさりとアルヴァロの謝罪を受け入れた。
「それで話したらギルド長が坊ちゃんに協力を申し出てくれやして……」
「えっ? ……ということは、これはギルマスがくれたのですか?」
「えぇ……」
話の流れでなんとなく気付いていたが、魔法の指輪はギルマスが譲ってくれたものらしい。
しかし、何で協力を申し出てくれたのかが疑問だが、欲しかったのでありがたくもらっておこう。
「指輪の代金は、少しの利子付きで毎回素材の販売価格から引かれるらしいです」
「ですよね……」
ギルマスが何を目的として指輪をくれたのかと思っていたが、くれたのではなくて代金を立て替えてくれていただけのようだ。
「しかも、坊ちゃんから大量の素材を受け取るために、俺にも同じ容量の魔法の指輪を渡されました」
「……長い返済になりそうですね?」
「そうっすね……」
これまで以上の魔物を保管できるようになったことで収入が増えるのはありがたいが、この指輪の価格を考えると結構な期間指輪の代金を払わないといけないことになる。
しかも、レオだけ容量の多い指輪を持っていても、アルヴァロが町までその分の素材を持って帰れるとは思えない。
当然アルヴァロ用の指輪も必要となる。
そこの所、ギルマスもちゃんと考えていたらしく、アルヴァロにも同量の収納ができる指輪をくれたらしい。
これまでが小部屋程度の容量だったが、今回は一般家庭の家と同程度の容量が入れられるそうだが、当然金額もその分何倍にもなる。
それが2つとなると、どれだけの期間返済にかかるか分かったものではない。
容量が増えた分だけ収入の金額が増えるが、それでも結構な金額を持って行かれることになるだろう。
金額返済のことを考えると、何だか2人とも気分が重くなった。
「もしかして、これが狙いなのかな……」
「えぇ、俺もそう思えてきました……」
高額な魔法の指輪を2つも提供して、ギルマス、というよりギルドに何のメリットがあるのか分からなかった。
しかし、これで大量の素材を定期的に手に入れられると考えると、ギルドとしても信頼を得られる。
それに、指輪の代金も少しとは言っても利子付きで帰ってくる。
レオが島に来てまだ数ヵ月程度しか経っていないが、特に無理をしなければ平気そうなのはアルヴァロからの話で分かったのかもしれない。
ギルマスとしては、それほどリスクのない投資と思ったのだろう。
「開拓は地道におこないますね」
「えぇ、気を付けてくださいやし」
「はい、無理はしません!」
とりあえず、アルヴァロやギルマスのことを考えると、指輪の金額を返済しないと借金を背負わせることになる。
面識のないギルマスはともかく、アルヴァロには世話になっているのでそうさせるわけにはいかない。
容量の多い魔法の指輪が手に入ったのだから、開拓へ向けて進もうかと思っていたが、返済をするまで無理する訳にはいかなくなった。
家の周りの狭い範囲で過ごしている分には危険も少ない。
なので、しばらくこれまで通りの生活をおこなうしかないようだ。
元々指輪を手に入れるまでの時間はそうするつもりだったので、予定が変わる訳ではない。
結局レオの生活は変わらずこのまま続くようだ。
◆◆◆◆◆
レオが与えられた領地へ着いた頃に戻る。
危険な地へ行くように仕向けたレオの父であるカロージェロは、息子たちと共に領地における異変の報告を受けていた。
「何っ!? アンデッドが増えている?」
「えぇ、近くの森で増えていっているという話です」
報告書を持つ執事からの報告に、カロージェロは眉をひそめる。
最近何故か冒険者がいなくなっているという噂が流れていたが、その原因が判明した。
それがアンデッドの発生らしい。
「ギルドは何をしている? 魔物の駆除は冒険者の仕事でもあるだろ?」
ギルドは国のためにある組織ではない。
しかし、魔物を駆除してくれることから、国としては無駄に兵を動かさなくて済むので重宝している。
そのギルドが、魔物の発生に対応していないとなると、領主のカロージェロが兵を出さなくてはいけなくなる。
メリットがあるから置いてやっているという思いが強いため、カロージェロはギルドの職務怠慢だと腹が立ってきた。
「アンデッドは金になりませぬので……」
「おのれ! 卑しい下民共め!!」
冒険者が町から減っているのは、どうやらアンデッドの発生が原因のようだ。
魔石以外何の利益もない危険なアンデッドを、依頼も出ていないのに狩るような者はいない。
こういう場合、領主がギルドに資金を出して依頼するということも可能なのだが、冒険者を下に見ているカロージェロは依頼をすることを嫌がる。
「兵を出しましょう!」
「父上! 我々もお供します!」
「あぁ、仕方ないがそうしよう……」
ギルドや冒険者には期待できない。
と言うより、そもそもそれほど期待していない。
アンデッドを放置しておく訳にもいかないので、レオの兄であるイルミナートとフィオレンツォは出兵を申し出る。
ギルドに依頼するよりもマシだという思いから、カロージェロはその発言に頷いた。
「兵に出陣の用意をするよう指示を出せ!」
「承りました!」
出陣することに決めたカロージェロは、執事の男に兵への指示を任せる。
執事の男は、了承の言葉と共に頭を下げて室内から出て行った。