「分断用の川ができたそうですね?」
「あぁ、元々近くの川から水を引いただけだからな」
湖の調査もだいぶ進んで来たころ、フェリーラ領の状況を説明しにファウストが島へ訪れてくれた。
ルイゼン領に出現した盗賊によって、多くの領に被害が及んでいたフェリーラ領だったが、レオの協力もあって終息へと向かうことになった。
しかし、他の領の討伐が完了したのは少し時間がかかった。
多くの領に被害を与えた盗賊を自領内で留めるように対処しなかったことで、ルイゼン領は報復処置として川や防壁で他領と分断されることになった。
いち早く盗賊を収めることができたフェリーラ領は、西側に流れている川を利用するため、溝を掘って川を延長することで分断を図った。
その工事が完成すれば、ルイゼン領から他の領に行くには、数本の限られた橋を渡らない限りそう簡単に人や馬が通れないようになるだろう。
「討伐は済んだが、最後までムツィオの関与は分からず仕舞いだったがな……」
「そうですか……」
フェリーラ領からの報告で、盗賊には奴隷紋がつけられている可能性が高いということが被害に遭う領に伝えられた。
それによって、報告を受けた領の兵たちは慎重に捕獲をしようとしたのだが、今度は捕獲された時点で死ぬように設定されたらしく、何かを聞き出すこともできずに終わってしまった。
結局、デジデリオが死に際に言った仮面の親子という単語以外なんの収穫もないままだ。
「まぁ、関与は分からなかったが、これであの領は封じ込められた状態になる。ディステ領の時と同じように領民が逃げ出し始めるかもな……」
ルイゼン領は、分断されただけでなく、他国はもちろん、国内での交易も制限されることになった。
港による貿易で利益を出してきた領地のため、これでは今まで通りの生活なんて出来なくなることだろう。
それを察知した市民は、ディステ領の時同様に他領へと逃れようとするはず。
その市民たちが逃げるとすれば隣接する領となるため、フェリーラ領もまた人が増えることになる。
その対処にまた苦心することになるかもしれない。
「多すぎて手に余る様なら、前回のようにここに連れてきて構いませんよ」
「あぁ、そんときは頼む」
このヴェントレ島は、まだまだ人が増えても問題はない。
レオのスキルのお陰もあって、あと数年でようやく島の半分が開拓できそうだ。
そうなると、多くの土地を用意できることから、色々な職種の人間が増えるのはありがたいことだ。
とは言っても、ディステ領の時とは違ってギルドが撤退したわけではないので、経済的にダメージはあってもそこまで酷いことになるとは思えない。
そのため、レオはそんなに他領へ逃げてくる市民は少ないように思っている。
だが、もしもフェリーラ領に多くの市民が逃れて来て困るような事があれば、ヴェントレ島で受け入れることをファウストに告げておいた。
「話は少し変わるが、湖の進展具合はどうだ?」
「調査と共に駆除しているのですが、やっぱり魔物が多いみたいで……」
「まだしばらくはかかるか?」
「はい……」
ルイゼン領のことはひとまず置いて置き、話はこの島のことに変わった。
数か月前から始めた湖の調査と魔物の駆除作戦は、大きな問題もなく進んでいる。
湖周辺の方はロイたちが頑張ってくれたため、だいぶ魔物の数は減らせることに成功したのだが、イルカ型人形たちの安全を確保して進めたことで、もう目安にしていた夏だというのに調査終了に至らなかった。
まだ魔物の数も多いようなので、今年の内に湖水浴場の解放という訳にはいかないようだ。
「今年は無理そうですが、慌てることでもないのでこのまま地道に進めるつもりです」
今年に利用できるようになったらいいと思っていたが、それも少し難しそうなので来年までに完了すればいいと思っている。
急ぐ事もないので、レオはこのまま安全第一で進めるつもりだ。
「……何ならそこにも町を作ったらどうだ?」
「町ですか?」
湖の側に町を作ることは考えていたが、魔物の駆除も済んでいないので、着手するのはまだ先だと思っていた。
なので、ファウストからの急な提案に思わず聞き返してしまった。
「魔物だらけで放置されていたが、結構な大きさの島だ。最終的に1つに統治するにしても、いくつかの町を作って広げた方が良くないか?
「そうですねここを中心として広げるよりも、その方が発展速度としては良いかもしれないですね」
「だろ? 2ヵ所なんて言わず、なんならもう2つ3つ作っても良いくらいだ」
昔の調査から、この島の大きさは約1500k㎡程という話だ。
騎士爵が与えられるにしては大きく、男爵領といっても良いくらいの大きさをしている。
魔物の多さで放置されていたが、この大きさで町1つとなると王都並みに発展しないと釣り合わないように思える。
ファウストの言うように、幾つかの町を作って発展させていった方が良いかもしれない。
「そうなると町としての形を整えないと……」
「そこはレオのスキルしかないな」
人形たちのお陰で、いくつかの地域は魔物の駆除が済んでいる。
そのため、候補地は幾つかあるが、魔物のいない地というだけで何の手入れもされていない。
そこを町にするにも、整地や防壁の設置など、やはり使えるのはレオのスキルということになる。
「できたらいってくれ。人はこれから流れてくるはずだから」
「……もしかして、流れてきた領民を引き取ってもらうために提案したのですか?」
「それもあるな……」
「まぁ、有意義な提案なので受け入れますよ」
ここでレオは何故ファウストが町づくりを提案してきたのが分かった。
ルイゼン領から逃げてきた市民の多くを、そのままここに送ってしまおうと考えていたようだ。
半分は冗談もあるのだろうが、提案としては間違っていない。
そのため、レオは新しい町づくりを前向きに検討することにした。
◆◆◆◆◆
「バカな!!」
「どうなさいました? 陛下!」
多くの領に防壁が築かれてルイゼン領の孤立が完成し、後は橋やら関所を作って市民の移動を規制しようとしていたのだが、その事業が開始する前にルイゼン領のムツィオからある宣言が、王都のクラウディオに届けられていた。
その書状を見て、クラウディオは怒りの表情で玉座から立ち上がった。
「ムツィオの奴、この国から独立するとかぬかしおった!!」
「なっ!? ……分断されても全く言い訳を言わなかったのはそれが狙いだったのでしょうか?」
宰相のサヴェリオも、その書状に目を通して驚きの表情へと変わる。
このような勝手なことが当然許される訳もない。
クラウディオが怒るのも当然のことだ。
報復行為となる分断行為を申し付けた時、ムツィオは表情を歪めつつも大人しく受け入れた。
その時の事を思い返すと、あの男が一言も弁明もしなかったことが、今となって違和感に思えてきた。
「くそっ! 独立なんて勝手なこと許すわけがないだろうが!!」
独立も何も、ルイゼン領もヴァティーク王国の領地だ。
その土地を貸し与えられているに過ぎない者が、勝手に自分の土地だと宣言するのは許せるわけがない。
「しかし、これはムツィオを潰す絶好の機会では?」
「何っ? ……たしかにそうだな」
怒りで頭に血を上らせるのを抑え、サヴェリオは冷静に思考を巡らせる。
勝手な独立は当然許せないが、これでムツィオを処罰することのできる絶好の好機を得たのではないかと思ったのだ。
そのことを聞いたクラウディオも、怒りを鎮めて納得の表情へと変わっていった。
「よしっ! 他国にこの宣言が届く前にルイゼン領へ攻め入るぞ!」
「ハッ! 畏まりました!!」
独立なんて宣言して、タダで済むはずがないことはムツィオも分かっているはずだ。
当然国を挙げて攻めて来ることも分かっているはずだ。
何を根拠にその自信があるか分からないが、この国の最大の膿ともいえる人間が暴発したのだから、叩き潰させてもらう。
クラウディオの命により、国を挙げてのルイゼン領への侵攻が開始されることになったのだった。
「あぁ、元々近くの川から水を引いただけだからな」
湖の調査もだいぶ進んで来たころ、フェリーラ領の状況を説明しにファウストが島へ訪れてくれた。
ルイゼン領に出現した盗賊によって、多くの領に被害が及んでいたフェリーラ領だったが、レオの協力もあって終息へと向かうことになった。
しかし、他の領の討伐が完了したのは少し時間がかかった。
多くの領に被害を与えた盗賊を自領内で留めるように対処しなかったことで、ルイゼン領は報復処置として川や防壁で他領と分断されることになった。
いち早く盗賊を収めることができたフェリーラ領は、西側に流れている川を利用するため、溝を掘って川を延長することで分断を図った。
その工事が完成すれば、ルイゼン領から他の領に行くには、数本の限られた橋を渡らない限りそう簡単に人や馬が通れないようになるだろう。
「討伐は済んだが、最後までムツィオの関与は分からず仕舞いだったがな……」
「そうですか……」
フェリーラ領からの報告で、盗賊には奴隷紋がつけられている可能性が高いということが被害に遭う領に伝えられた。
それによって、報告を受けた領の兵たちは慎重に捕獲をしようとしたのだが、今度は捕獲された時点で死ぬように設定されたらしく、何かを聞き出すこともできずに終わってしまった。
結局、デジデリオが死に際に言った仮面の親子という単語以外なんの収穫もないままだ。
「まぁ、関与は分からなかったが、これであの領は封じ込められた状態になる。ディステ領の時と同じように領民が逃げ出し始めるかもな……」
ルイゼン領は、分断されただけでなく、他国はもちろん、国内での交易も制限されることになった。
港による貿易で利益を出してきた領地のため、これでは今まで通りの生活なんて出来なくなることだろう。
それを察知した市民は、ディステ領の時同様に他領へと逃れようとするはず。
その市民たちが逃げるとすれば隣接する領となるため、フェリーラ領もまた人が増えることになる。
その対処にまた苦心することになるかもしれない。
「多すぎて手に余る様なら、前回のようにここに連れてきて構いませんよ」
「あぁ、そんときは頼む」
このヴェントレ島は、まだまだ人が増えても問題はない。
レオのスキルのお陰もあって、あと数年でようやく島の半分が開拓できそうだ。
そうなると、多くの土地を用意できることから、色々な職種の人間が増えるのはありがたいことだ。
とは言っても、ディステ領の時とは違ってギルドが撤退したわけではないので、経済的にダメージはあってもそこまで酷いことになるとは思えない。
そのため、レオはそんなに他領へ逃げてくる市民は少ないように思っている。
だが、もしもフェリーラ領に多くの市民が逃れて来て困るような事があれば、ヴェントレ島で受け入れることをファウストに告げておいた。
「話は少し変わるが、湖の進展具合はどうだ?」
「調査と共に駆除しているのですが、やっぱり魔物が多いみたいで……」
「まだしばらくはかかるか?」
「はい……」
ルイゼン領のことはひとまず置いて置き、話はこの島のことに変わった。
数か月前から始めた湖の調査と魔物の駆除作戦は、大きな問題もなく進んでいる。
湖周辺の方はロイたちが頑張ってくれたため、だいぶ魔物の数は減らせることに成功したのだが、イルカ型人形たちの安全を確保して進めたことで、もう目安にしていた夏だというのに調査終了に至らなかった。
まだ魔物の数も多いようなので、今年の内に湖水浴場の解放という訳にはいかないようだ。
「今年は無理そうですが、慌てることでもないのでこのまま地道に進めるつもりです」
今年に利用できるようになったらいいと思っていたが、それも少し難しそうなので来年までに完了すればいいと思っている。
急ぐ事もないので、レオはこのまま安全第一で進めるつもりだ。
「……何ならそこにも町を作ったらどうだ?」
「町ですか?」
湖の側に町を作ることは考えていたが、魔物の駆除も済んでいないので、着手するのはまだ先だと思っていた。
なので、ファウストからの急な提案に思わず聞き返してしまった。
「魔物だらけで放置されていたが、結構な大きさの島だ。最終的に1つに統治するにしても、いくつかの町を作って広げた方が良くないか?
「そうですねここを中心として広げるよりも、その方が発展速度としては良いかもしれないですね」
「だろ? 2ヵ所なんて言わず、なんならもう2つ3つ作っても良いくらいだ」
昔の調査から、この島の大きさは約1500k㎡程という話だ。
騎士爵が与えられるにしては大きく、男爵領といっても良いくらいの大きさをしている。
魔物の多さで放置されていたが、この大きさで町1つとなると王都並みに発展しないと釣り合わないように思える。
ファウストの言うように、幾つかの町を作って発展させていった方が良いかもしれない。
「そうなると町としての形を整えないと……」
「そこはレオのスキルしかないな」
人形たちのお陰で、いくつかの地域は魔物の駆除が済んでいる。
そのため、候補地は幾つかあるが、魔物のいない地というだけで何の手入れもされていない。
そこを町にするにも、整地や防壁の設置など、やはり使えるのはレオのスキルということになる。
「できたらいってくれ。人はこれから流れてくるはずだから」
「……もしかして、流れてきた領民を引き取ってもらうために提案したのですか?」
「それもあるな……」
「まぁ、有意義な提案なので受け入れますよ」
ここでレオは何故ファウストが町づくりを提案してきたのが分かった。
ルイゼン領から逃げてきた市民の多くを、そのままここに送ってしまおうと考えていたようだ。
半分は冗談もあるのだろうが、提案としては間違っていない。
そのため、レオは新しい町づくりを前向きに検討することにした。
◆◆◆◆◆
「バカな!!」
「どうなさいました? 陛下!」
多くの領に防壁が築かれてルイゼン領の孤立が完成し、後は橋やら関所を作って市民の移動を規制しようとしていたのだが、その事業が開始する前にルイゼン領のムツィオからある宣言が、王都のクラウディオに届けられていた。
その書状を見て、クラウディオは怒りの表情で玉座から立ち上がった。
「ムツィオの奴、この国から独立するとかぬかしおった!!」
「なっ!? ……分断されても全く言い訳を言わなかったのはそれが狙いだったのでしょうか?」
宰相のサヴェリオも、その書状に目を通して驚きの表情へと変わる。
このような勝手なことが当然許される訳もない。
クラウディオが怒るのも当然のことだ。
報復行為となる分断行為を申し付けた時、ムツィオは表情を歪めつつも大人しく受け入れた。
その時の事を思い返すと、あの男が一言も弁明もしなかったことが、今となって違和感に思えてきた。
「くそっ! 独立なんて勝手なこと許すわけがないだろうが!!」
独立も何も、ルイゼン領もヴァティーク王国の領地だ。
その土地を貸し与えられているに過ぎない者が、勝手に自分の土地だと宣言するのは許せるわけがない。
「しかし、これはムツィオを潰す絶好の機会では?」
「何っ? ……たしかにそうだな」
怒りで頭に血を上らせるのを抑え、サヴェリオは冷静に思考を巡らせる。
勝手な独立は当然許せないが、これでムツィオを処罰することのできる絶好の好機を得たのではないかと思ったのだ。
そのことを聞いたクラウディオも、怒りを鎮めて納得の表情へと変わっていった。
「よしっ! 他国にこの宣言が届く前にルイゼン領へ攻め入るぞ!」
「ハッ! 畏まりました!!」
独立なんて宣言して、タダで済むはずがないことはムツィオも分かっているはずだ。
当然国を挙げて攻めて来ることも分かっているはずだ。
何を根拠にその自信があるか分からないが、この国の最大の膿ともいえる人間が暴発したのだから、叩き潰させてもらう。
クラウディオの命により、国を挙げてのルイゼン領への侵攻が開始されることになったのだった。