「あまり進んでいないようですね?」

「そうみたいだな……」

 湖調査を開始させて2日経った。
 進展具合が気になったレオは、ガイオと共にまたも湖まで向かうことにした。
 ロイに調査した部分を紙に描いてもらったら、岸から25mくらいの範囲しか調査されていなかった。

「別に人形に問題はないようですが……」

 水中調査兼戦闘用のイルカ型人形を岸に上がらせて、壊れたりしていないか確認してみたのだが、魔力の消費も想定内で特に問題はない。
 湖内で泳ぐ姿を確認しても、変わらず速いままだ。
 進展が少ない原因は、人形たちによるものではないようだ。

「ここも魔物が多いんですかね?」

「みたいだな……」

 岸の側では人形たちが魔物の解体をしている。
 どうやら、イルカ型人形たちが倒した湖内の魔物のようだ。
 人が隠れてしまいそうなほどの小さい山ができている所を見ると、ここも魔物が大量に繁殖しているようだ。

「主に虫だな……」

「そうですね……」

 その小山の死骸を見て、2人は残念そうに呟いた。
 話した通り、山になっているのは主に虫の魔物で、全部が小型犬ほどの大きさをしている。
 タニシやカゲロウやタガメなどの魔物は見たことあるが、他は何の魔物だか分からない。
 何にしても、魚系統の魔物がまだ発見されていないので、食用に期待していた気持ちが萎えたのは仕方がない。

「とりあえず順調に進んでいるってことでいいんじゃないか?」

「そうですね……」

 期待は少々ハズレたが、まだ始めて間もないので気落ちするのも早すぎるかもしれない。
 解体しては焼却している人形たちを見ていると、これだけ駆除できたのだからガイオの言うように順調と言って良いかもしれない。

「それにしてもタニシが多いですね……」

「こんなのがうじゃうじゃいる湖なんて入りたくねえな……」

「近場に泳ぐ用の施設を作った方が速いかもしれないですね」

 虫の死骸の小山の中で一番多いのがタニシの魔物だ。
 繁殖力が高いという話だし、これだけ取れるということは湖底にうじゃうじゃいるのだろうか。
 そう考えると、ガイオの言うようにとてもここで泳ぐ気にならない。
 湖水浴は少し考え直した方が良いかもしれない。
 しかし、水自体は綺麗なので、近くに泳ぐための施設を作れば利用できる。
 そういった施設なら魔物のことは気にしなくて済むので、むしろそっちの方が良いかもしれない。

「……タニシって食べられるんでしたっけ?」

「……俺は食わんぞ」

 タニシを見ていたら、レオは本で読んだあることを思いだした。
 どこかの国でタニシを食べる風習があるというものだ。
 きちんと火を通して寄生虫を殺し、それを調理することで食することができるということだった。
 寄生虫がいると分かっているものを食べるということに抵抗があるからなのか、ガイオは拒否反応を示した。

「サザエに似ているそうですよ」

「……そう聞くと何だか美味そうに思えてくるから不思議だな」

 この島付近でもサザエは取れる。
 食卓にもあがることがあるため、みんな好きな貝類の1つだ。
 レオが本で読んだ知識で作った大和皇国の調味料であるショーユを使ったサザエ料理は、酒のつまみに合うとガイオも気にいっていた。
 サザエというとその味が思い浮かぶのか、ガイオは段々と気が変わった。
 普通のタニシと魔物のタニシで違いがあるかもしれないが、毒さえなければ食べられるはず。
 そのため、タニシの山が一気に食料の山に変わった気がした。

「タガメも食べられるって話ですよ」

「こっちは味が良かろうが、形からいって無理だ!」

 味は分からないが、タガメも食べられるというのを本で読んだことがある。
 そのため、ガイオに勧めてみたのだが、こっちは完全にシャットアウトといった感じだ。
 勧めておいてなんだが、レオも見た目からいって食べたくない。

「でも、食料という意味では、昆虫食も考えないと……」

「無理だな!」

「無理ですね!」

 食料の1つという考えをするのなら、昆虫も食べられるようになることも必要なのではないかとレオは考えた。
 しかし、この虫を食べると考えると、何だか背中に嫌な汗が流れてくる。
 やっぱり見た目が良くないのだろう。
 タニシはチャレンジしてみたいが、タガメは手を出したくないという結論に至った。

「虫でも食べないといけないような日が来ないようにしてもらうしかないな……」

「頑張ります!」

 天候不良などで食料が手に入らなくなり、虫を食べざるを得ないという時が来ないとも限らない。
 しかし、それならそれで何かしらの対応をとってもらうしかない。
 それをやるのが領主の仕事であり、レオの仕事だ。
 そんな日が来るのは低い可能性だが、レオ自身も虫を食べるなんてなるべく避けたいので、改めて食料の備蓄には気を使うことにした。

「タガメは海釣りの撒き餌にでも使えば良いんじゃないか?」

「そうですね」

 海釣りをする時、みんな色々な餌を付けて釣っている。
 もちろん撒き餌もしたりするので、それに使えそうだ。
 撒き餌と食べられるか判断のため、レオはタガメとタニシを少し持って帰ることにした。
 この湖で撒き餌をすると水が汚れる気がするので、ここでは撒き餌に使用する気はない。

「そうだ。2体だけだけどイルカ型人形の追加だよ」

 湖の調査と魔物の駆除を担当するイルカ型人形を、レオはこの2日で2体作ってきた。
 魔物も多いようなので、追加を作ってきて正解だった。
 今の防御重視の方針は、エトーレのためでもある。
 この人形を多く作るには、レオよりも水を弾く布を作るエトーレの負担が高くなるからだ。
 無理してもらいたくないので、ペースを上げるつもりはない。

「攻撃陣を増やしたか……」

「はい。これでスリーマンセルになるので」

 追加したのは槍持ちを2体だ。
 これまで盾4槍6の割合にして防御重視しにしていたが、これで3体一組で戦うというバランスがとれるようになった。

「魔物の素材と魔石は取りに来るけど、戦力はイルカ型人形ができ次第順次追加していくつもりです」

 2体増えて少しは調査と駆除が進むかもしれないが、あの魔物の山を見ているとまだ先は長そうだ。
 総勢12体ではまだまだ足りないようなので、もっとイルカ型人形を作る必要があるだろう。
 とは言っても、作るペースは上げられないので、地道におこなっていくしかないようだ。

「ロイたちも気を付けてね」

“コクッ!”

 ロイたちの部隊は、イルカ型人形たちを岸から援護する役割。
 それと同時に、湖周辺にいる魔物の駆除もおこなっている。
 強化や活動時間の長期化の機能を追加しているが、危険な魔物がいつ出るか分からない。
 そのため、レオは万全に戦えるようにロイたちの魔力を補充してあげた。
 現状を把握できたため、いつものようにロイに一声かけて、レオとガイオは家に戻ることにした。





「おわっ!! またかかった!!」

「大量だ!!」

 帰って早々タガメを潰した撒き餌を使って、ドナートとヴィートに釣りをしてもらった。
 そうしたら、魚の食いつきがよく、入れ食いのような状況になったということだった。
 あまり撒き過ぎると魔物も呼び寄せてしまうかもしれないので、量には気を付けないといけないようだが、タガメは撒き餌に使えるようだ。
 タガメは匂いを発する器官があるということだから、もしかしたらそれが魚を呼び寄せたのかもしれない。

「本当にサザエみたいだ!!」

 本で調べた結果、タニシの魔物はレオの言った通り食べられることが分かった。
 ちゃんと火を通したとは言っても、最初の内はみんな食べるのをためらっていた。
 しかし、ガイオが食べたのをきっかけに、みんな群がるように手にとっていった。
 駆除しないといけない対象だが、有効利用できるものは利用しないともったいない。
 湖調査の思わぬ副産物に、レオは気分が良くなった1日だった。