「結構な大きさですね……」
「あぁ、でかいだろ?」
湖に着いたレオは、見たままの感想を呟いた。
率直に言ってかなりの大きさだった。
「山々から流れてきているんですかね? 水も綺麗です」
湖から少し離れた所には小さい山が幾つかあるのだが、もしかしたらそれらから流れてきた水がここに集まってきているのかもしれない。
山から流れてくる間にろ過されているのか、軽く掬ってみると結構な透明度をしている。
これなら思っていたように泳ぐのにも使えるかもしれない。
「あとは深さと魔物の問題ですね……」
「あぁ、魔物がいたんじゃ人を泳がせるなんて無理だからな」
水質的な問題は大丈夫そうだが、湖水浴として開放するとすると水深が気になる。
しかし、水深を計ろうにも少し問題がある。
それが魔物の有無だ。
1周数十キロはある大きさなだけに、水生魔物が潜んでいてもおかしくない。
もしも魔物がいるようなら駆除しなければならないし、それが済まないうちはとてもではないが湖水浴なんてさせる訳にはいかない。
「しかし、どうしたものか……」
「魔物の駆除方法ですか?」
「その通り。水中で戦うなんて自殺行為だからな」
魔物を駆除するのは良いとして、今度はその駆除方法が問題になった。
ガイオの言うように、泳ぎが得意な水性魔物相手に人間が水中で戦うのは自殺行為だ。
物理攻撃で使えるとしたら刺突系の攻撃だけだし、ほとんどの魔法が使えない。
使えるとしたら無属性魔法くらいのものだろう。
水の外からなら他の魔法も使えるので、戦うとしたら水の外からの攻撃で戦うしかないだろう。
そうなると、湖底に潜む魔物は対処しようがないため、完全駆除という訳にはいかなくなる。
少しでも危険が予想されるようなら、湖水浴場として利用するのは諦めるしかない。
「大丈夫です!」
「何か策があるようだな?」
完全駆除を計るなら、水中での戦闘もしないといけない可能性がある。
ガイオたちが泳げるといっても、先ほども言ったように水中戦闘は危険すぎる。
しかし、自信ありげな発言に、どうやら何か考えがあるのだと感じた。
「はい。僕が水中で戦うのに適した人形を作ればいいんです」
「……ホント便利な能力だ」
馬に蜘蛛といった人形もあるのだから、水中で動き回れる人形を作ってしまえばいい。
たしかにレオならそんな人形を作ってしまうだろう。
どんな状況でも、レオがそれに応じた人形を作り、使えばたいした問題ではなくなる。
そう考えると、ガイオは改めてレオのスキルの万能さを思い知った。
「泳ぎが重要だから魚のような形をしつつ、戦うために両手は欲しい……」
水中で戦える人形と言ったはいいが、どうやらこれから考えるようだ。
そこら辺に落ちていた棒を拾うと、レオは地面に向かってブツブツ言いながら何かを書きだした。
僅かに聞こえる内容からいって、水中戦闘用の人形を描いているようだ。
「こんな感じですかね?」
「あぁ、モデルはマーマンか?」
「はい。泳げて戦えるといったらこれが一番いいかと思いまして」
少しの間黙って見ていると、レオの呟きは治まり、ひとまずイメージはできたようだ。
地面に描かれた絵を見てみると、そこには物語に登場する男性人魚が描かれていた。
人魚をモデルにした有名な子供の絵本がある。
男性人魚のマーマンが、恋人の女性人魚のマーメイドのために世界中の海の宝石を集めてプロポーズするという話しだ。
子供なら男女ともに読んだことがある作品だが、やはりどちらかと言うと女の子の方が好きな作品になっている。
海で動ける人形と考えると、レオも読んだことのあるマーマンがモデルとしてすぐに思いついた。
「それにしても、ガイオさんもあの絵本を読んだことあったんですか?」
「……エレナ嬢に読んでと言われたことあるんだよ」
「あぁ……、納得しました」
すぐに何をモデルにしたのか気付くということは、ガイオもその絵本を読んだと言うことになる。
男の子は母親に読まれて見たことがあるという人間ばかりで、あまり記憶にない人間が半数くらいではないだろうか。
しかも年を重ねるごとに記憶から消えていくため、ガイオ程の年齢の人間が覚えているということは、覚えているほど読み込んだということになる。
渋めのおっさんが女の子向けの絵本を読むということを想像すると、何だか似合わなくて面白く思えてくる。
レオが笑みを浮かべている理由がすぐに分かり、ガイオは少し照れつつ弁明した。
それを言われてたら、すぐに納得いった。
幼少期のエレナが、ガイオに読んでと言っている姿が簡単に想像できたからだ。
「その人形ができない限りここの調査は先送りだな」
「そうですね」
新しい人形ができないと、水生魔物の駆除はお預け状態になる。
それもどれほどの時間がかかるか分からないため、このまま放置するしかない。
出来るとすれば、この湖周辺に寄ってきている魔物を倒して数を減らすぐらいしかないだろう。
「でも、人形の作成はそんなにかかんないと思いますよ」
「そうなのか?」
レオがどれほどのペースで人形を作っているのか分からないので、ガイオとしてはしばらくはこのままといったところだと考えていた。
しかし、作る本人はそう思っていないようだ。
「マーマンをモデルにするなら、上半身はこれまでのと同じでいいので、下半身の製作だけ出来れば完了です」
ロイたちの人形の上半身に、素早い泳ぎをするための下半身を繋げればレオの思いついたマーマン人形の出来上がりだ。
そう考えると、下半身部分さえできてしまえば上半身部分はストックがあるので問題ない。
そのため、レオとしてはそんなに時間がかかることだとは思っていなかった。
「もう作り方分かってんのか?」
「いいえ。ただ、エドモンドさんに相談すればすぐに製作はできると思いますよ」
「あぁ、あの人なら分かるかもな……」
素材と形を揃えれば、見た目だけならすぐにできるかもしれない。
しかし、魔物と戦うには強度の面などで問題になる。
これまで作ったことも無いような形のもののため、難しいのではないかとガイオは思っていたのだが、レオの口調からすると、もう頭の中で出来ているのかと思った。
だが、それは間違いのようで、否定されたことにガイオはツッコミを入れたくなったが、レオの言葉を聞いてそれを収めることになった。
馬型人形や小型蜘蛛人形もエドモンドの助言があって完成した部分もあるため、レオは今回も同じようにするつもりだ。
物作り全般が得意なドワーフのエドモンドなら、魚の構造なども知っている可能性があるので、今回も助言を期待している。
エドモンドの名前が出てくると、ガイオも何だか納得してしまった。
「とりあえず周囲の魔物を倒して帰りますか?」
「そうだな」
次来る時のためにも、湖周辺にいる魔物は削っておいた方が良いだろう。
そのため、レオたちは周囲の魔物を倒して帰ることにした。
とは言っても、その役目はロイたちがやってくれるのだが。
「あっ!」
「どうした?」
「魚がいたので、クオーレとエトーレのために釣っていっていいですか?」
「あぁ、まあいいか……」
この場から動こうとした時、レオが声を出して固まった。
何か起きたのかと思って問いかけると、ただ魚が泳いでいるのが見えただけだったようだ。
ガイオもレオの従魔たちが魚好きだということは知っている。
大量に釣れた時は、いつの間にか近くにいたりして驚かされたりしたものだ。
周囲はロイたちが守ってくれているので、危険なことが起きる可能性は低いだろう。
綺麗な湖と遠くに見える山々。
絵のような風景にせかせかするのももったいないと思い、2人は魚釣りをしてから帰ることにしたのだった。
「あぁ、でかいだろ?」
湖に着いたレオは、見たままの感想を呟いた。
率直に言ってかなりの大きさだった。
「山々から流れてきているんですかね? 水も綺麗です」
湖から少し離れた所には小さい山が幾つかあるのだが、もしかしたらそれらから流れてきた水がここに集まってきているのかもしれない。
山から流れてくる間にろ過されているのか、軽く掬ってみると結構な透明度をしている。
これなら思っていたように泳ぐのにも使えるかもしれない。
「あとは深さと魔物の問題ですね……」
「あぁ、魔物がいたんじゃ人を泳がせるなんて無理だからな」
水質的な問題は大丈夫そうだが、湖水浴として開放するとすると水深が気になる。
しかし、水深を計ろうにも少し問題がある。
それが魔物の有無だ。
1周数十キロはある大きさなだけに、水生魔物が潜んでいてもおかしくない。
もしも魔物がいるようなら駆除しなければならないし、それが済まないうちはとてもではないが湖水浴なんてさせる訳にはいかない。
「しかし、どうしたものか……」
「魔物の駆除方法ですか?」
「その通り。水中で戦うなんて自殺行為だからな」
魔物を駆除するのは良いとして、今度はその駆除方法が問題になった。
ガイオの言うように、泳ぎが得意な水性魔物相手に人間が水中で戦うのは自殺行為だ。
物理攻撃で使えるとしたら刺突系の攻撃だけだし、ほとんどの魔法が使えない。
使えるとしたら無属性魔法くらいのものだろう。
水の外からなら他の魔法も使えるので、戦うとしたら水の外からの攻撃で戦うしかないだろう。
そうなると、湖底に潜む魔物は対処しようがないため、完全駆除という訳にはいかなくなる。
少しでも危険が予想されるようなら、湖水浴場として利用するのは諦めるしかない。
「大丈夫です!」
「何か策があるようだな?」
完全駆除を計るなら、水中での戦闘もしないといけない可能性がある。
ガイオたちが泳げるといっても、先ほども言ったように水中戦闘は危険すぎる。
しかし、自信ありげな発言に、どうやら何か考えがあるのだと感じた。
「はい。僕が水中で戦うのに適した人形を作ればいいんです」
「……ホント便利な能力だ」
馬に蜘蛛といった人形もあるのだから、水中で動き回れる人形を作ってしまえばいい。
たしかにレオならそんな人形を作ってしまうだろう。
どんな状況でも、レオがそれに応じた人形を作り、使えばたいした問題ではなくなる。
そう考えると、ガイオは改めてレオのスキルの万能さを思い知った。
「泳ぎが重要だから魚のような形をしつつ、戦うために両手は欲しい……」
水中で戦える人形と言ったはいいが、どうやらこれから考えるようだ。
そこら辺に落ちていた棒を拾うと、レオは地面に向かってブツブツ言いながら何かを書きだした。
僅かに聞こえる内容からいって、水中戦闘用の人形を描いているようだ。
「こんな感じですかね?」
「あぁ、モデルはマーマンか?」
「はい。泳げて戦えるといったらこれが一番いいかと思いまして」
少しの間黙って見ていると、レオの呟きは治まり、ひとまずイメージはできたようだ。
地面に描かれた絵を見てみると、そこには物語に登場する男性人魚が描かれていた。
人魚をモデルにした有名な子供の絵本がある。
男性人魚のマーマンが、恋人の女性人魚のマーメイドのために世界中の海の宝石を集めてプロポーズするという話しだ。
子供なら男女ともに読んだことがある作品だが、やはりどちらかと言うと女の子の方が好きな作品になっている。
海で動ける人形と考えると、レオも読んだことのあるマーマンがモデルとしてすぐに思いついた。
「それにしても、ガイオさんもあの絵本を読んだことあったんですか?」
「……エレナ嬢に読んでと言われたことあるんだよ」
「あぁ……、納得しました」
すぐに何をモデルにしたのか気付くということは、ガイオもその絵本を読んだと言うことになる。
男の子は母親に読まれて見たことがあるという人間ばかりで、あまり記憶にない人間が半数くらいではないだろうか。
しかも年を重ねるごとに記憶から消えていくため、ガイオ程の年齢の人間が覚えているということは、覚えているほど読み込んだということになる。
渋めのおっさんが女の子向けの絵本を読むということを想像すると、何だか似合わなくて面白く思えてくる。
レオが笑みを浮かべている理由がすぐに分かり、ガイオは少し照れつつ弁明した。
それを言われてたら、すぐに納得いった。
幼少期のエレナが、ガイオに読んでと言っている姿が簡単に想像できたからだ。
「その人形ができない限りここの調査は先送りだな」
「そうですね」
新しい人形ができないと、水生魔物の駆除はお預け状態になる。
それもどれほどの時間がかかるか分からないため、このまま放置するしかない。
出来るとすれば、この湖周辺に寄ってきている魔物を倒して数を減らすぐらいしかないだろう。
「でも、人形の作成はそんなにかかんないと思いますよ」
「そうなのか?」
レオがどれほどのペースで人形を作っているのか分からないので、ガイオとしてはしばらくはこのままといったところだと考えていた。
しかし、作る本人はそう思っていないようだ。
「マーマンをモデルにするなら、上半身はこれまでのと同じでいいので、下半身の製作だけ出来れば完了です」
ロイたちの人形の上半身に、素早い泳ぎをするための下半身を繋げればレオの思いついたマーマン人形の出来上がりだ。
そう考えると、下半身部分さえできてしまえば上半身部分はストックがあるので問題ない。
そのため、レオとしてはそんなに時間がかかることだとは思っていなかった。
「もう作り方分かってんのか?」
「いいえ。ただ、エドモンドさんに相談すればすぐに製作はできると思いますよ」
「あぁ、あの人なら分かるかもな……」
素材と形を揃えれば、見た目だけならすぐにできるかもしれない。
しかし、魔物と戦うには強度の面などで問題になる。
これまで作ったことも無いような形のもののため、難しいのではないかとガイオは思っていたのだが、レオの口調からすると、もう頭の中で出来ているのかと思った。
だが、それは間違いのようで、否定されたことにガイオはツッコミを入れたくなったが、レオの言葉を聞いてそれを収めることになった。
馬型人形や小型蜘蛛人形もエドモンドの助言があって完成した部分もあるため、レオは今回も同じようにするつもりだ。
物作り全般が得意なドワーフのエドモンドなら、魚の構造なども知っている可能性があるので、今回も助言を期待している。
エドモンドの名前が出てくると、ガイオも何だか納得してしまった。
「とりあえず周囲の魔物を倒して帰りますか?」
「そうだな」
次来る時のためにも、湖周辺にいる魔物は削っておいた方が良いだろう。
そのため、レオたちは周囲の魔物を倒して帰ることにした。
とは言っても、その役目はロイたちがやってくれるのだが。
「あっ!」
「どうした?」
「魚がいたので、クオーレとエトーレのために釣っていっていいですか?」
「あぁ、まあいいか……」
この場から動こうとした時、レオが声を出して固まった。
何か起きたのかと思って問いかけると、ただ魚が泳いでいるのが見えただけだったようだ。
ガイオもレオの従魔たちが魚好きだということは知っている。
大量に釣れた時は、いつの間にか近くにいたりして驚かされたりしたものだ。
周囲はロイたちが守ってくれているので、危険なことが起きる可能性は低いだろう。
綺麗な湖と遠くに見える山々。
絵のような風景にせかせかするのももったいないと思い、2人は魚釣りをしてから帰ることにしたのだった。