「そうか……、大本へはたどり着けなかったか……」
遺体となった盗賊たちを検分すると、やはり全員奴隷紋が付けられており、何かしらの制約のせいで彼らは死ぬことになったのだろう。
被害を受けていた町や村の住人は、盗賊の全滅に喜んでいたが、レオたちはそうもいっていられなかった。
盗賊の討伐はある意味では成功したが、その盗賊を裏で組織した者の所まではたどり着けなかった。
そのことを告げると、領主のメルクリオは困ったように言葉を返してきた。
「申しわけありません。協力を申し出たというのに……」
「いや、頭を上げてくれ。ひとまずとはいえ、あっという間の討伐には感謝しているんだ」
「……そういって頂けるとありがたいです」
役に立てると思って、協力をすると言ったのはレオの方だ。
結局大本を逃してしまったのでは、また同じようなことが起きる可能性があるということになる。
そのため、中途半端な協力になってしまい申し訳なく思ったレオは、メルクリオへ頭を下げた。
その謝罪に対し、メルクリオは慌ててレオが頭を下げるのをやめさせる。
レオのスキルを知っているメルクリオは、レオの協力のお陰で盗賊を一掃できたことを知っている。
盗賊の狙いを1ヵ所に集中させることで返り討ちにし、アジトまで潰すことができたのだから、当分の間は同じようなことが起きることはないだろう。
盗賊被害のために大量の兵を派遣する必要は、ひとまずしなくて済むようにはなり、これ以上の出費が抑えられたことにメルクリオは安堵している。
メルクリオの言葉から、どうやら役には立てたようなのでレオは頭を上げることにした。
「それにしても、まさか制約を複数付けられる闇魔法の使い手がいるかもしれないなんて考えもしなかった」
「よりによってルイゼン領にいるというのが問題ですね……」
「あぁ……」
闇魔法を使った奴隷化は、悪用されると厄介だ。
何の罪もない人間を意のままに利用できるうえに、自分の正体がバレそうになるなら始末することができる。
奴隷化された人間をどんなに捕まえても、大本にたどり着けないのではトカゲの尻尾切りと同じでしかない。
それが悪徳貴族で有名なルイゼン領にいるとすれば、怪しいのは領主のムツィオだ。
王への許可なく奴隷化をおこない、その盗賊を組織しての他領へ危害を負わせたのだとしたら、完全に国に対する反逆行為だ。
証拠でも出ようものならルイゼン家は取り潰し、ムツィオは処刑が決定的だ。
「あいつは証拠隠しが上手いからな……。今回も王家の調査から隠れおおせるつもりかもしれない」
ムツィオを断罪したくても、盗賊が全員死んだ今では証拠が得られない。
王室調査官たちも動いてはいるようだが、糸口がなければ彼らもお手上げだろう。
これまでも兄殺しなどの疑惑を逃げきったことからも分かるように、ムツィオは証拠隠しを徹底している。
今回もこのまま疑惑の状態で終わってしまいそうなことに、メルクリオは苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「しかし、話によるとルイゼン領に接する幾つかの領地も同じように盗賊被害を受けているという話だ。今回得た強制奴隷の制約の件を伝えれば、もしかたら何かしらの情報が得られるかもしれない」
「そうですね。それに期待するしかないですね」
メルクリオに言われて知ったことだが、盗賊の被害に遭っていたのはフェリーラ領だけではなかったようだ。
ルイゼン領に面している領で、ムツィオに敵対する領にも盗賊が出現しているのだそうだ。
それだけでもムツィオが怪しいが、証拠の決定打にはなり得ない。
こっちと同じように全員奴隷の盗賊だとしたら、捕まえてすぐにその場で奴隷紋の解呪をするのが最適な方法だ。
成功すれば、デジデリオが最期に言った[仮面の親子]の尻尾くらいは分かるはずだ。
「証拠のあるなしにかかわらず、国は今回のことでルイゼン領に制裁を与えるつもりのようだ」
「盗賊が大量発生していることを気付かなかったという名目でしょうか?」
「その通りだ」
メルクリオの言葉に反応したファウストが制裁する理由を尋ねた。
証拠がないので首謀者として断罪することはできないが、盗族が発生しているのはルイゼン領なのは間違いない。
そうなることは予想できたため、ムツィオは文句を言えないだろう。
「我がフェリーラ領はもう着手にかかっているが、領境に川や壁を造り関所を構え、市民や商人の移動を制限し、ルイゼン領をほぼ封鎖するとのことだ」
他領との行き来が容易にできなくなれば、盗賊が攻め込むことも容易ではないし、今回のように町や村へ攻め入る程の人間を集めてくるのは難しくなるだろう。
そのために、ルイゼン領の封鎖と言うのは分かるが、かなり思い切った行動に出たものだ。
それだけクラウディオ王から目を付けられていたということなのだろう。
「他国との取引は他の領地の港へ任せ、国内の取引も制限されることになるかもしれない」
「経済破綻をさせるのが狙いでしょうか?」
「たぶんそうだろ」
ルイゼン領の主な収入源は、他国との取引と海産物だ。
そのうち、他国との取引による収入が大きいため、それを停止されては収益が格段に減少するだろう。
しかも、海産物を国内で販売することまで制限されては、経済的に大打撃を受けることは間違いない。
兄殺しや盗賊扇動の証拠がないなら、経済的に追い込んで降爵、もしくは領地没収をしてしまおうと国側は考えているのかもしれない。
悪徳貴族の廃絶を狙うクラウディオ王ならそこまでしてくるだろうと、メルクリオの中では予想していた。
「闇魔法使いを見つけられないですかね?」
「そうだな。そいつさえ捕まえることができれば、一気にムツィオを潰せるかもしれないんだがな……」
ルイゼン領の封鎖は良いとして、問題はレオの言うように今回の盗賊たちを奴隷化した者のことだ。
放っておけばまた奴隷を集め始めるかもしれないし、それが更に増えるようなら面倒な事この上ない。
その闇魔法の使い手さえ捕まえることができれば、メルクリオの言うようにムツィオとの繋がりも知れて、潰しにかかることもできたかもしれない。
「国も調査官を派遣しているとは思うんだがな……」
王家直轄の王室調査官の派遣はおこなっているが、付け入る隙を見つけられないでいる。
ムツィオの邸は警備が厳重で侵入も難しいため、手詰まりの状態のようだ。
「ギルドにも捜索をさせましょうか?」
「そうしてもらえるか?」
「はい。姉に言っておきます」
ギルドには多くの情報が入ってくる。
それは、大きなものから小さいものまで様々だ。
もしかしたら、仮面の親子とやらの情報も入ってくるかもしれない。
少数精鋭の王室調査官とは違い、ギルドの数による情報収集もバカにはできない。
ファウストの提案に、メルクリオは乗ることにした。
姉のデメトリアは苦手だが、ことがことなだけにそうも言っていられない。
フェリーラ領エリア担当の姉からなら、ルイゼン領のギルドも動いてくれるだろうと、ファウストはデメトリアへ伝えることにした。
レオとしても、何とか見つけ出して捕まえてほしいところだ。
「…………」
「どうした? レオ」
「いえ、何でもありません」
「……? そうか?」
話も終わりになってきたところで、いつの間にかレオが静かに黙っていることにメルクリオは気付いた。
不思議に思いつつメルクリオが尋ねるが、レオはすぐに元に戻ったため、そこで話を終わりにすることになった。
『もしも、孤立するのが狙いだったら?』
盗賊を使っての領土侵略。
それが最初の予想だったが、メルクリオへの嫌がらせかもしれないとも思えた。
その結果、ルイゼン領はほぼ孤立状態になってしまった。
しかし、もしも最終的な狙いがワザと孤立することなのだとしたらと言う思いが浮かんできた。
そんなことして何のメリットがあるのか分からない。
だが、レオは何故かその考えが頭から離れないでいた。
遺体となった盗賊たちを検分すると、やはり全員奴隷紋が付けられており、何かしらの制約のせいで彼らは死ぬことになったのだろう。
被害を受けていた町や村の住人は、盗賊の全滅に喜んでいたが、レオたちはそうもいっていられなかった。
盗賊の討伐はある意味では成功したが、その盗賊を裏で組織した者の所まではたどり着けなかった。
そのことを告げると、領主のメルクリオは困ったように言葉を返してきた。
「申しわけありません。協力を申し出たというのに……」
「いや、頭を上げてくれ。ひとまずとはいえ、あっという間の討伐には感謝しているんだ」
「……そういって頂けるとありがたいです」
役に立てると思って、協力をすると言ったのはレオの方だ。
結局大本を逃してしまったのでは、また同じようなことが起きる可能性があるということになる。
そのため、中途半端な協力になってしまい申し訳なく思ったレオは、メルクリオへ頭を下げた。
その謝罪に対し、メルクリオは慌ててレオが頭を下げるのをやめさせる。
レオのスキルを知っているメルクリオは、レオの協力のお陰で盗賊を一掃できたことを知っている。
盗賊の狙いを1ヵ所に集中させることで返り討ちにし、アジトまで潰すことができたのだから、当分の間は同じようなことが起きることはないだろう。
盗賊被害のために大量の兵を派遣する必要は、ひとまずしなくて済むようにはなり、これ以上の出費が抑えられたことにメルクリオは安堵している。
メルクリオの言葉から、どうやら役には立てたようなのでレオは頭を上げることにした。
「それにしても、まさか制約を複数付けられる闇魔法の使い手がいるかもしれないなんて考えもしなかった」
「よりによってルイゼン領にいるというのが問題ですね……」
「あぁ……」
闇魔法を使った奴隷化は、悪用されると厄介だ。
何の罪もない人間を意のままに利用できるうえに、自分の正体がバレそうになるなら始末することができる。
奴隷化された人間をどんなに捕まえても、大本にたどり着けないのではトカゲの尻尾切りと同じでしかない。
それが悪徳貴族で有名なルイゼン領にいるとすれば、怪しいのは領主のムツィオだ。
王への許可なく奴隷化をおこない、その盗賊を組織しての他領へ危害を負わせたのだとしたら、完全に国に対する反逆行為だ。
証拠でも出ようものならルイゼン家は取り潰し、ムツィオは処刑が決定的だ。
「あいつは証拠隠しが上手いからな……。今回も王家の調査から隠れおおせるつもりかもしれない」
ムツィオを断罪したくても、盗賊が全員死んだ今では証拠が得られない。
王室調査官たちも動いてはいるようだが、糸口がなければ彼らもお手上げだろう。
これまでも兄殺しなどの疑惑を逃げきったことからも分かるように、ムツィオは証拠隠しを徹底している。
今回もこのまま疑惑の状態で終わってしまいそうなことに、メルクリオは苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「しかし、話によるとルイゼン領に接する幾つかの領地も同じように盗賊被害を受けているという話だ。今回得た強制奴隷の制約の件を伝えれば、もしかたら何かしらの情報が得られるかもしれない」
「そうですね。それに期待するしかないですね」
メルクリオに言われて知ったことだが、盗賊の被害に遭っていたのはフェリーラ領だけではなかったようだ。
ルイゼン領に面している領で、ムツィオに敵対する領にも盗賊が出現しているのだそうだ。
それだけでもムツィオが怪しいが、証拠の決定打にはなり得ない。
こっちと同じように全員奴隷の盗賊だとしたら、捕まえてすぐにその場で奴隷紋の解呪をするのが最適な方法だ。
成功すれば、デジデリオが最期に言った[仮面の親子]の尻尾くらいは分かるはずだ。
「証拠のあるなしにかかわらず、国は今回のことでルイゼン領に制裁を与えるつもりのようだ」
「盗賊が大量発生していることを気付かなかったという名目でしょうか?」
「その通りだ」
メルクリオの言葉に反応したファウストが制裁する理由を尋ねた。
証拠がないので首謀者として断罪することはできないが、盗族が発生しているのはルイゼン領なのは間違いない。
そうなることは予想できたため、ムツィオは文句を言えないだろう。
「我がフェリーラ領はもう着手にかかっているが、領境に川や壁を造り関所を構え、市民や商人の移動を制限し、ルイゼン領をほぼ封鎖するとのことだ」
他領との行き来が容易にできなくなれば、盗賊が攻め込むことも容易ではないし、今回のように町や村へ攻め入る程の人間を集めてくるのは難しくなるだろう。
そのために、ルイゼン領の封鎖と言うのは分かるが、かなり思い切った行動に出たものだ。
それだけクラウディオ王から目を付けられていたということなのだろう。
「他国との取引は他の領地の港へ任せ、国内の取引も制限されることになるかもしれない」
「経済破綻をさせるのが狙いでしょうか?」
「たぶんそうだろ」
ルイゼン領の主な収入源は、他国との取引と海産物だ。
そのうち、他国との取引による収入が大きいため、それを停止されては収益が格段に減少するだろう。
しかも、海産物を国内で販売することまで制限されては、経済的に大打撃を受けることは間違いない。
兄殺しや盗賊扇動の証拠がないなら、経済的に追い込んで降爵、もしくは領地没収をしてしまおうと国側は考えているのかもしれない。
悪徳貴族の廃絶を狙うクラウディオ王ならそこまでしてくるだろうと、メルクリオの中では予想していた。
「闇魔法使いを見つけられないですかね?」
「そうだな。そいつさえ捕まえることができれば、一気にムツィオを潰せるかもしれないんだがな……」
ルイゼン領の封鎖は良いとして、問題はレオの言うように今回の盗賊たちを奴隷化した者のことだ。
放っておけばまた奴隷を集め始めるかもしれないし、それが更に増えるようなら面倒な事この上ない。
その闇魔法の使い手さえ捕まえることができれば、メルクリオの言うようにムツィオとの繋がりも知れて、潰しにかかることもできたかもしれない。
「国も調査官を派遣しているとは思うんだがな……」
王家直轄の王室調査官の派遣はおこなっているが、付け入る隙を見つけられないでいる。
ムツィオの邸は警備が厳重で侵入も難しいため、手詰まりの状態のようだ。
「ギルドにも捜索をさせましょうか?」
「そうしてもらえるか?」
「はい。姉に言っておきます」
ギルドには多くの情報が入ってくる。
それは、大きなものから小さいものまで様々だ。
もしかしたら、仮面の親子とやらの情報も入ってくるかもしれない。
少数精鋭の王室調査官とは違い、ギルドの数による情報収集もバカにはできない。
ファウストの提案に、メルクリオは乗ることにした。
姉のデメトリアは苦手だが、ことがことなだけにそうも言っていられない。
フェリーラ領エリア担当の姉からなら、ルイゼン領のギルドも動いてくれるだろうと、ファウストはデメトリアへ伝えることにした。
レオとしても、何とか見つけ出して捕まえてほしいところだ。
「…………」
「どうした? レオ」
「いえ、何でもありません」
「……? そうか?」
話も終わりになってきたところで、いつの間にかレオが静かに黙っていることにメルクリオは気付いた。
不思議に思いつつメルクリオが尋ねるが、レオはすぐに元に戻ったため、そこで話を終わりにすることになった。
『もしも、孤立するのが狙いだったら?』
盗賊を使っての領土侵略。
それが最初の予想だったが、メルクリオへの嫌がらせかもしれないとも思えた。
その結果、ルイゼン領はほぼ孤立状態になってしまった。
しかし、もしも最終的な狙いがワザと孤立することなのだとしたらと言う思いが浮かんできた。
そんなことして何のメリットがあるのか分からない。
だが、レオは何故かその考えが頭から離れないでいた。