「怪我人も連れて行けよ!」
盗賊のアジトへの襲撃で、多くの盗賊は命を落とした。
酒を飲んで眠っていた者が、異変に気付いて目を覚ました時には火に呑まれていたからだ。
生き残った者たちの中で抵抗しようとした者は少数で、残りの者たちは大概どこかを火傷しており、捕まった後に応急処置程度に回復薬で治されていた。
昼間の戦闘で怪我した者を治療する場所は別の建物になっており、抵抗の恐れなしとして小型蜘蛛たちはそちらは火を付けさせなかったが、そちらと合わせても生き残ったのは50人にも満たなかった。
ここはルイゼン領の管轄、盗賊討伐の理由があるので領内へと入ったが、長居するとルイゼン領の人間に介入される可能性がある。
容疑のかかるルイゼン領の者にこの盗賊たちを取られでもしたら、犯人の情報をもみ消される可能性もあるため、一刻も早くこの盗賊たちを連れてカスタルデの町へ戻り、尋問を開始したい。
それを理解しているセラフィーノは兵たちに指示を出し、捕まえた者たちと怪我人を牢付きの馬車に乗せていった。
「回復薬までは提供されていなかったのか?」
昼間の戦闘で怪我を負った者は、一命をとりとめてはいるものの重症のまま治療用の建物に収容されていた。
回復薬を使えばもう少し治せると思うのだが、それをしていないということは盗賊たちは回復薬を持っていないということになる、
何かしらの存在が背後にいるはずなのに、回復薬がないのは変だとファウストは捕まえたデジデリオに尋ねた。
「金はあったら使っちまう奴ばかりでな。元薬師の見習い程度の奴ならいたが、どれもたいした品質ではなくてな……」
自分も酒や飯に金を使ってしまっていたため人に文句を言えないが、デジデリオは誰かが怪我をした時のために回復薬を造れる者を仲間の中から探した。
全員スラムから連れて来られたはみ出し者たちばかりのため期待していなかったが、2、3人程の人間が回復薬の作り方を知っていた。
しかし、全員作り方はうろ覚えのため、作れた回復薬はかなり精度の低い品ばかり。
それでも使って昼間の怪我人を救おうとしたが、アジトまで連れ帰った半数の人間は治すことができずに息絶えてしまった。
「こんな事なら回復薬だけでも手に入れておけば良かったな……」
「その前に盗賊をしたことを反省しろ!」
確かにデジデリオが言うように回復薬があれば、もう少し助かる人間はいたかもしれない。
しかし、それを言うならと、ファウストはそもそもが間違いなのだと言い聞かす。
「お前たちにも何かしらの制約が付けられているんだろうが、主人を探られるなとかそんな感じの制約なんだろ? 教会に逃げ込めば解除してもらえなかったのか?」
奴隷紋の解除は光魔法の使い手に頼むことができる。
教会の人間は多くが回復の魔法を覚えるために光魔法を練習するため、奴隷解除ができる人間がたいてい1人はいる。
多くの人間が強制隷属をされたと教会に駆け込めば、証拠確認のために国に協力を求めてくれていただろう。
制約とは、奴隷紋を付ける際に主人側が奴隷に付ける条件のことだ。
正式な手続きを取った奴隷は、自殺や逃走不可は当然として、命令順守に主人への攻撃や殺害もできないように縛られている。
しかし、闇魔法の能力が高い人間が強制奴隷化をおこなった場合、他にも制約を付けることはできる。
ただし、かなり闇魔法の能力に適した者でないと難しい。
町に潜入していた者たちのように、仲間以外に奴隷紋を見られたら5人とも死ぬようにすることもできる。
だが、奴隷紋を解除したら死ぬという制約は付けられない。
不当に強制奴隷にされた者を解除できなくては、奴隷で溢れかえってしまう。
そのため、この奴隷紋には解除をさせないようにする制約が付けられないようになっているのだ。
彼らも恐らく奴隷紋に何かしらの制約を付けられているだろうが、盗賊をしないで解除をする方法はあったはずだ。
「集められたのは全員スラム出身だ。奴隷とはいえ飯に困る生活から逃げられたんだ。解除してみんなあの生活には戻りたくなかったんだ……」
「ギルドの仕事でもやりゃあ、その日の飯ぐらい何とかなんだろうが!」
「……今思えばそうかもしれないな」
ギルドには薬草採取など危険が少ない仕事もある。
さすがに何千人もという訳にはいかないが、ギルドで冒険者として働けばその日暮らしはできなくはないはずだ。
人間だから楽に逃げるのはダメだとは言わないが、逃げる方向を間違えてはいけない。
結局のところ、彼らは汗水流しての小銭稼ぎよりも、食と住が保証された盗賊生活の方が楽だと考えたのだ。
ファウストのもっともな言葉に、デジデリオは反省したのか肩を落として俯いていた。
「……ウッ!?」
「んっ?」
俯いたデジデリオを牢に入れ、全員が収容し終わったると、突如捕まえた盗賊たち全員が苦しむような声を洩らしてきた。
レオが慌てて牢の中へ入ると、皆苦悶の表情をして苦しんでいる。
「おいっ! しっかりしろ!」
「ぐぅっ……」
段々と苦しむ声は治まっていく。
気を失ったのではなく、命が失われて行っているようだ。
1人、また1人と声が途切れて行く中、レオはファウスト共にまだ息のあるデジデリオを抱き起した。
意識を確認するようにレオが問いかけるが、反応はいまいち芳しくない。
「おいっ!! お前らを組織したのは誰だ!? 答えろ!!」
折角捕まえたのに、またも尋問できずに全員死なれてしまったでは大元へたどり着けない。
せめて少しでも情報を得ようと、ファウストは死にかけのデジデリオへ問いかける。
すると、僅かに目を開いたデジデリオが、ゆっくりと口を動かし始めた。
「……か…め……んの……」
「仮面の……?」
途切れ途切れではあるが、何とか聞き取れる。
レオはその言葉をリピートして確認をした。
「おや…こ…………」
「まだ駄目だ!!」
「おいっ!!」
[仮面の親子]という言葉を言い終わると、デジデリオは目を閉じて動かなくなってしまった。
そんな抽象的な言葉で終わられては困る。
レオとファウストは、デジデリオをゆすって更なる言葉を待つ。
しかし、結局彼はそれ以上の言葉を発することはなかった。
「くそっ!」
「……一体何が起きたんでしょう?」
デジデリオを最後に、捕まえた盗賊たちは全員息をしなくなってしまった。
これまでの苦労が水の泡になり、ファウストは悔し気な声をあげた。
レオも悔しい思いをしているが、何が起きたのかが分からずに首を傾げた。
「……まさか、牢に入れられたら死ぬとか……」
「だが奴らには奴隷紋を見られたら死ぬ制約が付けられていただろ?」
可能性として考えられるのは、牢に入れたことにより奴隷紋が発動したというもの。
しかし、レオのその考えをファウストは否定する。
確かに盗賊たちには組織した人間を知られないように、制約がかけられていたのは分かっている。
なので、その可能性は低く思われた。
「……もしかして、制約を何個も付けられるような人間がいるのでは?」
「何だと……?」
奴隷に制約を幾つも付けるには、闇魔法の才能と実力に優れた者でないとできない。
だが、そんな人間がいるとしたら国としても放っておくようなことはしない。
王室調査員などのポストにつけるという選択肢もあり得る。
それが放置されているということになると、今回のようなことがまた起きる可能性がある。
レオの言うように、本当にルイゼン領にそんな人間がいるとしたら、かなり厄介なことになる。
「もし僕の考えが正解なら、メルクリオ様に言って、国にも動いてもらうしかないですね……」
「そうだな……」
盗賊を潰すということには成功したが、また新たに問題の残る終わり方になってしまった。
レオとファウストだけでなく、セラフィーノや兵たちもこの結果に悔しい思いをしているのが表情から分かる。
しかし、いつまでもここにいる訳にもいかないため、レオたちは盗賊たちの遺体だけを持ち帰ることになった。
盗賊のアジトへの襲撃で、多くの盗賊は命を落とした。
酒を飲んで眠っていた者が、異変に気付いて目を覚ました時には火に呑まれていたからだ。
生き残った者たちの中で抵抗しようとした者は少数で、残りの者たちは大概どこかを火傷しており、捕まった後に応急処置程度に回復薬で治されていた。
昼間の戦闘で怪我した者を治療する場所は別の建物になっており、抵抗の恐れなしとして小型蜘蛛たちはそちらは火を付けさせなかったが、そちらと合わせても生き残ったのは50人にも満たなかった。
ここはルイゼン領の管轄、盗賊討伐の理由があるので領内へと入ったが、長居するとルイゼン領の人間に介入される可能性がある。
容疑のかかるルイゼン領の者にこの盗賊たちを取られでもしたら、犯人の情報をもみ消される可能性もあるため、一刻も早くこの盗賊たちを連れてカスタルデの町へ戻り、尋問を開始したい。
それを理解しているセラフィーノは兵たちに指示を出し、捕まえた者たちと怪我人を牢付きの馬車に乗せていった。
「回復薬までは提供されていなかったのか?」
昼間の戦闘で怪我を負った者は、一命をとりとめてはいるものの重症のまま治療用の建物に収容されていた。
回復薬を使えばもう少し治せると思うのだが、それをしていないということは盗賊たちは回復薬を持っていないということになる、
何かしらの存在が背後にいるはずなのに、回復薬がないのは変だとファウストは捕まえたデジデリオに尋ねた。
「金はあったら使っちまう奴ばかりでな。元薬師の見習い程度の奴ならいたが、どれもたいした品質ではなくてな……」
自分も酒や飯に金を使ってしまっていたため人に文句を言えないが、デジデリオは誰かが怪我をした時のために回復薬を造れる者を仲間の中から探した。
全員スラムから連れて来られたはみ出し者たちばかりのため期待していなかったが、2、3人程の人間が回復薬の作り方を知っていた。
しかし、全員作り方はうろ覚えのため、作れた回復薬はかなり精度の低い品ばかり。
それでも使って昼間の怪我人を救おうとしたが、アジトまで連れ帰った半数の人間は治すことができずに息絶えてしまった。
「こんな事なら回復薬だけでも手に入れておけば良かったな……」
「その前に盗賊をしたことを反省しろ!」
確かにデジデリオが言うように回復薬があれば、もう少し助かる人間はいたかもしれない。
しかし、それを言うならと、ファウストはそもそもが間違いなのだと言い聞かす。
「お前たちにも何かしらの制約が付けられているんだろうが、主人を探られるなとかそんな感じの制約なんだろ? 教会に逃げ込めば解除してもらえなかったのか?」
奴隷紋の解除は光魔法の使い手に頼むことができる。
教会の人間は多くが回復の魔法を覚えるために光魔法を練習するため、奴隷解除ができる人間がたいてい1人はいる。
多くの人間が強制隷属をされたと教会に駆け込めば、証拠確認のために国に協力を求めてくれていただろう。
制約とは、奴隷紋を付ける際に主人側が奴隷に付ける条件のことだ。
正式な手続きを取った奴隷は、自殺や逃走不可は当然として、命令順守に主人への攻撃や殺害もできないように縛られている。
しかし、闇魔法の能力が高い人間が強制奴隷化をおこなった場合、他にも制約を付けることはできる。
ただし、かなり闇魔法の能力に適した者でないと難しい。
町に潜入していた者たちのように、仲間以外に奴隷紋を見られたら5人とも死ぬようにすることもできる。
だが、奴隷紋を解除したら死ぬという制約は付けられない。
不当に強制奴隷にされた者を解除できなくては、奴隷で溢れかえってしまう。
そのため、この奴隷紋には解除をさせないようにする制約が付けられないようになっているのだ。
彼らも恐らく奴隷紋に何かしらの制約を付けられているだろうが、盗賊をしないで解除をする方法はあったはずだ。
「集められたのは全員スラム出身だ。奴隷とはいえ飯に困る生活から逃げられたんだ。解除してみんなあの生活には戻りたくなかったんだ……」
「ギルドの仕事でもやりゃあ、その日の飯ぐらい何とかなんだろうが!」
「……今思えばそうかもしれないな」
ギルドには薬草採取など危険が少ない仕事もある。
さすがに何千人もという訳にはいかないが、ギルドで冒険者として働けばその日暮らしはできなくはないはずだ。
人間だから楽に逃げるのはダメだとは言わないが、逃げる方向を間違えてはいけない。
結局のところ、彼らは汗水流しての小銭稼ぎよりも、食と住が保証された盗賊生活の方が楽だと考えたのだ。
ファウストのもっともな言葉に、デジデリオは反省したのか肩を落として俯いていた。
「……ウッ!?」
「んっ?」
俯いたデジデリオを牢に入れ、全員が収容し終わったると、突如捕まえた盗賊たち全員が苦しむような声を洩らしてきた。
レオが慌てて牢の中へ入ると、皆苦悶の表情をして苦しんでいる。
「おいっ! しっかりしろ!」
「ぐぅっ……」
段々と苦しむ声は治まっていく。
気を失ったのではなく、命が失われて行っているようだ。
1人、また1人と声が途切れて行く中、レオはファウスト共にまだ息のあるデジデリオを抱き起した。
意識を確認するようにレオが問いかけるが、反応はいまいち芳しくない。
「おいっ!! お前らを組織したのは誰だ!? 答えろ!!」
折角捕まえたのに、またも尋問できずに全員死なれてしまったでは大元へたどり着けない。
せめて少しでも情報を得ようと、ファウストは死にかけのデジデリオへ問いかける。
すると、僅かに目を開いたデジデリオが、ゆっくりと口を動かし始めた。
「……か…め……んの……」
「仮面の……?」
途切れ途切れではあるが、何とか聞き取れる。
レオはその言葉をリピートして確認をした。
「おや…こ…………」
「まだ駄目だ!!」
「おいっ!!」
[仮面の親子]という言葉を言い終わると、デジデリオは目を閉じて動かなくなってしまった。
そんな抽象的な言葉で終わられては困る。
レオとファウストは、デジデリオをゆすって更なる言葉を待つ。
しかし、結局彼はそれ以上の言葉を発することはなかった。
「くそっ!」
「……一体何が起きたんでしょう?」
デジデリオを最後に、捕まえた盗賊たちは全員息をしなくなってしまった。
これまでの苦労が水の泡になり、ファウストは悔し気な声をあげた。
レオも悔しい思いをしているが、何が起きたのかが分からずに首を傾げた。
「……まさか、牢に入れられたら死ぬとか……」
「だが奴らには奴隷紋を見られたら死ぬ制約が付けられていただろ?」
可能性として考えられるのは、牢に入れたことにより奴隷紋が発動したというもの。
しかし、レオのその考えをファウストは否定する。
確かに盗賊たちには組織した人間を知られないように、制約がかけられていたのは分かっている。
なので、その可能性は低く思われた。
「……もしかして、制約を何個も付けられるような人間がいるのでは?」
「何だと……?」
奴隷に制約を幾つも付けるには、闇魔法の才能と実力に優れた者でないとできない。
だが、そんな人間がいるとしたら国としても放っておくようなことはしない。
王室調査員などのポストにつけるという選択肢もあり得る。
それが放置されているということになると、今回のようなことがまた起きる可能性がある。
レオの言うように、本当にルイゼン領にそんな人間がいるとしたら、かなり厄介なことになる。
「もし僕の考えが正解なら、メルクリオ様に言って、国にも動いてもらうしかないですね……」
「そうだな……」
盗賊を潰すということには成功したが、また新たに問題の残る終わり方になってしまった。
レオとファウストだけでなく、セラフィーノや兵たちもこの結果に悔しい思いをしているのが表情から分かる。
しかし、いつまでもここにいる訳にもいかないため、レオたちは盗賊たちの遺体だけを持ち帰ることになった。