「ここがカスタルデの町ですか……」
「あぁ……」
島を出発したレオは、ファウストの案内を受けてようやくカスタルデの町へと到着した。
長い馬車の旅に、お尻を撫でつつレオはファウストへと問いかける。
体を鍛えていても、さすがにこれには慣れない。
「何だか活気がない気がします」
「流石にな……」
遠くから見た防壁の様子からも分かっていたことだが、町には活気がない。
まだヴェントレ島の方がみんな生き生きしているように感じる。
しかし、ドナートが呟いた通りしょうがないことだとレオも理解する。
防壁には所々破壊された痕跡があり、派遣されている兵たちはその修復をおこなっている。
何度も盗賊の襲撃を受け、多くの人間が死傷しているという話だ。
盗賊もまだ仕留めきれていないので、市民は恐怖に怯えながら生活するしかないのだろう。
「ここは王都に近いから本来はもっと活気があったんだがな……」
ファウストも町の今の様子には思う所があるようだ。
以前きた時との違いに、仕方ないとはいえ残念に思っているのだろう。
「じゃあ、何とかしてここを元に戻したいですね」
「あぁ……」
「そのためには、まず盗賊を仕留めないと……」
たしかにレオの言うように、ファウストも昔のように元に戻したい。
そうなると、一番の問題となっている盗賊の殲滅が最優先だ。
それができれば、他の地へ逃れた者たちも戻ってくるかもしれない。
元の活気のある町に戻すためにも、レオは何としても盗賊を仕留めることを決意していた。
「まずはここの総隊長のセラフィーノに会いに行こう」
「はい」
次回盗賊が攻め込んで来た時、レオたちが参戦することはメルクリオからの手紙が届いているはずだ。
しかし、顔を知らないことにはお互い協力のしようが無い。
そのため、レオはファウスト共にここの町を守っている兵を統括している総隊長の所へ挨拶に向かうことにした。
「失礼します! 総長! ファウスト殿がいらっしゃいました」
「おぉ、そうか。謁見室へお通ししろ!」
「ハッ!」
この町の領主の邸の一室を借り、執務室として利用していたセラフィーノは、ノックと共に入室してきた部下に指示を出す。
書類の山に埋もれ、部屋はまさに足の踏み場もない状況の部屋になっている。
さっきまで睨みつけていた書類を置いて、慌てて身だしなみを整えたセラフィーノは、すぐさま謁見室へと向かって行った。
「ようこそおいでくださいました。レオポルド様!」
「えっ? あぁ、はい……」
謁見室に案内されてすぐ、体格のいい男性が入って来た。
入室してすぐ、その男性はレオへ向けて深く頭を下げてきた。
ちょっと仰々しい気がしたため、レオは少し戸惑いながら返事をする。
そしてすぐに、自分が爵位持ちだったことを思いだした。
貴族の子孫ではあっても領地を継ぐのは大体が長男であり、余程に優秀でもなければ彼らは爵位を継げずに平民と同じ位になってしまう。
高位貴族であるなら、婿に行って他家の当主になることも出来るだろうが、下の方の爵位だと婿の貰い手も少ない。
そういった者は、どこかの貴族の兵として雇われて武勲を立てるか、冒険者として生きるかのどちらかの選択をすることになる。
そして、セラフィーノはメルクリオと仲の良かった男爵家の4男だ。
息子の面倒を見てほしいと頼まれ、メルクリオが兵として雇うようになったのだが、そこから自分の力のみで隊長格にまで上り詰めた程の剣の使い手だという話だ。
セラフィーノは貴族の息子といっても爵位はない。
しかし、レオは一番下の騎士爵とは言っても爵位持ち。
このように手厚くもてなされるのは普通のことなのだと、レオは頭の中で切り替えた。
「お迎えに伺えず申し訳ありません! 兵も数人怪我をしておりまして人手も足らない所でして……」
「しょうがないですよ。セラフィーノさんのその髪を見れば大変なのはわかりますから」
「あっ!? ……申し訳ありません」
本来ならば貴族であるレオを率先して迎える立場なのだが、如何せん人手の足らない状況で出来なかった。
失礼なことをしたと分かっているため、セラフィーノは何度もレオに謝罪の言葉を繰り返す。
その態度に嘘はないだろうと感じたレオは、その謝罪を受け入れる。
そして、頭を下げた時に気付いたことを遠回しに伝えて指さした。
最初その指をさした意味が分からなかったセラフィーノだったが、レオが指さした頭を触ってみることですぐに気付くことになった。
頭頂部らへんの髪が跳ねていたのだ。
ずっと市民の生存者や怪我人の名簿を眺めたり、被害状況とその損失金額などの計算もしなければならない。
そのため、寝たのは机で30分だけで、寝ぐせなんかに気付いている暇などなかったのだ。
貴族であるレオとの初見にもかかわらず、見苦しいところを見せたと、若干恥ずかしそうにセラフィーノは寝ぐせを治した頭をもう一度下げたのだった。
「メルクリオ様からの手紙は届いているかい?」
「えぇ、何でも兵を退くようにとのお達しでした。代わりになる兵をファウスト殿が用意したと聞いておりますが?」
「その通りだ」
メルクリオにも顔と名前を覚えられているのと年上なのだからだろうか、セラフィーノは敬語でファウストは砕けた感じで話している。
退く兵の代わりの補充はレオの人形たちによる所なのだが、メルクリオもレオの能力をあまり世間に広めるのは良くないのではないかとなり、ファウストが兵の代わりを補充するということにした。
一応ギルド職員のファウストに手を出そうものなら、冒険者たちからどんな報復をされるか分からないため手を出しにくいだろう。
なので、ファウストを隠れ蓑にすることで、レオの能力拡散を阻止するというのが狙いだ。
「どんな方法かは教えていただけないのでしょうか?」
「…………ここだけの他言無用にしてもらえるか?」
「……ハイ!」
メルクリオからの指示なので従うのは当然なのだが、ある程度の情報を知っていないと他の兵への指示も出しにくい。
せめて、こちらの兵を退く代わりのものが、どこのどんな兵なのかを自分だけは知っておきたい。
そう思いセラフィーノが尋ねると、少し悩むような表情をしたファウストは、セラフィーノに顔を近付けて小声で呟いた。
急に重苦しい感じの空気になったため、セラフィーノは息をのんで決意すると、ファウストの言葉に頷きを返したのだった。
「レオ…ポルド様! 1体出していただけますか?」
「ハイ!」
決意を持った目をしたセラフィーノに、話しておくべきだと判断したファウストは、レオに今回投入する人形を出すことを頼んでくる。
セラフィーノにはため口は良くても、貴族のレオにいつものような話し方では良くないと気付いたファウストは半拍詰まった。
急なファウストの敬語に違和感を覚えつつも、レオは言われた通りに人形を1体魔法の指輪から取り出した。
槍を持ち、軽装とはいえ防具を装着している。
「……これが兵の代わりになるのですか?」
「あぁ、俺がたまたま手に入れた特製の人形だ」
人形を出されても、兵の代わりになるとはいまいち思えないため、セラフィーノは思わず確認するように問いかけてくる。
レオが取り出した人形を、ファウストはわざとギルドのものだということを主張する。
セラフィーノにはだましてしまって悪いが、レオを守るために自分が泥を被るくらいはたいしたことではない。
入手ルートを知ろうにも、元々そんなのないのだから見つけられることもないだろう。
「軽く動いてみてくれるか?」
“コクッ!”
「おぉっ!!」
出てきた人形は、ファウストの言葉に反応するように頭を下げ、槍を振り回し始めた。
人形には事前にファウストの指示を聞くように言ってあるので問題はない。
簡単な型を披露すると、セラフィーノは目を見開いて声をあげた。
「どのような構造なのでしょう?」
「これほどの性能だ。教える訳にはいかない」
「そうでしょうね……」
指示通りに動く人形なのだと理解すると、セラフィーノは人形の全身をくまなく見渡す。
そして、普通だったらそう思うように、どこに動力となる物が存在しているのだと考えた。
動力があるかといえばあるが、それを教える訳にはいかないので、ファウストは秘密ということにした。
ここまでの性能ならたしかに秘匿すべき動力だと理解したセラフィーノは、そのまま素直に受け入れたのだった。
「これが2000体は手に入っている。その分の兵を退いてもらっていいぞ」
「この人形が2000!? なるほど、了解しました」
1体だけでもかなり使える人形が、大量に存在していることに驚きつつも、心強い協力が得られたこと理解したセラフィーノは、その指示を了承したのだった。
「あぁ……」
島を出発したレオは、ファウストの案内を受けてようやくカスタルデの町へと到着した。
長い馬車の旅に、お尻を撫でつつレオはファウストへと問いかける。
体を鍛えていても、さすがにこれには慣れない。
「何だか活気がない気がします」
「流石にな……」
遠くから見た防壁の様子からも分かっていたことだが、町には活気がない。
まだヴェントレ島の方がみんな生き生きしているように感じる。
しかし、ドナートが呟いた通りしょうがないことだとレオも理解する。
防壁には所々破壊された痕跡があり、派遣されている兵たちはその修復をおこなっている。
何度も盗賊の襲撃を受け、多くの人間が死傷しているという話だ。
盗賊もまだ仕留めきれていないので、市民は恐怖に怯えながら生活するしかないのだろう。
「ここは王都に近いから本来はもっと活気があったんだがな……」
ファウストも町の今の様子には思う所があるようだ。
以前きた時との違いに、仕方ないとはいえ残念に思っているのだろう。
「じゃあ、何とかしてここを元に戻したいですね」
「あぁ……」
「そのためには、まず盗賊を仕留めないと……」
たしかにレオの言うように、ファウストも昔のように元に戻したい。
そうなると、一番の問題となっている盗賊の殲滅が最優先だ。
それができれば、他の地へ逃れた者たちも戻ってくるかもしれない。
元の活気のある町に戻すためにも、レオは何としても盗賊を仕留めることを決意していた。
「まずはここの総隊長のセラフィーノに会いに行こう」
「はい」
次回盗賊が攻め込んで来た時、レオたちが参戦することはメルクリオからの手紙が届いているはずだ。
しかし、顔を知らないことにはお互い協力のしようが無い。
そのため、レオはファウスト共にここの町を守っている兵を統括している総隊長の所へ挨拶に向かうことにした。
「失礼します! 総長! ファウスト殿がいらっしゃいました」
「おぉ、そうか。謁見室へお通ししろ!」
「ハッ!」
この町の領主の邸の一室を借り、執務室として利用していたセラフィーノは、ノックと共に入室してきた部下に指示を出す。
書類の山に埋もれ、部屋はまさに足の踏み場もない状況の部屋になっている。
さっきまで睨みつけていた書類を置いて、慌てて身だしなみを整えたセラフィーノは、すぐさま謁見室へと向かって行った。
「ようこそおいでくださいました。レオポルド様!」
「えっ? あぁ、はい……」
謁見室に案内されてすぐ、体格のいい男性が入って来た。
入室してすぐ、その男性はレオへ向けて深く頭を下げてきた。
ちょっと仰々しい気がしたため、レオは少し戸惑いながら返事をする。
そしてすぐに、自分が爵位持ちだったことを思いだした。
貴族の子孫ではあっても領地を継ぐのは大体が長男であり、余程に優秀でもなければ彼らは爵位を継げずに平民と同じ位になってしまう。
高位貴族であるなら、婿に行って他家の当主になることも出来るだろうが、下の方の爵位だと婿の貰い手も少ない。
そういった者は、どこかの貴族の兵として雇われて武勲を立てるか、冒険者として生きるかのどちらかの選択をすることになる。
そして、セラフィーノはメルクリオと仲の良かった男爵家の4男だ。
息子の面倒を見てほしいと頼まれ、メルクリオが兵として雇うようになったのだが、そこから自分の力のみで隊長格にまで上り詰めた程の剣の使い手だという話だ。
セラフィーノは貴族の息子といっても爵位はない。
しかし、レオは一番下の騎士爵とは言っても爵位持ち。
このように手厚くもてなされるのは普通のことなのだと、レオは頭の中で切り替えた。
「お迎えに伺えず申し訳ありません! 兵も数人怪我をしておりまして人手も足らない所でして……」
「しょうがないですよ。セラフィーノさんのその髪を見れば大変なのはわかりますから」
「あっ!? ……申し訳ありません」
本来ならば貴族であるレオを率先して迎える立場なのだが、如何せん人手の足らない状況で出来なかった。
失礼なことをしたと分かっているため、セラフィーノは何度もレオに謝罪の言葉を繰り返す。
その態度に嘘はないだろうと感じたレオは、その謝罪を受け入れる。
そして、頭を下げた時に気付いたことを遠回しに伝えて指さした。
最初その指をさした意味が分からなかったセラフィーノだったが、レオが指さした頭を触ってみることですぐに気付くことになった。
頭頂部らへんの髪が跳ねていたのだ。
ずっと市民の生存者や怪我人の名簿を眺めたり、被害状況とその損失金額などの計算もしなければならない。
そのため、寝たのは机で30分だけで、寝ぐせなんかに気付いている暇などなかったのだ。
貴族であるレオとの初見にもかかわらず、見苦しいところを見せたと、若干恥ずかしそうにセラフィーノは寝ぐせを治した頭をもう一度下げたのだった。
「メルクリオ様からの手紙は届いているかい?」
「えぇ、何でも兵を退くようにとのお達しでした。代わりになる兵をファウスト殿が用意したと聞いておりますが?」
「その通りだ」
メルクリオにも顔と名前を覚えられているのと年上なのだからだろうか、セラフィーノは敬語でファウストは砕けた感じで話している。
退く兵の代わりの補充はレオの人形たちによる所なのだが、メルクリオもレオの能力をあまり世間に広めるのは良くないのではないかとなり、ファウストが兵の代わりを補充するということにした。
一応ギルド職員のファウストに手を出そうものなら、冒険者たちからどんな報復をされるか分からないため手を出しにくいだろう。
なので、ファウストを隠れ蓑にすることで、レオの能力拡散を阻止するというのが狙いだ。
「どんな方法かは教えていただけないのでしょうか?」
「…………ここだけの他言無用にしてもらえるか?」
「……ハイ!」
メルクリオからの指示なので従うのは当然なのだが、ある程度の情報を知っていないと他の兵への指示も出しにくい。
せめて、こちらの兵を退く代わりのものが、どこのどんな兵なのかを自分だけは知っておきたい。
そう思いセラフィーノが尋ねると、少し悩むような表情をしたファウストは、セラフィーノに顔を近付けて小声で呟いた。
急に重苦しい感じの空気になったため、セラフィーノは息をのんで決意すると、ファウストの言葉に頷きを返したのだった。
「レオ…ポルド様! 1体出していただけますか?」
「ハイ!」
決意を持った目をしたセラフィーノに、話しておくべきだと判断したファウストは、レオに今回投入する人形を出すことを頼んでくる。
セラフィーノにはため口は良くても、貴族のレオにいつものような話し方では良くないと気付いたファウストは半拍詰まった。
急なファウストの敬語に違和感を覚えつつも、レオは言われた通りに人形を1体魔法の指輪から取り出した。
槍を持ち、軽装とはいえ防具を装着している。
「……これが兵の代わりになるのですか?」
「あぁ、俺がたまたま手に入れた特製の人形だ」
人形を出されても、兵の代わりになるとはいまいち思えないため、セラフィーノは思わず確認するように問いかけてくる。
レオが取り出した人形を、ファウストはわざとギルドのものだということを主張する。
セラフィーノにはだましてしまって悪いが、レオを守るために自分が泥を被るくらいはたいしたことではない。
入手ルートを知ろうにも、元々そんなのないのだから見つけられることもないだろう。
「軽く動いてみてくれるか?」
“コクッ!”
「おぉっ!!」
出てきた人形は、ファウストの言葉に反応するように頭を下げ、槍を振り回し始めた。
人形には事前にファウストの指示を聞くように言ってあるので問題はない。
簡単な型を披露すると、セラフィーノは目を見開いて声をあげた。
「どのような構造なのでしょう?」
「これほどの性能だ。教える訳にはいかない」
「そうでしょうね……」
指示通りに動く人形なのだと理解すると、セラフィーノは人形の全身をくまなく見渡す。
そして、普通だったらそう思うように、どこに動力となる物が存在しているのだと考えた。
動力があるかといえばあるが、それを教える訳にはいかないので、ファウストは秘密ということにした。
ここまでの性能ならたしかに秘匿すべき動力だと理解したセラフィーノは、そのまま素直に受け入れたのだった。
「これが2000体は手に入っている。その分の兵を退いてもらっていいぞ」
「この人形が2000!? なるほど、了解しました」
1体だけでもかなり使える人形が、大量に存在していることに驚きつつも、心強い協力が得られたこと理解したセラフィーノは、その指示を了承したのだった。