「くそっ!!」
邸の執務室で多くの書類を読み終わると、メルクリオは机を叩きつけた。
書類の中身は、最近出現している盗賊によって受けた町や村の被害を書き記したものだ。
多くの住人が怪我などの被害を受けており、死人も少なからず出ている。
しかも、書類には兵を派遣したことによる費用額も書かれており、かなりの金額が毎月消え去っているのが分かる。
「兵を派遣しているのに、このまま盗賊が減らないのではジリ貧もいいところだ!!」
折角3年前に得た報奨金も、今回のことで吹き飛んでしまった。
兵を派遣したことで被害は減ったが、盗賊を全て討伐したわけではないため、まだ兵を退く訳にもいかない。
被害を受けた住民たちも、再度襲われるのはかなわないと、北へ避難する者も出て来ていて、過疎化が進んできている。
そのため、兵の食料確保などの難航から費用が嵩むという頭の痛いことが続いている。
「このままあの周辺を捨てるべきか……? いや、無理だな……」
フェリーラ領とルイゼン領には大きな川と湖により隔たれており、陸が接している場所は南東部分しかない。
これ以上の費用を抑えるために放棄するという考えも頭に浮かぶが、すぐに自分で否定する。
被害に遭っている南東部分には、王都との交易をおこなう通路の1つが通っている。
そこを失えば、フェリーラ領の西側に経済的な2次被害が起きることになる。
とても放置できるような状況ではない。
「せめて兵の費用を抑えられれば……」
「旦那様。デメトリア殿がお越しになりました」
「そうか。通してくれ」
「了解しました」
盗賊の討伐を完了しない限り兵を退かせるわけにはいかない。
なんとかして領の経営に支障が出ないような金額に抑えられないか、メルクリオは思考を巡らせる。
そこへ執事が入室して来て、ギルド代表のデメトリアの訪問を告げたため、一旦その思考を中断することになった。
主人の許可を得た執事は、すぐにデメトリアを執務室へと連れてきた。
「閣下。愚弟から何やら手紙が届いております」
「あぁ、何だろう……」
フェリーラ領のエリアを取り扱う立場でもあるデメトリアは、今回のことでメルクリオからの協力を受けていたため、冒険者と兵の連携によって盗賊からの襲撃を阻止するための話し合いに来た。
その話し合いを始める前に、デメトリアは弟のファウストから届いていた手紙をメルクリオに渡した。
「……っ!? これは……」
「……? 見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「あぁ……」
手紙を受け取り、内容を確認したメルクリオは目を見開いた。
弟が書いたとは言っても、メルクリオが読む前に開封する訳にはいかないため、デメトリアは手紙に何が書かれているのか分からない。
そのため、何か驚くようなことが書かれているのか気になり、その手紙を自分も見せてもらうことにした。
「……っ!? これを兵の代わりに配備してはどうかということですか?」
内容を見てデメトリアも驚いた。
そこには、ちょうど話し合おうとしていた盗賊対策に関するための策が書かれていた。
ここに書かれている策が成功すれば、一気に盗賊を討伐できるかもしれない。
この策の根幹となるのが、レオの人形となっている。
その人形がそもそも特殊なことになっているため、本当かどうか確認したいところだ。
「そのようだな……、しかし、これが本当ならレオは……」
「えぇ……、1人で軍隊を組織できるということになりますね……」
その人形の説明を読んだ2人は、改めてレオの能力に脅威を覚えたが、心強い協力を得られて光明が見えた思いをしていた。
◆◆◆◆◆
「では、エレナ、ベンさんお願いします」
「はい! レオさん気を付けてください」
「お任せください」
メルクリオから届いた返事は、思っていた通りレオの協力を得るというものだった。
作戦を決行するために、レオは以前のようにドナートとヴィートを連れて、ファウストと共に被害地へと向かうことになった。
領地の経営に関しては、いつものように執事のベンヴェヌートに任せ、その補佐としてエレナに手伝ってもらうことにした。
エレナに手伝ってもらうのは、もしもルイゼン領のムツィオの悪事が暴かれた時、生存を宣言して自分が正当な後継者だということを名乗り出るためだ。
名乗り出て領地を引き継いだ時、少しでも領地経営についての知識と経験を得るため、ベンヴェヌートの手伝いをしてもらうのだ。
その提案をレオから聞いた時、エレナは最初のうちは悩むような表情をしていたが、最後は首を縦に振った。
「しかし、良かったのか?」
「何がでしょう?」
島から離れて行く景色を見ていると、ファウストが話しかけてきた。
その問いの意味が分からず、レオは首を傾げる。
「多くの人間にお前のスキルを知られるかもしれないぞ?」
「心配ですけど、メルクリオ様には助けてもらっていますし……」
今回の作戦にはレオの人形が投入される。
これまでレオは、ある程度の範囲内の人間にしか能力を見せたりしなかった。
その能力を知った人間が、レオを利用しようと狙ってくる可能性があったからだ。
健康状態はもう完全に健康になり、病弱だったことが嘘のようだが、個人としての戦闘力に疑問が残っていたレオ。
しかし、それもこの3年ガイオから剣術指導を受け、ジーノから受けた魔法指導によって、個人としての強さも得た。
いまなら、狙われてもそう簡単には捕まったりやられたりしない自信がある。
それに、メルクリオにはこれまで世話になっている。
その恩を返すためにも今回参加することを決めたのだ。
「それに、実戦でどうなるか試してみたいので……」
強化と細工をおこなった人形の実戦投入。
もちろんメルクリオを助けるために使うのが最大の目的だが、それと同時にレオの中ではどこまで使えるのかを確認したいという思いがあった。
「それは島でも出来たんじゃ……?」
「人間相手のデータも欲しいですから」
「……相手によって人形を変えるのか?」
「はい。それも考えています」
たしかに、ファウストの言うように、島の魔物を相手にすれば実験のデータは取れるはずだ。
だが、人と魔物では動き方が違う。
どんなに強い魔物も、頭が悪ければ一人の人間に負けることだってあり得る。
出来ればどんな相手でも勝てる人形ができればいいのだが、人間相手には人間専用の、魔物相手には魔物専用の人形を作ることも考えた方が良いかもしれない。
そのデータも取れればいいと考えている。
「今回のことが成功すれば、島の対人防衛は強固にできるかもしれません」
「……そ、そうか」
島の防御は、住人の増加と共に兵も増えたため、強固になってきている。
しかし、大軍で攻め込まれたとしたら対応できるか不安が残る、
島に戻れば魔物の対策を練ることはいつでもできるが、対人戦闘の経験は今回のような事でもないと得られない。
経験を得て、レオは島の防衛に利用するつもりだ。
その考えを聞いて、ファウストは僅かに言い淀む。
今回のことでレオの人形が使える事を実証すれば、レオ単体で軍隊並みに戦う力を得ているということと同じことになる。
そうなった時のことを考えると、嫌な考えも浮かんで来る。
強すぎる力には、当然反発する力が生まれる。
それがもしかしたら貴族かもしれないし、最悪のことを考えたら国になるかもしれない。
現王のクラウディオは流石にそんなことはしないかもしれないが、他の貴族の状況次第では、止むを得ず考えを変えるかもしれない。
微かな可能性だが、それがゼロでないのが恐ろしい。
「なるべく俺を利用しろよ」
「……? はい。ありがとうございます」
メルクリオのことを考え、レオには頑張ってもらいたいが、今後のことを考えてあまり活躍し過ぎないようにしてもらいたい。
そのため、ファウストは火の粉を被る役割を果たそうと、自分を頼るように言ってきた。
その真意を知ってか知らずか、レオはとりあえず感謝の言葉をかけたのだった。
邸の執務室で多くの書類を読み終わると、メルクリオは机を叩きつけた。
書類の中身は、最近出現している盗賊によって受けた町や村の被害を書き記したものだ。
多くの住人が怪我などの被害を受けており、死人も少なからず出ている。
しかも、書類には兵を派遣したことによる費用額も書かれており、かなりの金額が毎月消え去っているのが分かる。
「兵を派遣しているのに、このまま盗賊が減らないのではジリ貧もいいところだ!!」
折角3年前に得た報奨金も、今回のことで吹き飛んでしまった。
兵を派遣したことで被害は減ったが、盗賊を全て討伐したわけではないため、まだ兵を退く訳にもいかない。
被害を受けた住民たちも、再度襲われるのはかなわないと、北へ避難する者も出て来ていて、過疎化が進んできている。
そのため、兵の食料確保などの難航から費用が嵩むという頭の痛いことが続いている。
「このままあの周辺を捨てるべきか……? いや、無理だな……」
フェリーラ領とルイゼン領には大きな川と湖により隔たれており、陸が接している場所は南東部分しかない。
これ以上の費用を抑えるために放棄するという考えも頭に浮かぶが、すぐに自分で否定する。
被害に遭っている南東部分には、王都との交易をおこなう通路の1つが通っている。
そこを失えば、フェリーラ領の西側に経済的な2次被害が起きることになる。
とても放置できるような状況ではない。
「せめて兵の費用を抑えられれば……」
「旦那様。デメトリア殿がお越しになりました」
「そうか。通してくれ」
「了解しました」
盗賊の討伐を完了しない限り兵を退かせるわけにはいかない。
なんとかして領の経営に支障が出ないような金額に抑えられないか、メルクリオは思考を巡らせる。
そこへ執事が入室して来て、ギルド代表のデメトリアの訪問を告げたため、一旦その思考を中断することになった。
主人の許可を得た執事は、すぐにデメトリアを執務室へと連れてきた。
「閣下。愚弟から何やら手紙が届いております」
「あぁ、何だろう……」
フェリーラ領のエリアを取り扱う立場でもあるデメトリアは、今回のことでメルクリオからの協力を受けていたため、冒険者と兵の連携によって盗賊からの襲撃を阻止するための話し合いに来た。
その話し合いを始める前に、デメトリアは弟のファウストから届いていた手紙をメルクリオに渡した。
「……っ!? これは……」
「……? 見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「あぁ……」
手紙を受け取り、内容を確認したメルクリオは目を見開いた。
弟が書いたとは言っても、メルクリオが読む前に開封する訳にはいかないため、デメトリアは手紙に何が書かれているのか分からない。
そのため、何か驚くようなことが書かれているのか気になり、その手紙を自分も見せてもらうことにした。
「……っ!? これを兵の代わりに配備してはどうかということですか?」
内容を見てデメトリアも驚いた。
そこには、ちょうど話し合おうとしていた盗賊対策に関するための策が書かれていた。
ここに書かれている策が成功すれば、一気に盗賊を討伐できるかもしれない。
この策の根幹となるのが、レオの人形となっている。
その人形がそもそも特殊なことになっているため、本当かどうか確認したいところだ。
「そのようだな……、しかし、これが本当ならレオは……」
「えぇ……、1人で軍隊を組織できるということになりますね……」
その人形の説明を読んだ2人は、改めてレオの能力に脅威を覚えたが、心強い協力を得られて光明が見えた思いをしていた。
◆◆◆◆◆
「では、エレナ、ベンさんお願いします」
「はい! レオさん気を付けてください」
「お任せください」
メルクリオから届いた返事は、思っていた通りレオの協力を得るというものだった。
作戦を決行するために、レオは以前のようにドナートとヴィートを連れて、ファウストと共に被害地へと向かうことになった。
領地の経営に関しては、いつものように執事のベンヴェヌートに任せ、その補佐としてエレナに手伝ってもらうことにした。
エレナに手伝ってもらうのは、もしもルイゼン領のムツィオの悪事が暴かれた時、生存を宣言して自分が正当な後継者だということを名乗り出るためだ。
名乗り出て領地を引き継いだ時、少しでも領地経営についての知識と経験を得るため、ベンヴェヌートの手伝いをしてもらうのだ。
その提案をレオから聞いた時、エレナは最初のうちは悩むような表情をしていたが、最後は首を縦に振った。
「しかし、良かったのか?」
「何がでしょう?」
島から離れて行く景色を見ていると、ファウストが話しかけてきた。
その問いの意味が分からず、レオは首を傾げる。
「多くの人間にお前のスキルを知られるかもしれないぞ?」
「心配ですけど、メルクリオ様には助けてもらっていますし……」
今回の作戦にはレオの人形が投入される。
これまでレオは、ある程度の範囲内の人間にしか能力を見せたりしなかった。
その能力を知った人間が、レオを利用しようと狙ってくる可能性があったからだ。
健康状態はもう完全に健康になり、病弱だったことが嘘のようだが、個人としての戦闘力に疑問が残っていたレオ。
しかし、それもこの3年ガイオから剣術指導を受け、ジーノから受けた魔法指導によって、個人としての強さも得た。
いまなら、狙われてもそう簡単には捕まったりやられたりしない自信がある。
それに、メルクリオにはこれまで世話になっている。
その恩を返すためにも今回参加することを決めたのだ。
「それに、実戦でどうなるか試してみたいので……」
強化と細工をおこなった人形の実戦投入。
もちろんメルクリオを助けるために使うのが最大の目的だが、それと同時にレオの中ではどこまで使えるのかを確認したいという思いがあった。
「それは島でも出来たんじゃ……?」
「人間相手のデータも欲しいですから」
「……相手によって人形を変えるのか?」
「はい。それも考えています」
たしかに、ファウストの言うように、島の魔物を相手にすれば実験のデータは取れるはずだ。
だが、人と魔物では動き方が違う。
どんなに強い魔物も、頭が悪ければ一人の人間に負けることだってあり得る。
出来ればどんな相手でも勝てる人形ができればいいのだが、人間相手には人間専用の、魔物相手には魔物専用の人形を作ることも考えた方が良いかもしれない。
そのデータも取れればいいと考えている。
「今回のことが成功すれば、島の対人防衛は強固にできるかもしれません」
「……そ、そうか」
島の防御は、住人の増加と共に兵も増えたため、強固になってきている。
しかし、大軍で攻め込まれたとしたら対応できるか不安が残る、
島に戻れば魔物の対策を練ることはいつでもできるが、対人戦闘の経験は今回のような事でもないと得られない。
経験を得て、レオは島の防衛に利用するつもりだ。
その考えを聞いて、ファウストは僅かに言い淀む。
今回のことでレオの人形が使える事を実証すれば、レオ単体で軍隊並みに戦う力を得ているということと同じことになる。
そうなった時のことを考えると、嫌な考えも浮かんで来る。
強すぎる力には、当然反発する力が生まれる。
それがもしかしたら貴族かもしれないし、最悪のことを考えたら国になるかもしれない。
現王のクラウディオは流石にそんなことはしないかもしれないが、他の貴族の状況次第では、止むを得ず考えを変えるかもしれない。
微かな可能性だが、それがゼロでないのが恐ろしい。
「なるべく俺を利用しろよ」
「……? はい。ありがとうございます」
メルクリオのことを考え、レオには頑張ってもらいたいが、今後のことを考えてあまり活躍し過ぎないようにしてもらいたい。
そのため、ファウストは火の粉を被る役割を果たそうと、自分を頼るように言ってきた。
その真意を知ってか知らずか、レオはとりあえず感謝の言葉をかけたのだった。