「そんなに緊張するな。失礼なことでも言わない限り何も起こらない」
「は、はい。しかし、こんなことになるとは思ってもいなかったので……」
玉座の間にて、メルクリオの後方に位置して立つレオ。
これから目の前の玉座に陛下が御成りになると思うと、心臓が口から出てきそうなほどの緊張に苛まれる。
その顔を見たメルクリオは、緊張をほぐそうと優しく話しかけてきた。
領主とは言っても成人したての少年がこのような場所に立つとなると、たしかに緊張するなと言うのが無理かもしれない。
自分も初めてこの部屋に来た時のことを思いだすと、似たような表情をしていたかもしれないと、なんとなく懐かしい思いがした。
部屋の周りに立つ兵たちも、レオの初々しさに微笑みを浮かべている。
「大丈夫だ。もしもの時には私もフォローする」
「よ、よろしくお願いいたします」
王都に着いてからこれまででも、メルクリオには世話になっている。
寝床としてフェリーラ領の領邸に泊めてくれたり、謁見するための衣装も無償で提供してくれた。
これ以上世話になるのも気が引けて、結局レオの緊張は解けることはなかった。
「皆の者! クラウディオ陛下の御成りだ!」
玉座の間に宰相のサヴェリオが登場し、玉座の間に響くように声をあげる。
その言葉を聞いたメルクリオとレオは、頭を下げて片膝をついた状態でその場に座った。
部屋の中が静寂に包まれた中、王であるクラウディオが入ってきて玉座へと向かった。
「面を上げよ!」
「「ハッ!」」
指示に従い、短い返事と共にメルクリオとレオは顔を上げる。
顔を上げた先には、装飾品などは付けていないのにもかかわらず、王としてのオーラのようなものを纏ったクラウディオが玉座に腰かけていた。
「お目にかかれて光栄です。フェリーラ領領主メルクリオ・ディ・フェリーラ。ヴェントレ島の領主レオポルドと共に参上いたしました」
「うむ! よくぞ参った」
王に聞かれた時に返答するのは基本貴族のメルクリオの役割。
そのため、レオは黙って頭を下げる。
なんとなくクラウディオ王と目が合ったような気がしたレオは、慌てて目を下に向ける。
「首謀者の逃げ足が速く捕まえられなかったのは残念だが、今回の件でのそなたの迅速な報告と行動を褒めてつかわす!」
「ありがとう存じます!」
逃げたカロージェロ親子のことを思いだして若干眉をひそめたが、メルクリオの行動に全く落ち度はない。
そのため、クラウディオはすぐに表情を元に戻し、笑顔でメルクリオのことを評価した。
その評価の言葉に、メルクリオは頭を下げて返事をした。
「レオポルドとやら!」
「はっ!」
爵位のない自分が王に面会することへの緊張で、レオは目を合わせることができずクラウディオの足下にばかり目が行っていた。
しかし、クラウディオに声をかけられたため、レオは返事と共に視線を上げた。
「う~む……」
「……?」
名を呼ばれ、レオは何を言われるのか期待していたのだが、レオの顔を少しの間見つめたクラウディオは、何か考え込むような声を呟く。
その呟きに、レオは自分の顔に何かおかしな事があるのか、もしくは何か失礼なことでもしたのだろうかと不安と不思議な思いに包まれた。
「カロージェロによって魔物の蔓延るあの島に送られたと聞いたときは、すぐにやられてしまうと思っていたが、まさか小さいながらも村を作るまでに至るとはたいした手腕だ」
「ありがたきお言葉」
自分が島へ行くことになったほぼ1年前は、まだ王太子の立場だったはず。
それなのに、クラウディオは自分のことを気にかけていてくれたようだ。
そのことだけでも嬉しかったが、自分がコツコツやっていたことが評価され、レオは嬉しくなりにやけそうになるのを抑えて頭を下げた。
「さて、今回お主たち呼び寄せたのは褒賞の話だ。サヴェリオ!」
「ハッ!」
簡単な挨拶のような会話が終わり、本題となる褒賞の話になった。
そして、クラウディオが名を呼ぶと、サヴェリオは褒賞が書かれているであろう書類をクラウディオへと渡した。
「ディステ領は幾つかの地域に解体し、数人の貴族にそれぞれの地域の経営をするように明け渡す。その中には私が信用している貴族とメルクリオ傘下の貴族を選出する!」
「おぉ! ありがたく存じます!」
フェリーラ領の領主であるメルクリオに、更に領地を与えたいところではあるが、そうなるとディステ領は飛び地になるため管理しにくい。
それに、他の貴族としても巨大な領地を1人の貴族が持つことに、納得や許容しない者も出てくるかもしれない。
特にメルクリオより上の爵位である侯爵や公爵位の者たちは、いい気がしないかもしれない。
そのため、メルクリオには直接渡さないが、メルクリオ傘下の貴族に与えることにより、間接的に影響力を大きくすることを意味している。
領地を持てずに燻っていた者たちは、これによりメルクリオに感謝することだろう。
しかし、折角分配できる地を得たのに、メルクリオの傘下だけで分けてはこれまた文句が出る。
そのため、自分が王太子時代に目を付けていた者たちも入れて、多くの者に分け与えたと文句を言わせないようにするという処置だ。
「メルクリオ! そなたにはさらに褒賞金を贈る!」
「ハッっ!」
自分の傘下の貴族たちに領地を与えられる事だけで、メルクリオとしては今回の報酬としては充分だ。
近くの領地で起きた事件が、巡り巡って自分に上がってきたものを、そのまま陛下へ報告したに過ぎないからだ。
それなのに、さらに賞金までもらえることになり、メルクリオは内心でますますレオのことを気に入った。
「そして、レオポルド!」
「ハッ!」
メルクリオが高評価されているのを見て、レオは密かに嬉しく思っていた。
これでフェリーラ領との関係は強いものになった。
もしもの時にエレナのことを頼んでも、きっと保護してもらえると安心した。
自分には何かしらの言葉を与えられて終わりだろうと、内心では思っていた。
「今回のこと、それに領地の経営手腕の褒美として……」
今回のことで何か言葉をもらえるとは思ってはいたが、まさか島の経営についてまで褒められ、レオとしては嬉しい限りだ。
フェリーラ領の領都や初めての王都も見られたし、危険ではあったがある意味有意義な視察になったと思う。
そのうえ、会えることはないだろうと思っていた陛下にも会え、もう充分満ち足りた思いをしていた。
そして、その状態のレオへ、クラウディオは少し間を置いて僅かに口角を上げると、驚きとなる続きの言葉を告げてきた。
「そなたに騎士爵の爵位を贈る!」
「…………」
「……レオ!」
騎士爵位。
この国において貴族と呼ばれる爵位は、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の6つになっている。
騎士爵は最下位の爵位ではあるが、れっきとした貴族位だ。
まさかの爵位の授与に、レオは理解が及ばず頭が真っ白になる。
そのため、返事が遅れてしまい、メルクリオは小声でレオへ注意を促す。
「あっ! ありがたき幸せ!」
ようやくクラウディオの言葉を理解したレオは、メルクリオの言葉に反応して慌てたように頭を深く下げた。
理解したとは言っても、まだ現実感が得られず、今すぐにでも頬をつねって夢かどうか確認したいところだ。
「今後はレオポルド・ディ・ヴェントレを名乗るがよい」
「畏まりました! 陛下とこの国のため、誠心誠意がんばります!」
騎士爵のため、人を集めての大々的なものではないが、この場でクラウディオの剣がレオの肩に添えられる。
簡易的な授与式ではあるが、これによりレオは平民から爵位を得ることになった。
以前のディステと言う家名がなくなってから1年で、新しい家名を得ることになった嬉しさと共に、今後もこの国のために島を発展させようと決意したレオだった。
「は、はい。しかし、こんなことになるとは思ってもいなかったので……」
玉座の間にて、メルクリオの後方に位置して立つレオ。
これから目の前の玉座に陛下が御成りになると思うと、心臓が口から出てきそうなほどの緊張に苛まれる。
その顔を見たメルクリオは、緊張をほぐそうと優しく話しかけてきた。
領主とは言っても成人したての少年がこのような場所に立つとなると、たしかに緊張するなと言うのが無理かもしれない。
自分も初めてこの部屋に来た時のことを思いだすと、似たような表情をしていたかもしれないと、なんとなく懐かしい思いがした。
部屋の周りに立つ兵たちも、レオの初々しさに微笑みを浮かべている。
「大丈夫だ。もしもの時には私もフォローする」
「よ、よろしくお願いいたします」
王都に着いてからこれまででも、メルクリオには世話になっている。
寝床としてフェリーラ領の領邸に泊めてくれたり、謁見するための衣装も無償で提供してくれた。
これ以上世話になるのも気が引けて、結局レオの緊張は解けることはなかった。
「皆の者! クラウディオ陛下の御成りだ!」
玉座の間に宰相のサヴェリオが登場し、玉座の間に響くように声をあげる。
その言葉を聞いたメルクリオとレオは、頭を下げて片膝をついた状態でその場に座った。
部屋の中が静寂に包まれた中、王であるクラウディオが入ってきて玉座へと向かった。
「面を上げよ!」
「「ハッ!」」
指示に従い、短い返事と共にメルクリオとレオは顔を上げる。
顔を上げた先には、装飾品などは付けていないのにもかかわらず、王としてのオーラのようなものを纏ったクラウディオが玉座に腰かけていた。
「お目にかかれて光栄です。フェリーラ領領主メルクリオ・ディ・フェリーラ。ヴェントレ島の領主レオポルドと共に参上いたしました」
「うむ! よくぞ参った」
王に聞かれた時に返答するのは基本貴族のメルクリオの役割。
そのため、レオは黙って頭を下げる。
なんとなくクラウディオ王と目が合ったような気がしたレオは、慌てて目を下に向ける。
「首謀者の逃げ足が速く捕まえられなかったのは残念だが、今回の件でのそなたの迅速な報告と行動を褒めてつかわす!」
「ありがとう存じます!」
逃げたカロージェロ親子のことを思いだして若干眉をひそめたが、メルクリオの行動に全く落ち度はない。
そのため、クラウディオはすぐに表情を元に戻し、笑顔でメルクリオのことを評価した。
その評価の言葉に、メルクリオは頭を下げて返事をした。
「レオポルドとやら!」
「はっ!」
爵位のない自分が王に面会することへの緊張で、レオは目を合わせることができずクラウディオの足下にばかり目が行っていた。
しかし、クラウディオに声をかけられたため、レオは返事と共に視線を上げた。
「う~む……」
「……?」
名を呼ばれ、レオは何を言われるのか期待していたのだが、レオの顔を少しの間見つめたクラウディオは、何か考え込むような声を呟く。
その呟きに、レオは自分の顔に何かおかしな事があるのか、もしくは何か失礼なことでもしたのだろうかと不安と不思議な思いに包まれた。
「カロージェロによって魔物の蔓延るあの島に送られたと聞いたときは、すぐにやられてしまうと思っていたが、まさか小さいながらも村を作るまでに至るとはたいした手腕だ」
「ありがたきお言葉」
自分が島へ行くことになったほぼ1年前は、まだ王太子の立場だったはず。
それなのに、クラウディオは自分のことを気にかけていてくれたようだ。
そのことだけでも嬉しかったが、自分がコツコツやっていたことが評価され、レオは嬉しくなりにやけそうになるのを抑えて頭を下げた。
「さて、今回お主たち呼び寄せたのは褒賞の話だ。サヴェリオ!」
「ハッ!」
簡単な挨拶のような会話が終わり、本題となる褒賞の話になった。
そして、クラウディオが名を呼ぶと、サヴェリオは褒賞が書かれているであろう書類をクラウディオへと渡した。
「ディステ領は幾つかの地域に解体し、数人の貴族にそれぞれの地域の経営をするように明け渡す。その中には私が信用している貴族とメルクリオ傘下の貴族を選出する!」
「おぉ! ありがたく存じます!」
フェリーラ領の領主であるメルクリオに、更に領地を与えたいところではあるが、そうなるとディステ領は飛び地になるため管理しにくい。
それに、他の貴族としても巨大な領地を1人の貴族が持つことに、納得や許容しない者も出てくるかもしれない。
特にメルクリオより上の爵位である侯爵や公爵位の者たちは、いい気がしないかもしれない。
そのため、メルクリオには直接渡さないが、メルクリオ傘下の貴族に与えることにより、間接的に影響力を大きくすることを意味している。
領地を持てずに燻っていた者たちは、これによりメルクリオに感謝することだろう。
しかし、折角分配できる地を得たのに、メルクリオの傘下だけで分けてはこれまた文句が出る。
そのため、自分が王太子時代に目を付けていた者たちも入れて、多くの者に分け与えたと文句を言わせないようにするという処置だ。
「メルクリオ! そなたにはさらに褒賞金を贈る!」
「ハッっ!」
自分の傘下の貴族たちに領地を与えられる事だけで、メルクリオとしては今回の報酬としては充分だ。
近くの領地で起きた事件が、巡り巡って自分に上がってきたものを、そのまま陛下へ報告したに過ぎないからだ。
それなのに、さらに賞金までもらえることになり、メルクリオは内心でますますレオのことを気に入った。
「そして、レオポルド!」
「ハッ!」
メルクリオが高評価されているのを見て、レオは密かに嬉しく思っていた。
これでフェリーラ領との関係は強いものになった。
もしもの時にエレナのことを頼んでも、きっと保護してもらえると安心した。
自分には何かしらの言葉を与えられて終わりだろうと、内心では思っていた。
「今回のこと、それに領地の経営手腕の褒美として……」
今回のことで何か言葉をもらえるとは思ってはいたが、まさか島の経営についてまで褒められ、レオとしては嬉しい限りだ。
フェリーラ領の領都や初めての王都も見られたし、危険ではあったがある意味有意義な視察になったと思う。
そのうえ、会えることはないだろうと思っていた陛下にも会え、もう充分満ち足りた思いをしていた。
そして、その状態のレオへ、クラウディオは少し間を置いて僅かに口角を上げると、驚きとなる続きの言葉を告げてきた。
「そなたに騎士爵の爵位を贈る!」
「…………」
「……レオ!」
騎士爵位。
この国において貴族と呼ばれる爵位は、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の6つになっている。
騎士爵は最下位の爵位ではあるが、れっきとした貴族位だ。
まさかの爵位の授与に、レオは理解が及ばず頭が真っ白になる。
そのため、返事が遅れてしまい、メルクリオは小声でレオへ注意を促す。
「あっ! ありがたき幸せ!」
ようやくクラウディオの言葉を理解したレオは、メルクリオの言葉に反応して慌てたように頭を深く下げた。
理解したとは言っても、まだ現実感が得られず、今すぐにでも頬をつねって夢かどうか確認したいところだ。
「今後はレオポルド・ディ・ヴェントレを名乗るがよい」
「畏まりました! 陛下とこの国のため、誠心誠意がんばります!」
騎士爵のため、人を集めての大々的なものではないが、この場でクラウディオの剣がレオの肩に添えられる。
簡易的な授与式ではあるが、これによりレオは平民から爵位を得ることになった。
以前のディステと言う家名がなくなってから1年で、新しい家名を得ることになった嬉しさと共に、今後もこの国のために島を発展させようと決意したレオだった。