「陛下! 調査官のフィルミーノから報告が届きました!」

「おぉ! 待っていたぞ。サヴェリオ!」

 他領の領主を殺害する命令を出した、ディステ領のカロージェロ。
 爵位を持っていないといっても、領主は王によって任命されている。
 その王命に対する反乱として、カロージェロを内乱罪として処罰するつもりでいた新王クラウディオ。
 調査官のフィルミーノから確実となる証拠も調査したその日に届き、これで逮捕に動けることになった。
 父であるカルノが王の時、特に目についた悪徳貴族の1つがこれで潰せるということに、クラウディオは喜びが隠せないでいた。

「案の定、ディステ伯がかかわっていたか……」

「これで奴も終わりですね」

 王のみが開ける封書を開け、クラウディオはフィルミーノからの報告に目を通す。
 そして、全て読み終えると、サヴェリオにも渡して読ませた。
 内容をザックリ言うと、強制隷属によって殺害依頼者はディステ領のカロージェロ伯爵だということが判明したということだ。
 最近の経済状況だけでも降爵させることも出来るが、今年のみの評価ではそれはできない。
 しかし、内乱罪となる証拠が出た今、逮捕し罰を与えることになる。

「よし! 今は領地へ向かっている所だろう。奴を捕えろ!」

「すでに手の者に捜索を開始させております」

「さすがサヴェリオ。手回しが良いな」

 この国に置いて、内乱罪の首謀者は死刑もしくは終身刑という重罪だ。
 今回のような事案だと、首謀者によって内乱罪と騒乱罪に分かれる。
 首謀者が平民なら騒乱罪となり、犯罪奴隷として数十年の強制労働を強いられることになり、刑期を終えても国外追放とされる。
 貴族が首謀者の場合、権力がある分民衆の扇動をしやすいため、騒動が国全土に広がることになるかもしれない。
 そのため、重罪を与えるのは当然だ。
 亡き妻の実家の領はもう潰れているため、ディステ領の血族はカロージェロと息子2人しかいない。
 血は繋がっていても、狙われたレオは廃嫡されている身のため、当然関係ない。
 カロージェロと息子2人を捕え、調査した後に処罰を言い渡す予定だ。
 そのためも、まずはその3人の確保をすべく指示を出したクラウディオだが、これまでの関係からそれを予期していた宰相のサヴェリオは、すでにカロージェロたちの居場所の調査を部下へと指示していた。
 優秀な右腕の仕事に、クラウディオは感心したように呟いた。

「報告します!!」

「ムッ! どうした!?」

 クラウディオとの話し合いをしていた時に、ちょうどサヴェリオが指示を出していた兵が執務室へと入って来た。
 待っていたカロージェロの現在地が判明したのかと思ったが、兵の表情が優れない。
 何やら嫌な予感のしたサヴェリオは、思わず声が大きくなってしまう。

「ディステ領領主カロージェロとその長男イルミナートを乗せた馬車は領地へとは向かわず、南へ向けて移動したとの報告が……」

「何っ!?」「何だと!?」

 葬儀と5日ミサも済み、カロージェロ親子は今日の内に領へ向かって馬車を走らせていると思われた。
 しかし、自分の領に向かうこともせず、全く関係のないはずの方向へ向かって馬車を走らせたということに、クラウディオとサヴェリオも驚きの声をあげた。

「奴め!! 襲撃の失敗を知って逃げ出したか!?」

「なんて切り替えの早い男だ!!」

 さすが悪巧みに関しての知恵は働く。
 襲撃失敗で自分の身に危険が及ぶと判断したカロージェロが、息子と共に逃げるつもりなのだとクラウディオたちは判断した。
 カロージェロのあまりにも素早い判断と行動に、2人は慌てたように言葉を交わす。

「南となると……、奴ら他国へと逃げるつもりかもしれません!」

「そうだ! 南に港町を持つ領主たちに指示を送れ!! カロージェロ親子の出港阻止、見つけ次第拘束させるんだ!!」

「了解しました!!」

 このまま逃がして他国へ行かれるわけにはいかない。
 どこの国に行こうが、反乱分子の奴らが受け入れられるとも思わない。
 しかし、国内外の後々のことを考えると、前王の時代に王家を舐めていた貴族の見せしめとして奴らの首は利用できる。
 前王とは違うということを示して国の緩みを正さないと、王としての自分のスタートが切れない気がしたのだ。
 クラウディオの指示を受けたサヴェリオも、同じ思いをしている。
 そのため、王都南に隣接する領全域に対し、速達鳥にて王命を飛ばしたのだった。





◆◆◆◆◆

「失礼します!」

「おぉ! よく来た」

 フィルミーノの調査がその日のうちに王へと届けられた翌日、カロージェロ逃走の報告がフェリーラ領のメルクリオにも届いた。
 そのため、メルクリオはすぐにレオたちを邸へ来るように呼び寄せた。

「カロージェロが逃走を図ったとか?」

「その通りだ。私が王都を出発してすぐ南へ向けて馬車を走らせたとのことだ!」

 メルクリオとしてもカロージェロの動向は気になっていた。
 デメトリアからの手紙による報告で、ことは急いだ方が良いだろうと、5日ミサが終了した翌日の早朝に王都を出ることをメルクリオは計画していた。
 王都に長居すれば、もしかしたら自分もカロージェロに命を狙われる可能性も感じていたからだ。
 奴が動く前に移動開始し、その危険もすぐに回避できたが、それでカロージェロは逃走を決意したのではないかと思えてきた。

「しかし、領にはフィオ……、次男のフィオレンツォが残っていたのでは?」

 フィオ兄上と言いそうになったが、すぐにもう関係ない人間だということを思いだしたレオは、すぐに言い直すようにメルクリオへ問いかけた。
 自分はともかく、カロージェロはイルミナートとフィオレンツォのことを大事にしていたと思える。
 逃げ出すにしても、フィオレンツォをどう逃がすつもりなのか首を傾げる。

「見捨てたようだな」

「なっ!! どこまで……!!」

 自分はともかく、大事にしていた息子までも平気で見捨てたという父に、どこまで汚い奴なのだといいかけたレオは怒りを通り越し、呆れて言葉が詰まってしまった。

「王都南の領土全域に向けて、カロージェロ親子を乗せた船を出港させるなと言う命を陛下がお出しになったが、止められるかは怪しいな」

 もしもカロージェロたちが王都から最短の港町へ向かったとなると、速達鳥による王命が届くころには日が暮れている可能性が高い。
 船全部を調べるとなると時間もかかる。
 もしかしたら、出港してしまってからの捜索となってしまうかもしれない。

「逃げたからと言って、奴を受け入れてくれる者がいるとは思えないがな……」

「……そうですね」

 メルクリオの言葉にレオも頷く。
 貴族とは言っても、内乱を企てた犯罪者。
 そんな人間を匿って、ヴァティーク王国との関係を悪くするようなことはしたくないはずだ。
 北に位置するノーサ帝国ならば実力主義のため能力があれば成り上がれるだろうが、あの親子にその実力があるように思えない。
 つまり、どこの国に逃げようと、これまでのような贅沢暮らしは不可能だろう。
 カロージェロ親子の逃走で、誰もがいまひとつスッキリしない終わり方になってしまった。





◆◆◆◆◆

「いや~……助かった!」

「本当だね……」

 南に逃げたカロージェロ親子は、海の上ではなくある邸にて一息ついていた。
 全速力で馬車を走らせたことが祟ったのか、馬車の車輪が壊れてしまった。
 御者に修理をさせていた時、たまたま遭遇したある(・・)貴族によって救われることになったのだ。
 しかもその貴族は、王から自分たち親子の捜索命令が出ていてもお構いなしに匿ってくれるということだった。

「我々を救って頂きありがとうございます!」

 その救ってくれた貴族に対し、カロージェロは再度頭を下げる。
 そして、その者の名を呼んだ。










「ムツィオ(・・・・)伯爵(・・)!」